Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第46話 上陸】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

午前7時20分。沖合に停泊していた無数の敵艦隊は地上に向け、艦砲射撃を開始。
沿岸部を中心に、100メートル四方に25発という容赦無い砲弾の雨を降らせた。
午前8時半、敵の上陸部隊は海岸に殺到した。ここまでは歴史通り。

しかし、ここから先は違う。俺達はもう黙ってなんかいない。
敵は上陸を開始した。

直後、沿岸一体は弾幕の嵐となる…










ふと頭の中で誰かの声が聴こえた。
聴いたことのあるようで、誰かは分からない声。
ずっと以前から夢の中で語り掛けるように、その声は朧気ながら俺の脳内に聴こえていた。
しかし、今回その声はハッキリとした声で聴けた。



分かってる…
最初から無駄な抵抗である事は。
命が懸からない限り、身内でもない限り、どんな状況であっても
誰も本気で他者を助けようとはしないだろう。
平和が実現した世界でも結局、集団が生む必然的法則には逆らえない。
綺麗事が幾らでも並べられる世の中なのに、
どうして今を生きていて幸せだと感じない人がこんなにも多いのだろう。
本当は生きれるだけで幸せな事なのに…どうして…追い込まれていくのだろう。

どうして皆、黙っているんですか。
どうして皆、耐えられるんですか。
どうして皆、強くいられるんですか。

私は、まだ弱いままです。




きっと、この声は…真実を突き止めようとしている、自分の事をずっと待っている、
あちら側の世界の誰かの声…

君は一体誰なんだ。
どうして君は俺に語り掛ける…?
教えてくれ…戦いの、その先に待っている“全て”を知っている…
君の名は何なの?

“まだ知らなくていいんだよ…”

また聴こえた!どうして…!
もうここまで来たんだ!
本当は君のために出来る事なんて無くても、他の誰より君を強く思っているのは本当なんだ。
ほんの少し勇気が必要な時は、いつだって…君の“ほんの少し”になるのに…どうして…!

“優しいね…君は…どんなイケメンより惚れてしまいそうだ…”

ねぇ…!ねぇってば!

“…いずれアイツがお前を迎えに行く。私の名はその時に知ると思う。”

だからアイツって誰なの!?

“君自身が一番知っている。君の側にずっといた存在。
 記憶や自覚は無いと思うけどね…”

意味が分からない…分からないよ…

“いずれ分かる。でも今は教えられない…君には本当にすまないと思ってる…
 今はただ生き残るだけでいい。戦いが終わったら…君に全てを話そう。
 この戦争が何故起きたのか、君が何者なのか、アイツと君の関係、
 そして私が誰なのか…全てを話そう。”

本当…?

“あぁ、これは君と私との約束だ。私はずっと待っている。君がここに来るのを。
 だから…それまで……耐えて……………

その声が薄れていく。再び、耳に聞こえるのは弾幕の音だけになった。
やっぱり、あちら側の世界で自分を待っている誰かがいるんだ。
ハッキリと声が聞こえた今ならもう決心はついた。

行くしかないんだ。
その時まで耐えるしか道は無い!







沿岸部の弾幕戦は数週間続いた。
地上でのポケモン技は思いの外、敵に対して強い効果を発した。
当たり前だ、威力や破壊力で比べたら圧倒的に此方の方が上だ。破壊光線などほぼ無敵に等しい。

だが、敵も当然の如く手は打っていた。
S-TF作戦による壊滅的大敗北を教訓に、敵は戦略方法を大幅に変更した。
具体的には、海上沖合に以前より更に夥しい数の主力艦隊を投入し、
その艦隊はチートにチートを重ねた艦で構成されていた。
沖合に停泊する艦艇には、通常の物理技や特殊技が一切通じず、
ミライが考案したエスパー内部操作によるS-TF作戦も通用しなくなった上、
情報部による艦艇システムへのハッキング侵入も完全に遮断。

