Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第34話 主力艦隊出現】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

午後1時20分――
伊-206号の右舷砲台は静かに現れ34.45スポットに照準が定められた。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドォン!…ドゴォン!シュン!シュン!シュン…
ザ―――ッ …

この一瞬、砲弾は水中を引き裂いて34.45スポット付近を目掛け一直線に進んでいった。
100m平方に15発という銃弾攻撃だった。容赦無い猛攻の前に平和だった空間は瞬く間に砕かれていく――

バンッ!バッ!ドンッ!ドォン!スゴォォォ…



午後1時23分――
伊-206号が移動を開始。N-spot 2に対し、北西方向へ速力20ノットで砲撃を続けながら進行し出す。

「次、右舷34.68スポットに命中。」
「右舷34.68スポット付近の隊員は退避!」

“了解!”

シュオォッ……バンッ…!

「次、右舷35.12スポットに命中。同時に伊-206左舷側にも砲台出現。左舷35.87スポットに命中。」
「右舷35.12スポットと左舷35.87スポット!退避!」

“了解!”

シュオォッ……バンッ…!



(大丈夫…全てシナリオ通りにいってる……)

ガコンッ

“敵潜左舷に砲台出現。砲台数は右舷同様、15”
「了解、Flexモニターより確認した。左舷35.87スポット付近の隊員は直ちに退避せよ!」

“退避完了!”

(このままいけば…勝てる…)

ドォンッ!シュルルル…

ミライは目を閉じて呼吸を整えた。
「っ…ふぅ…」
「ミライちゃん…」
「大丈夫です先輩…次、右舷35.53スポットです。早く隊員達に知らせて下さい。」
「あ、あぁ。」

バンッ!
“敵弾、左舷35.87スポットに命中!”

「続いて右舷35.53スポット、退避!」
“了解!…そろそろ反撃してもいいですか?”

(…!)
ミライが反射神経の如く反応し、すぐに海上隊の通信を使って通達した。
「安易に攻撃しないで下さい!出現する艦船には、潜水艦も含め全て特殊装甲が施されています!」
“特殊装甲?”
「N-spot3海上の先発部隊の生存者から、その特殊装甲について数々の証言が報告されています!」




数十分前。

―― …せよ」
“ザ――――…”
φ2-4「N-spot 3 第4海上先発部隊、応答せよ―――
“ザ―――……”
φ2-4「第4海上先発部隊、応答せよ――」
“ザ――………”
φ2-4「Fourth marine starter forces, This is JYOTO CONTROL. Please contact to φ2-4. Contact to φ2-4. 」
“…………”

「第4海上先発部隊からの応答無し。ジョウト海上管制からジョウト第4海上隊全隊員へ通達…」

φ2-4「All station all station except Fourth marine starter forces and contact JYOTO CONTROL. 
        Contact JYOTO CONTROL φ2-4 change frequency φ2-4 and keep silent until further adviced. 」
φ2-4「All station all station this is JYOTO CONTROL. Change frequency φ2-4.」

“―――――”

「第4海上先発部隊は、所属隊員からの大部分の信号反応がありません。生存者はごく数名と推測――」
「現時刻を持って第一次N-spot3海上戦でのジョウト第4海上先発部隊は、ほぼ壊滅したと判断―――」

「…状況は?」
「不明です。先発部隊の最後の通信は、どの隊員も必ずエンジンカッター音らしき音が記録されています。」
N-spot3付近海上の敵駆逐艦『あわじ』から無線を傍受しました。敵兵の殲滅、約300とのことです。
「負傷者も含めると死傷者は推定で500以上だと推測されます…想定を大きく上回ります。」
「更に敵駆逐艦『あわじ』より無線傍受…“海面が赤く染まっている”…とのことです。
「…やられた。これが以前から謎電波で発せられていた“アカシオ”…“赤潮”の正体だ。」
「そんな…だって隊員達にはあの機械の攻略法を戦闘中に伝えたじゃないですか!」
「敵の方が一歩早かった…僅かな時間差が勝敗を大きく分けたんだ…」




