Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第26話 暴露】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

“何だ、せっかくの歌なのに拍手も無しとは酷いなぁーいい歌だろ?”
 
「シークさん…あれ何すか…」
「………」
單冠湾は異様な雰囲気に包まれていた。男の声が辺りに響き渡る。
 
“ッハハハ!いやぁ面白ぇ、マジ面白いわぁ。君らはあれか?我々を敵だと思ってるのかな?”
 
 
ポケモン連合軍上層部。
「情報部、音声の録音はしているな。」
「はい、既に開始しています。」
「あれは無人船に見せかけた情報機器を積み込んだ工作船…さっきの情報操作もあの船からだ。」
「どうしますか?破壊しますか?」
「待て。あのメッセージに重要な意味がチラホラ含まれている。破壊は最後まで聴きとってからだ。」
「了解しました。破壊命令はそちらにお任せします。」
「分かった。」
 
 
“何?何さっきからジロジロ見てんですかぁ?バレバレですよーっと、もうちょっと考えようねぇ~君達”
 
「こいつ…」
「動揺するな。これは心理戦だ」
 
“あれぇ?心理戦だとか思っちゃってる感じですか?アニメの見過ぎなんじゃないの~?”
 
Q-8964「シンオウ本拠地…指示を」
#4-1「…………」
Q-8964「シンオウ情報部、指示願います!」
#4-1「…そのまま待機」
Q-8964「どうしてですか!このまま好き放題言わせとくんですか!」
#4-1「今は上層部から最後まであのメッセージを聴きとるよう指示が出ている。全部隊そのまま待機だ。」
Q-8964「…分かりました。」
プッ
―― 状況終了 ――
 
“あーあつまんねぇ、もうちょい積極的なんだと思ったんだけどなぁ~黙って逃避行かっての”
「グダグダ…グダグダ…うっせぇ…」
 
“どうよ?世間は春だよ?桜が綺麗になる季節だねぇ。なのに君達は引きこもって今日も逃避行!ハハハハ!”
“メシウマだねぇ!久しぶりにメシが美味いよアハハハッ!いやぁ君達には関係ないかハハハ腹痛ぇハハハ…”
 
皆黙ってた。言葉という静かな猛攻撃に。
 
 
“にしても君達哀れだよなぁ、別に感情なんてもん必要無ぇだろ?でも長年放っておいたからなぁー全く全く”
 
「ここ…」
「これだ…重要なメッセージ…!」
「さぁ言え…言いやがれこの糞野郎…」
 
“何年もメンテ放って置くんじゃ無かったわ、いやぁ不覚だった不覚だった。おかげで余計なもん付いちまったな”
 
メンテ…?余計なもん…?
 
“お前ら自分達でおかしいと思わねーのか?だったらそこまでバレちゃいねぇみたいだな良かった良かった”
 
「…感情…」
「え?」
「…感情を持つ事自体…おかしいって事…?」
ミライは逸早く答えが分かった。その通りだった。
 
“まぁバレたところで別に何も変わんねぇけどさ。お前らは所詮、一定の流れの中にいるだけの存在だからな”
 
「ふ…ふふふ…」
「…ミライちゃん?」
「セレン…言っていた事…当たったよ…」
「…?」
「私達は所詮、操られる存在そのもの…それを変えるためにあなたがいる……誰かに造られたみたいに……」
「俺達って……」
「そうです…先輩、私達は…」
 
造られしものなんです――――――――
 
ポケモン連合軍上層部。
「…暴露しやがったな…」
「どうしますか?破壊に移りますか?」
「まぁ待て、最後まで絞り上げろ。破壊準備をしておけ。」
「了解。それとは別ですが、どうしますか?あの音声に答えるポケモンを配置しますか?」
「そうだな…判断力優秀なポケモンに担当させよう。」
「では、今航空隊T部隊で最も近い特派員“S-99423”に担当させます。
 
 
“いやーこっちの世界も中々リアリティあるじゃない。数年放っておいただけでここまでとは。感心するねぇ”
 
#4-1「こちらシンオウ情報部、シンオウ第1航空隊カササギ応答せよ。」
Q-8964「こちらシンオウ第1航空隊カササギ、シンオウ情報部どうぞ。」
#4-1「近くにS-99423は居るか?」
Q-8964「はい居ます」
#4-1「先程、上層部からS-99423にあの音声の受け答え役を担当するよう指示が出された。」
Q-8964「あの音声にですか?…了解しました。伝えときます。」
#4-1「あとS-99423にFlexの受信周波数をシンオウに変えとくように指示してくれ。」
Q-8964「受信周波数?」
#4-1「S-99423のFlexカントーの周波数になったままなんだ。シンオウに直すように言ってくれ。」
Q-8964「了解しました。では送信状態を維持しますので、状況によって次の指示を出して下さい。」
#4-1「そうするつもりだ、では頑張ってくれ。」
プッ
―― 状況終了 ――
 
「シークさん、シンオウ情報部から……との事です。」
「あぁ分かってる。周波数は不覚だったけどな。では…さっそくやっちまいますかっと。」
「シークさん、破壊はまだですよ。」
「分かってる分かってる。」
 