それどころか、特殊な防御バリアみたいなものが艦艇の周りに形成されていた。
どうやってそれを発生させているのかは見当もつかない。
防御バリアは海水や空気、太陽光などの人間界に普通にある自然環境以外、
特にポケモン世界にしか無いものは一切通さなかった。
防御バリアは海中にも張られているから尚更、手の入れように驚かされる。
360°全方位に対応していたのだ。敵の上陸部隊が艦艇から出撃する時は、
問題なく防御バリアを突破出来るのが本当に不思議で仕方なかった。
しかも+αで、早期敵探知レーダー搭載と来たから正に最強のイージス。
絵に描いたような予想を遥かに超える能力を持った艦だった。
それが海上を黒に染めるほど、無数に押し寄せたのだから、ポケモン達の絶望感は計り知れない。

それもその筈だ。ジョウトのS-TF作戦成功後、各地方でもミライの考案したS-TF作戦が採用され、
次々と大戦果をあげていた矢先の出来事だったのだから。
皮肉にも、この地獄の艦隊が最初に用意されたのはS-TF作戦が最初に行われた、このジョウトだった。
きっと同じ事が…これから他の地方にも起こるだろう。

ここまで敵がパー壁だと、俺達も手の出しようが無く、
ここまで様々な手段で逆境を打開した上層部や情報部でさえも“打つ手無し”のお手上げ状態。
持久戦に転ずるしか道は無かった。

敵の主力艦隊再出現は、自分達にはもう後が無いという事を印象付ける
滑降の機会となってしまったのである。

遂に…追い詰められる時が来たのだ。






上陸部隊は無限に発生するかのように、次々と海岸に押し寄せる。
その度にポケモン達はそれを一斉に攻撃して、海岸を一掃する。
一掃した後の海岸には、夥しい数の鉄の残骸と、血と肉の塊が転がる事になる。

しかし、上陸部隊は懲りずに次々と押し寄せる。
波に晒される仲間であった筈の原型を止めていない死体を、
平然と水陸両用戦車や足で踏みにじって上陸していく。
表現するのも嫌になるような死体の潰れる音が、
激しい戦闘の中でひたすら辺りに響く。
上陸部隊はそれらを一切気にせず、猛烈な勢いでポケモン達に迫っていく。
その度にポケモン達はそれを一斉に攻撃して、海岸を一掃する。この繰り返し。

これが数週間も続いたのだった。

この光景で体調を崩す者は当然、続出した。
精神を病む者、発狂する者…誰もが現実として受け入れるのを身体全体で拒否していた。
俺達、航空隊も上空から敵の上陸部隊へ向け何度も攻撃し、戦闘に加勢し続けた。
しかし…敵の発砲した艦砲射撃や、地上からの機関銃の弾が航空隊の仲間に当たり
負傷する事も何度かあるのは事実で、現にこの数週間の戦闘で十数名ほど犠牲となってしまった。

航空隊ですら、この有り様だ。
陸上隊の沿岸部隊の被害状況が悲惨なものである事は、数字を見なくても明らかだった…










敵の上陸開始から、数週間後。

上陸地点の沿岸部一体は、夥しい数の犠牲を払って敵の手に落ちた。
完全に物量戦による、ごり押しな結果だった。この戦闘による陸上隊の被害喪失は特に甚大で、
死者はおよそ2000名に達した。敵側もかなりの死者を出しているようだったが、
半無限状態に出現する上陸部隊の様子を見る限り、敵側は痛くも痒くも無い様子だった。
ただ俺達は、海岸に山のように積み重なる肉の塊がとてつもない腐敗臭を漂わせていても
何も動じない、上陸部隊の無機質さに異様な印象を覚えるだけだった。




沿岸部一体が陥落した日の夜、情報部から、
ある作戦の指令が陸上隊の兵達を中心にFlexを通じて届く事になる。自分にもその指令が届く。
多くの犠牲を払った陸上隊の沿岸部隊にとっては“もう戦闘は沢山だ”という共通の
意識が漂っていただけに、既に生き残ったほとんどの兵が戦意喪失状態になっていた。

しかし、作戦内容を見て驚いた。そこには“必ず勝算はある”と書かれていたのだ。



俺はまさかと思って、ここ最近ずっと話していなかったミライをFlexで呼んだ。

S-30「…ミライが考えたの?」


久し振りに聞く彼女の声は、何処か漂々としていた。
まるで、最初からこうする予定だったかのように。
























M-177「もう変えられないからね」