I-6593「ザ―…本部、応答…願います…」

「!」
「 いた!生存者がいるぞ!」


φ2-4「I-6593!第4海上先発部隊の状況は?」
I-6593「し…信じられない…自分が撃った攻撃が全て反射して自分の方へ…か…返ってきます………」
φ2-4「反射?何の事だ?」
I-6593「…物理並びに特殊攻撃が敵艦隊に全く効きません…」
φ2-4「つまり、攻撃した分だけ自分の元へ跳ね返ってくるというのか。」
I-6593「はい…ゲホッ!海中が赤く染まって視界が利かない…Flexが無ければ丸裸状態です…」
φ2-4「貴官は今、岩陰に潜んでいるのか。他に生存者は確認できるか?」
I-6593「視界が利かないため目視確認は不可能です…Flexでは私を含め半径100m以内で3名確認…」
φ2-4「貴官を含め、先発部隊で信号を確認しているのは303名中8名。その他の兵は信号反応が無い。」
I-6593「え…?」
φ2-4「敵は現在、N-spot3周辺の我々の海上部隊を殲滅したと判断している模様。」
I-6593「待って下さい…どういう事ですか?残りの295名は…」
φ2-4「第4海上先発部隊、生存者8名に告ぐ。直ちに第4海上隊本隊と合流せよ。繰り返す――」
I-6593「ちょっと待って下さい!残りの295名は!?」
φ2-4「――以上。」
ブツッ
―― 状況終了 ――








“じゃあ一体どうすれば…どうすればあの敵艦隊を壊滅させる事が出来るんですか…?”
“このまま放っておけというのですか…?”
“何か解決法があるはずです!本部、早急な対策を!”


「…各方面の隊員から似たような質問の通信が増えています。作戦班、指示を。」
(“特殊装甲”……どうすればいい……どうすればいいの……)
「ミライさん、第3航空隊への指示もお願いします。現在N-spot2に敵航空機は確認されていませんが。」
「は、はい…N-spot2の敵艦船には直接攻撃を行わないように伝えて下さい…これは厳守事項です。」
「分かりました。上空からの敵艦船監視にあたらせます。」
(早くしないとあのN-spot3海中の悲劇がまた繰り返される…それだけは絶対に避ける!)
「でも今は敵潜の砲弾が先……右舷35.84スポット退避!」
「右舷35.84退避!」

“了解!”

シュオォッ……バンッ…!


伊-206号は容赦なく次々と撃ってくる。
「あーもうこうなったら…先輩!」
「あいよ」

「まず右舷スポット。35.91、36.13、36.26、36.31、36.52、37.01、37.29、37.68、37.85、37.96、38.15、38.36!」
「メモメモっと」
「次、左舷スポット。36.34、36.67、36.78、36.99、37.30、37.47、37.59、37.71、37.83、37.96、38.18、38.49!」
「了解しやしたっと。次の地点は退避!右舷35.91!36.13!…」


「これでしばらくは持つ。これで集中出来る…あの“特殊装甲”…絶対何か裏がある。」





連合軍ジョウト上層部。

「敵のシナリオがまた進み始めています。これで“赤潮”ルートが確定しました。どうしますか?」
「あぁ、こうなると我々の作戦内容も訂正しなければならない。敵の艦隊は?」
「敵艦隊には全て特殊装甲が施されています。あなたのシナリオ通りです。」
想定の範囲内だ。特殊装甲といっても所詮は物理・特殊攻撃を跳ね返すだけのただの代物。」
「そうですね。」
「なら簡単だ。我々は敵と逆の事をすればいい。内側から跳ね返せばいい。」
「彼女はその事に気付くでしょうか?」
「今頃気付いているはずだ―――――




ミライは俯きながら笑みを浮かべた。
「…見ーつけた…♪」


「で、でたーwww解決の糸口見つけたら直ぐに笑み浮かべ奴wwww」
「うわーwww空気読んで下さいよ先輩www」
「あいよw」
「でもどうしてこんな単純な事に気付かなかったんだろう…ばっかみたい…あっはは!あはははははは!」
「今日のヤンデレスレはここですかー」
ヤンデレこそ至高って誰かが言っていたもので。」
「そいつとは美味い酒が飲めそうだ。」
「それ、酒乱になるっていうオチですね。」


