どれくらい僕は泣いたのだろう。
気が付けば僕は皆と別れた所から随分遠くまで来ていた。そして地面の上でうずくまっていた。
今思うと、どうしてあの時行くあても無く飛び続けたのだろうか…疑問に思う。
あの時は何もかもが必死だったのかもしれない。
『…………』
後ろから気配を感じる。その影は後ろから僕をそっと見守っていた。
そして彼は自分に予想外な事を言ってきた。
『…… ……くん……コレは…君の本当の名前だよね………』
『!!!』
僕は目の色を変えた。それくらい驚いた。自分の本当の名前…
それは「エアームド」では無い…自分本来の名前……その名前はめったに他の者には明かさなかった。
だが彼はそれを知っている。何故だ…!
暗闇の中で僕は彼をじっと見つめた。
彼も俺をじっと見つめている。そして両翼を俺の肩にのせて静かにこう言った。
『確か君はトレーナーのポケモンだったね。彼に何て呼ばれてた?』
『…エアームド…普通にそう呼ばれてました。』
『じゃあ、そのトレーナーは「人間」と呼ばれていたかい?』
『え?』
聞いてる事の意味が一瞬分からなかった。
『違う…彼は皆から「ナオヤ」と呼ばれていました。』
『じゃあ、聞く。…「エアームド」…この名は君の名前か?』
『え?』
俺はハッとした。よく考えると僕も彼も同じ種族も、皆「エアームド」と呼ばれている……。
…逆に言えば「ナオヤ」を「人間」と呼ぶようなものだった。俺は凄まじい矛盾を感じた。
『違う!!俺だって…名前くらいある!!!!「エアームド」は…人間が勝手に作った名前じゃないか!!!』
思わず声が出てしまった。今まで当たり前だと思っていた事が180度、考えが変わった。
『そうだ…私も君も同じ「エアームド」だ。でも「名前」はお互い違うだろう?』
彼の発言に思わず、うなづく。
『私だって本当の名前を持っている。私だけじゃない…どのポケモンだって皆、本当の名前を持ってるんだ。』
そうだ…皆、それぞれ立派な名前を持っている!!それが当たり前だったじゃないか!!
『知らず知らずの内に我々には「エアームド」という統一された名前が人間に付けられたんだ。』
『…自分達は、すっかりそれが当たり前だと思ってたんですね…』
『そう…私だって人間がこのポケモン界に宣戦布告するまですっかりその事を忘れていたんだ。』
『……』
そして疑問が自分の頭を過った。
俺達は人間から単なる戦わせる道具として使われていただけだったのか…?
俺達はその程度ぐらいにしか思われてなかったのか?
友情、愛情、信頼、絆…全て嘘だったのか…?
疑問は全て、疑惑となっていった。
これまで常識だと思っていた事が目の前で崩れていくように感じた。
『本当の名前……教えて下さい………』
自然と口から言葉が出た。彼はすぐに答えてくれた。
『ジョウト第3航空隊……?』
『詳しい事は本拠地で説明するよ。そして君の本当の名前は… ……くん…間違いないね?』
『はい。でもどうして俺の名を知ってるんですか?』
『ずっと前から君の名前は知っている。不思議だね……以前どこかで君と出会った気がするんだ。』
『………あなたは…一体……』
言い終わる前に彼はすぐに次の言葉を言った。
『急いで!もう日が沈んでしまった!早く、ジョウト航空隊本拠地に!!』
『は、はい!』
彼の必死な行動に動揺する暇は無かった。
月明かりの中、僕はリレイドさんに連れられて「ジョウト航空隊本拠地」へと向かった。