Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第16話 既定】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

人類襲来まであと43日―――――――
 
この日は珍しく雨が降り続いていた。でも訓練は容赦なく今日も行われる。
初日で苦戦しまくった例の『絶望鬼ごっこ』たるものは、もうすっかりウォーミングアップ化していた。
雨の中だと余計体力を使う。お互いの姿が把握しにくいためか、無駄に警戒しなければならなかった。
Flex』だけが頼りだ。まぁ小型レーダーと言えばそれだけの事だが、結構役立つ代物だ。
値段にしたら幾らだろう。プライスレスとでも言っておこうか。「今なら送料無料!」ってのは無さそうだが。
まぁそんなのはどうでもいい。話し出したらキリがない。さっさと本題に入ろう。
 
今日もいつものように日暮れを迎え、訓練終了の時刻になった。
ただ、日暮れと言っても今日は雨雲だらけで実際は夕日など見えない。希望もなかなか見えないけどな。
そしていつものように、就寝前に設けられている2時間ぐらいの自由時間を迎える。
 
「さて…探すか…アルフィーネさんを…」

まさかミライとアルフィーネさんが情報部外で最も近い関係だったとは夢にも思ってなかった。
偶然にしては出来過ぎてるような気がする。でも、これが事実だとしたらますます謎だらけだ。

「えーと、陸上隊はこの辺りか…」

陸上隊の宿舎ブース付近をウロウロする。不審者みたいだな俺。邪心持ってないだけマシか。
数名の陸上隊のポケモン達が第三者から見たら怪しすぎる自分の行動に気付いた。

「そこの若いの、航空隊?」
「あ、はい」
「誰か探してんの?」
「はい。アルフィ…じゃなくて…A-204って方いますか?」
「A-204?サーナイトの事か?」
「あ、はい…」

彼がサーナイトと呟いた瞬間に周りにいた陸上隊の♂ポケモン達が我先にとA-204を語り出す。

「貴様、俺のサナに何か様でもあんのか!?あぁ?」
「そう言うお前もなに『サナは俺の嫁』みたいに言ってんだよ。まぁ俺のパートナーだけどな。」
「んだとぉ!?何時からサナちゃんはてめーのパートナーになったんだよ!」
「んー10日前からですね。」
「おい…お前ら若いもんの前でやめろって…恥ずかしいだろ…」
 
「…………」
やけに馴れ馴れしいな……そんなに人気なのか………
 
「気安くサナサナ言うんじゃねーよ!この変態ども!」
アルフィーネさんが飛ぶようにして登場してきた。死亡フラグ確定だ。あー容赦無いっすねぇ…
「うわ!すんませんすんませ…いだだだだだだだ!!!」
「自重しmフゥォアッ!!ちょそこアッー!!!!」
 
ったく…何だこのセリフ……作者自重しろよ。
 
作者「やだ。」
 
断られた。まぁいいや。
 
「セレン君ちょっと待っててね、今片づけるから♪」
「も…もういいんじゃ…」
「シャア!とどめ刺すぜぇ!!」
「……」
ご愁傷様です…。
 
「謝れ!セレン君に謝れッ!!この変態ッ!!!」
「ぐぁッ!あぐッ!分かった!分かったから!!セレン君!ご!め!ん!な!さ…っ!イッ!」
「あがッ!!セ、セレン君すまなかった!!」
なんか凄い申し訳なく思えるのは気のせいだろうか……

「良く出来ました。……分かればいいのよ分かれば。」
彼らはアルフィーネさんのエスパー地獄から解放された。おめでとうございます。
 
「はい、セレン君お待たせ♪」

何時もの笑顔なアルフィーネさんに戻った。さっきまで凄まじい形相をしていたとは思えない。
こういう時どんな顔すればいいか……あぁ、笑えばいいんだったね。

「はは…」
ぎこちなっ俺。

「あはは取り乱しちゃった。さっきのは忘れて。」
「は、はい。」
何か俺、無意識の内に怖がってないか?ラップ調の喋り方だけは避けたい。

「怖がらせたかな…ゴメンね…」
「いや、大丈夫です。こういうの慣れてますから。」
「おぉ、さすがセレン君!」
よく言った俺。A評価付けてもいいくらいだ。いや、むしろつけてくれ。
「それで、私に何か用があるんだって?」
「はい、ちょっと気になってる事があって…」
「わぉ~、まさかのサプライズかなぁ?」
アルフィーネさん、やけにニヤニヤ度が向上しているように見える…って、何考えてんだ俺の馬鹿。

