Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第9話 先輩】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

人間襲来まで、あと112日。
 
 
悪夢から始まったこの日は自分にとって訓練初日の日となった。
午前6時の自動放送開始を合図に徐々にエントランスの影が増えていく。
「おはよー」
「んー」
「ふぁ~…あと112日で人間来んのか…」
 
様々なポケモン達の声が聞こえる。その声は次第に聞きづらくなっていった。
気がつけばかなりの数になっていた。夢に出てきた群集はこれだったのか……
 
 
「おーっす、エア君!今日から宜しく!」
いきなり後ろから誰かが肩をポンと叩いてきた。しっかりとした声だ。
「あ…宜しくお願いします。えっと名前は…」
「俺か?俺はハヤテって言うんだ。」
彼は人間からピジョットと呼ばれているポケモンだった。
「……と言います。今日から配属される17歳です。」
17歳か…いいなー青春真っ盛りだねぇ……俺は22歳。5歳違いだね!」
ハヤテさんは笑いながら答えてくれた。明るい印象の先輩だ。
 
 
そうか…先輩か……かつて人間にも……尊敬すべき先輩がいたな………。
 
 
「お、もうハヤテと仲良くなったのか!よかったな!」
さりげなく僕達の様子を見ていたリレイドさんが話かけてきた。
「あ!リレイド隊長!俺、この子のパートナーになっていいっすか!?」
 
 
パートナー?師弟関係って意味?
 
 
「おぉそういえばハヤテだけ、まだパートナー経験なかったもんなぁ…」
「そうなんすよ~そろそろ俺も相棒欲しいっす!」
 
 
なるほど…パートナー関係でお互いの生存を確認し合ったりするのか…
 
 
「よし分かった。……君を頼んだぞ……。」
「任せてください。隊長!」
 
 
ハヤテ……どこかで聞いた事あるような気がする…
 
 
「と、言うわけで今日からハヤテがパートナーになる事になったよ。」
「よろしく!……君!」
「は、はい。宜しくお願いします。」
「よし、こっちだ!……君!」
 
先輩はそう言うと自分の手をひいて50ゲートに向かった。
 
「面倒だな…よし飛ぼう!」
「え?」
50ゲートに入った瞬間、いきなり先輩は翼を広げて飛び出した。
自分もそれにつられて狭いトンネルの中を滑空するように飛ぶ。
自分の顔に風が吹きつける。自身が地下鉄になっているような感じがした。
横にある蛍光灯がもの凄い早さで過ぎていく。
一瞬後ろを見ると、後ろからも同じ事をしているポケモン達が迫っている。
 
「階段に注意ね~」
先輩は階段が前に迫っている事をさりげなく教えてくれた。
「階段…」
そう自分が呟いた瞬間、目の前に階段が迫ってきた。
「うぉおッ!ット!あぶなッ!」
 
急いで翼の角度を変えて急上昇した。すぐに次第に差し込む光が強くなってきた。
そして地上のゲートへと飛び出した。
急上昇したままだからすぐに地上へは着陸できない。
 
 
「そのまま旋回してついてきてね~」
彼の飛んだ軌跡に対して後を追うように旋回した後、無事地上へと着陸した。
他の航空隊のポケモンも其々の軌跡を描いて次々と着陸していく。
「へぇー…こうやって集まるのか…」
僕は何もかもが新鮮でただ見とれているだけだった。
「そうだねー。……にとってはこういうのは初めてだよね。」
「はい、初めてです。」
 
 
あれ?今普通に名前呼ばなかった?
 
 
「今日は大規模なTASK1の合同訓練を連合軍全部隊で行う…か…テンション上がるねぇ!」
「あ、そ、そうっすね。午前10時までにカントー地方に行かないといけないんでしたっけ?」
「そうそう。いやー、カントーとか久しぶりだなぁ」
 