そう言ってシークは船影へと近付いていった。数分もしない内に船のすぐ傍まで辿りついた。
 
「何だこりゃ…」
シークがそういうのも無理は無かった。何せそこにあったのは夥しい数のアンテナ群だったからだ。
情報部が言った通り、船内に人影は見当たらずその気配すらない。まるで捨てられ船のような感じだった。
「明らかに、こりゃフェリーだ。ただ改造されて工作船扱いになってやがるな。」
 
その時、またあの声が再び聞こえた。
 
“やぁこれはこれは、デオキシスじゃないっすか!いきなりレア出現キタ―――――――ッ!”
 「早速反応してやがんな。おい、お前ら何処から俺を見てやがる。」
 
“お、話せるんだ。声優、誰?ねぇ誰!?”
「俺の声に決まってんだろが、アホか。」
 
“なーんだ、つまんなーいのー。えぇつかマジ!?デジマ!?っべっぱねぇ!いい声してんじゃん!イケボー!”
「早く答えろ。ぶち殺すぞ。」
 
“まぁ焦んなって。破壊したって困るのはお前らなんじゃないの?せっかくの情報源が消えちゃうよぉ?”
「お前らの方こそいいのか?どんどん情報暴露してんぞ。」
 
“おや、面白い事をおっしゃいますねぇデオキシス君。でも残念、知った所で君達にはきっと理解できない~♪”
「歌へたくそだな」
 
“今流行りの毒舌キャラですかぁ?いやぁよく無いなぁ。実によく無いねぇ。変な影響受けちゃってるのね。”
「さぁて、そんな事言ってる間にお前らは無駄な時間を過ごしている。早くしないと減給させられちゃうよぉ?」
 
“ッハハハ、いいねぇ君。いい度胸だ。さすがここに来るだけの事はあるなぁ。何カッコイイとか思ってるわけ?”
「カッコイイも何もそういう態度がさっきから俺は気に入らないねぇ。嫉妬心満載だなお前。」
 
“そういう君はどうよ?自分上手く言葉受け流してんじゃん、やるーっとか心の中で思ってんじゃないですかぁ?”
「お前今までそうやって生きてきたんだな。素直になれない大人、いやぁ滑稽だねぇ。笑い死にそうだわ。」
 
“……いつまでも好き勝手言ってんじゃねぇぞ。このビットが。”
「おっとぉ、謎ワードキタコレ。お?怒った?怒っちゃったのかなぁ?大変だー大変だー」
 
“伝説だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!伝説厨に弄ばれるだけの存在が!!!”
「余計なお世話だ っと!危ねぇ危ねぇ」
 
甲板から突如、大量のモンスターボールがシーク目掛けて飛んできた。
いや、モンスターボールと呼ぶにはあまりにもかけ離れたものだった。今まで見た事が無い形状をしていた。
「訳分かんねぇもん投げてくんじゃねぇよ っと!」
 
“ブレインボール。捕えられたら洗脳されてアボーンだ。今風に言うとポポポポ~ンだ。”
 
「面白く言ったつもりだろうが残念だな!とっくにその言葉はオワコンなんだよ!おらおら!」
シークの傍をブレインボールが次々と通り抜けていく。シークは華麗にかわし、よけ、ボールを跳ね返す。
 
その様子を監視していた情報部はすかさず上層部へと伝える。
 
「ブレインボールだと?」
「はい、捕えられたら洗脳されて人間側の味方になってしまうやっかいなモンスターボールだそうです。」
「今、対応役のポケモンは?」
「そのボールの弾幕にいるそうです…このままだと彼の身が危ないです…どうしますか…?」
「…………」
「他の隊員に応戦の許可を…!」
「しかし、そうなると他の隊員達の身が危ない。S-99423は優秀だから辛うじて持ちこたえているが…」
「しかし持ちこたえにも限界があります!今の現状はせいぜい持ってあと数分…その前に何か指示を!」
「…破壊だ…」
「……」
「破壊だ…破壊しろ…」
「…了解しました。情報部に指示を出します。」
 
 
單冠湾では、相変わらず玉投げ合戦の如くブレインボールがシーク目掛けて飛び交っていた。
「おーおー飛ばすねぇ、経費無駄なんじゃないの?」
 
“そんな余裕かまして大丈夫かなぁ?息あがってんじゃねぇの?”
「あいにく俺はすぐへこたれないんだよな、これが」
 
“どうかな。お前の寿命もあとちょっとだ、安心しな。”
「はっはーお前なんかに殺されたくねーわ。もうあれ以来お前なんか信じねぇ、信じたくもねぇ。この裏切者が。」
 
 
“……”
 
 
“……シーク………”
「おい……何だよ急に……やめろ………」
 
“シーク…もういいだろ…”
「やめろ……呼ぶんじゃねぇ…その名前だけは呼ぶんじゃねぇ…」
 
 
 
その時、シークのFlexに情報部から『破壊命令』が表示された。
 
 
 
“お前はシークなんかじゃない…本当は…”
「やめろ!その先は言うんじゃねぇ!!言ったら殺すぞ!!!!」
 
“シーク…目を覚ませ…!お前の本当の名は…!”
「黙れっつってんだよ!!!!この裏切者がッッ!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――――――― ドンッ ―――――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
單冠湾に黒煙が登った。船は完膚無きまでに破壊され、一瞬で轟沈した。
 
「くそが……くそが……!」
 
 
轟音が響く單冠湾をシークは後にした。