「いえ、そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて?」
「ミライさん…のことです。」
「………そっかぁ……それでね…」
アルフィーネさんが近くにあった椅子に座った。自分も椅子の前へと移動する。
 
「ミライは私と同じ日にね…ここに来たの。」
「そうなんですか?」
「えぇ、セレン君の来る4日前の事…宣戦布告から2日目に、私とミライはジョウト陸上隊に一緒に入ったの。」
「最初、ミライさんも陸上隊だったんですか?」
「そう、ミライと私は元同僚だったの。こう見えてミライとは結構気が合う関係だったの。」
「こんな事言ったら失礼ですが…意外ですね。」
「うん今になってよく言われる。でも、年齢差なんて気にしないですぐに仲良くなったの。短い間だったけど…」
「どうして過去形なんですか…?」
「時々仕事関係で話すけど、今は以前の様に頻繁に話したり笑い合ったりする事はめっきり減ったわ…」
「どうして…」
「ミライ…セレン君の来る1日前に陸上隊から情報部へ異動になったの。情報処理能力を見込まれてね。」
「……情報処理…能力……」
「彼女は情報部に配属された直後からすぐにその能力を発揮したわ。上司も驚くほどのスピードらしいわ。」
「先輩が言っていた通りだ…」
 
「でも、その異動が彼女の性格を変えたの。」
「え…」







 
次の瞬間今まで聞こえていた雑音が止まった。
雑音だけじゃなく全てが止まっているように見える……アレ…?
本当に…止まってる……?

ふとアルフィーネさんを見ると、目を光らせながら右手を広げ腕を斜め下に伸ばしていた。

 
「時空停止を確認、この空間の時間軸を0にした。」



 
そう言うとアルフィーネさんの目の光は元に戻った。腕も元の位置に戻る。


「ミライは情報部に入ってから性格が変わったの。まるで中身が変わったようにね。」
「………」
「私は何が彼女を変えたのか気になった。そして一つの結論へと辿りついた。」
「一つの結論…」
「『情報による精神改変』。」
「……情報内容に原因が……?」
「おそらくね…ミライの元には軍事関連の様々な情報がリアルタイムで流れてくるから多分その中に…」
「ショックを受ける内容の情報があった…」
「そう、しかもその量は私たちが思っているよりずっと膨大…そして彼女は冷静冷酷で居るしかなくなった。」
 
「………!」
 
「無理も無いわ。でないと、とても対処しきれない…情報量が膨大すぎて処理出来ない。」
「それを出来る能力が『情報処理能力』……」
「……私には絶対に無理な事だった…でも、ミライは凄く優れていた…自分でも確信していたみたい。」
「ミライさんはその事に…」
「気付いてるわ。でも、“もう戻れない。”ってミライは言ってたわ。私は…その時何も言えなかった…」
「…僕もその時のアルフィーネさんと同じ立場だったら何も言えないと思います…」
「…誰も彼女の事を気に留めなかった……私は悔しかった。」
「………」
「でも彼女は気にしてなかった。本当はね…ミライは他の者の役に立ちたいと思う優しい子なの…」
「………」
「本当は心優しい17歳の女の子なのに……情報が変えた。全てを。」


 
俺は情報というものを甞めていた。そして恐怖を感じた。
知りたくも無いのに知ってしまう情報…それを見た時、俺ならどんな事を思うだろうか。
きっと尋常じゃない内容もある。でも、ミライは何も動じる姿を見せはしない。
感情が無いのか…いや、それはあり得ない。彼女だって自分と同じ今を生きる17歳の若者だ。
…何故だろう。無性に放っておけない気持ちが込み上げてくる。
彼女が必死で俺に伝えようとしたあの言葉…テレパシーだとしても…かなりの勇気を出したはずだ。
その意思を見過ごすのは勿体無いというか、このままではいけない気がする。
知らぬが仏。その通りと言えばその通りだが…
触らぬ神に祟り無し…でも、本当にそれでよかったのだろうか…何かを見落としている気がしてならない。
 