 
先輩と色々雑談していると遠くから高い声がした。
 
「ハヤテー!いくよー!!」
 
 
「…ん?」
そう先輩が振り向いた瞬間、先輩の顔に何かが飛んできた。
 
鈍い音が響く。
「ウグッ!!……あ…さ…め…s………」
顔面直撃。直球ストレート。ど真ん中のストライクだ。何気にコントロールが良い。
 
ボール的な役割をしたそれは朝飯だった。そしてキチンと先輩の翼で受け止められた。
「だ、大丈夫ですか?」
先輩は笑いながら答えてくれた。
 
「ん…はは…大丈夫、大丈夫。いつもの事だから。それより君のも来るぞ」
「え?」
 
またあの高い声が聞こえた。
 
「……くーん!いくよー!」
 
すぐにその声の方向に振り向いた。…って、何で俺の名前知ってんの…?ま、いいや。
先輩とは違い、今度はフライで朝飯が飛んできた。何気に今度は高い…
 
「と…と…と………トッ!」
 
無事にキャッチした。翼でキャッチとか結構難しいっての…
「イェーイ!ナイスキャッチー!!」
投げた張本人がそう言いながらこっちに来た。やっぱり女の子だ。
 
ここへ来る途中にもかなりの数のポケモン達に凄い早さで朝飯を渡している。
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイッ!」
「ッと!」
「おぉ!」
「ども!」
「ろっと!」
「ありがと!」
見かけによらず運動能力抜群じゃないか。
しかも結構ふつくしい……あ、いや、何でもない。
 
「ハヤテ!おはよう!」
「まったく…相変わらずだな!アルフィーネ、いつも御苦労さん!」
「どもども!おー君が新しく入った……君だね!アルフィーネって言うの。宜しく♪」
 
すると彼女は手を差し伸べて翼に握手してくれた。
 
「は…はい…宜しくお願いします!」
「頑張ってね!それじゃまた!」
そう言うと彼女は元の係に戻っていった。
 
 
あ…何で名前知っているのか聞くのを忘れていた。
 
 
「面白い奴だろ?アルフィーネって言うんだ。今日は朝飯配る係なんだなぁ。」
「あ…あの…アルフィーネさん、何で僕の名前を知っているんですか?」
「あぁ、多分ミライから聞いたんだと思うな。」
 
「ミライ?」
 
「うん。君と同じ17歳。ジョウト航空隊の情報オペレーターをしているんだ。」
アルフィーネさんと仲いいんですか?」
「うーん、そこはよく分からないなぁ。ミライ、警戒心強いからね。」
「警戒心が強い?」
「うん。でもまぁ、その性格のおかげで的確な情報を出せる能力があると俺は思うけどね。」
「なるほど…」
 
 
ミライか…同じ17歳でも全く自分と違う環境に居るのか…不思議だな。
 
 
「ささ、食べよう!腹減ったし!」
「そうですね。食べましょう!」
僕と先輩は朝飯を食べる事になった。
誰が作ったのかは分からないが美味しい。食べられる事に感謝だ。
 
 
 
そうこうしている内に時刻は午前8時。ジョウト基地出発の時刻が迫った。
「集合!」
リレイドさんの声だ。
いや…ジョウト第3航空隊SP部隊隊長の声っていうべきなのか…
 
 
 
 
“行くよ、……。”
 
 
 
うん。
 
 
 
 
 
 
 
って、あれ?………なんだ…今の……
 
「これからカントーへと飛ぶ。体調の悪い者はいるか?……よし、いないな。」
「隊長!隊長は体調万全ですか!?」
 
『ムードメーカー:ハヤテ』のターンだ。いや『エアーブレーカー:ハヤテ』って言い方もある。
しょうもないシャレだが、おかげで一同に笑みが戻ってきた。
 
「おぅ!隊長は体調万全だ!」
リレイドさんもツッコミ担当のように返す。
「ですよねー!」
 
 
先輩、漫才でもやっていけるんじゃないですか?
 
 
「さ、皆。其々のFlexを付けてくれ。」
「ほい!……君、取ってきてあげたよ。」
いつの間にかハヤテさんが自分のFlexを取ってきてくれていた。
「あ、ありがとうございます!」
 
 
飛行物体特定兼撃墜ポイント表示システム…『Flex』…通信も可能…か…凄いな…。
 
 
「よし、じゃぁ皆行くぞ、カントーへ!」
リレイドさんが力強い口調で言った。
「はい!!」
皆一斉に言った。リレイドさんの統率力、信頼度、おそるべし。
 
 
 
 
 
 
“行くよ、……。”
 
 
 
 
 
 
え?
 
 
 
まただ…何だ…この感覚……
この感覚、何処かで……
 
 
 
「……君、早くこっちに来なよ~!」
先輩の声で幻覚から現実に引き戻された。
 
「は、はい!」
 
ただの夢か…
 
そして、航空隊は全員カントーへと飛び立った。
下で誰かが自分達を見送っている。
 
アルフィーネさんと……もう一人…いる?
 
 
 
 
 
 
「先輩、もしかして…あれが……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「そう…あの子が…ミライ……」