「で、冗談は置いといて…見つけたんだな?」

ミライは無言で頷いた。


「教えてくれ、その解決法。」
「はい――――







“本当にそれで敵の艦隊を壊滅させられるんですか?”
「はい。これが最も確実かつ犠牲の少ない攻撃方法です。現在、伊-206号の様子は?」
“現在、目標は砲撃を中止。沈黙を保って速力を7ノットに落としていますが以前、北西方向へ進行中。”
「おそらくN-spot3付近に向かっているものと思われます。監視を続けて下さい。」
“了解しました、我々は伊-206号への監視を続けながら準備が出来次第、指示待機します。”
「作戦開始時刻は18:00です。また指示を出します。それまで攻撃は行わないでください。武運を祈ります。」


“こちら第4海上部隊本隊。先発部隊の生存者8名を無事に保護。現在N-spot3海上付近の敵艦船を監視中。”
「敵艦隊を壊滅させる方法が見つかりました。」
“え?本当ですか!?”
「はい――――」
“…分かりました。準備が出来次第、指示待機します。”
「作戦開始時刻は18:00です。また指示を出します。それまで攻撃は行わないでください。武運を祈ります。」


“N-spot2海上付近の監視部隊より通達。徐々に敵艦船の数、増えています。”
「攻撃状況は?」
“現在は沈静を保っています。攻撃活動しているのは海中の伊-206号のみです。”
「了解しました。敵艦隊を壊滅させる方法が見つかりました。」
“ほっ本当ですか!?”
「はい。お伝えします――――」
“…分かりました。準備が出来次第、指示待機します。”
「作戦開始時刻は18:00です。また指示を出します。それまで攻撃は行わないでください。武運を祈ります。」


「ミライさん、航空隊の方にも同様の指示を出しますか?」
「いえ、上空監視に専念させて下さい。上空からの敵の急襲に備えます。」
「今のところ空母出現の情報はありません。しかし、これも時間の問題かと思われます。」
「ミライさん、あとは大丈夫です。早く第3航空隊の方の無線担当へ戻って下さい。」
「また何かありましたらお呼び下さい。すぐに駆けつけます。」





16:00。
沈静から約2時間が経った時だった。

…ピーッ!ピーッ!ピーッ!

「出ました。主力艦隊です…」
“こちらN-spot3海上付近。主力艦隊の出現を確認。徐々に船舶の数が増えています。”



ピーッ!ピーッ!ピーッ!
「こちらも出ました…主力艦隊です。」
“こちらN-spot2海上付近。主力艦隊の出現を確認。徐々に船舶の数が増えています。”



「敵は沈静を保ち続けています。伊-206号は、まもなくN-spot3海上へ到達します。」
「作戦系統に支障はない。予定通り18:00から作戦を実行する。陸上隊の指定戦闘員は沿岸で待機。」

“了解。”




陸上隊の指定戦闘員――
これがミライが考え出した切り札…内側から崩壊させる要とも言える要素だった。








17:00。
沈静から約3時間。日が暮れてきた。季節は春だが、まだ日が暮れる時間は早い。
4月という事もあって風はまだ若干冷たかった。上空監視を続けていた俺にも風は容赦なく吹きつけ、
体感温度を低く感じさせる要因となっていた。海上隊員たちは、それ以上に寒く感じただろう。

陸上隊の指定戦闘員はこの時間になると沿岸部に全て集結していた。
実質ミライが考え出したと言っていいこの作戦に、彼らは快く同意してくれた。


その中に、アルフィーネさんもいた――――






「ミライが考えたってことは確かな勝算があるのね、きっと。」
「先輩、そのミライさんってそんなに凄いんですか?」
「あなたの2歳年上でこのジョウトの情報部トップよ、ブラスト君――


彼もまた、ミライの作戦によって選ばれた指定戦闘員の中に組み込まれた一員だった。