アルフィーネさん…」
不意に声が出た。

「何?」
「ミライさんは…エスパーじゃないですよね。」
「違うと思うけど…何で?」
「いえ、何でもありません…ただ…」
「ただ?」
「…何となくそんな気がしたんです。」
「確かに。彼女らしいもんね。」
そう言うとアルフィーネさんは再び、目を光らせながら右手を広げ腕を斜め下に伸ばした。

 
「時空停止解除、この空間の時間軸を既定値に戻す。」


 
そう言うとアルフィーネさんの目の光は元に戻った。腕も元の位置に戻る。
止まっていた時間が再び動き始めた。時計を見ると止まった時間から随分経っていたことが分かる。
つまり、自分達がいるこの空間だけが止まっていた訳だ。周りからは分からないらしい。
今話したミライの情報は誰にも聞かれたくなかったために時間を止めたのだとアルフィーネさんは言う。


「…いいな、アルフィーネさんは強くて。」
「え?」
「さっきの乱闘は凄かったです。」
「あぁ、あれね。セレン君の前ではちょっと恥ずかしかったな。」
「いやいや、カッコ良かったですよ。強いんだなーって見直しました。」
「そ、そうかな…ありがとう。」
苦笑いを交えながら若干の照れ。よくありそうなパターンで中々見かけなかったりする。
でも、感謝されるというのは純粋に嬉しい。「ありがとう」と言われて不快に思う方はまずいないだろう。
「セレン君…」
「何ですか?」
「ミライの事…誤解しないであげてね。」
「分かってますよ。彼女は自分と少し似ている点があると思っています。」
「似ている点?」
「上手く言葉には出来ませんが、何処か自分と似ているような感じがするんです。」
「…そっか…それがセレン君の出した結論ね。」
「はい。」
「分かった。今日はありがとね。」
「はい、こちらこそありがとうございました。」





 
また会おうね。





 
「えっ?」
「先輩として♪」
「あ…はい。」


一瞬、自分の脳裏に何かが過った。
何かとてつもない恐ろしいものが。何なんだ今のは…

 
俺は陸上隊宿舎を後にし、航空隊への宿舎へと戻る。
ふと後ろを見るとアルフィーネさんが笑顔で手を振って見送ってくれていた。
自分も笑顔で翼を振ってそれに答えた。翼を振っている内に脳裏に浮かんだ事はもう忘れていた。

「これでいいんだよな」

そう自分に言い聞かせて元の宿舎へと戻った。宿舎ではいつものメンバーが待っている。

「エア君どこ行ってたんだ?」
相変わらずハヤテ先輩は時々自分の事を『エア君』と呼ぶ。何気に気に入ってるらしい。

「ちょっと用事があって…」
「ははーん、用事にも色々ありましてね~」

先輩がやけにニヤついた表情で見る。さすが同類、♂。

「何なんスかw」
「彼女かい?」
「違いますッ!他の方々に色々コンタクトとかしてたんです!」

嘘の様で嘘じゃない答え…いや、やっぱ嘘だ。まぁつかなきゃならない嘘もある。

「はは、冗談だよ。あーあ、彼女欲しいなぁ。」

そう言うと先輩はとっとと就寝タイムに突入した。ハッキリしてて如何にも先輩らしかった。
最初は頼りなさそうに見えた先輩も段々輝いている存在に思えてきた。子供っぽいところもあるが。
それはそれでいいのだと思う。むしろ、その方が自分としては好みに思えたりする。

「やあ、セレン。調子はどうだい?」
「あ、えっと…」
父さ…じゃなくて隊長が話しかけてきた。

「今、父さんって言うか隊長って言うか悩んだろ?」
自分の心を見抜いた。さすが、父さん。
「おっしゃる通りで…」
「ははは、ここでは父さんでも構わんよ。ただ訓練中は隊長にしてくれよ?」

笑いながら答える姿にホッとした。

「分かったよ、父さん。調子はいつも通り大丈夫。」
「そうか、良かった。明日も頑張ろうな。」
「うん。」

そう言うと父さんも自分の寝床へと帰っていた。気が付くともう就寝時間になっていた。
んじゃ俺も寝るわ。おやすみ。