Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第47話 斬り込み】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

敵が上陸した同じ日、敵は上陸とは違う別の行動もしていた。
それは野戦砲台の設置だった。

自分達もあまり住み着かない程、小さな無人島…敵はそこに野戦砲を揚陸した。
この手の野戦砲は随分と大掛かりな代物で射程距離も長く、砲弾は海を越え、
俺達の守備範囲一体に縦横無尽に落下していく。1台につき毎分1発。
それが40台程、揚陸されたのだから想像以上の脅威だ。
日夜を問わず何処からともなく砲弾が降ってくる。落下した砲弾は炸裂しバラバラになり、
少なくとも半径10m以内にいる目標は即死か重症のリスクを負うことになる。
この野戦砲の犠牲となった者も数え切れない程いる。
加えてたまに、沖合に停泊する艦船から艦砲射撃があるから被害は更に拡大した。

上層部ならびに情報部は早期から、この野戦砲台の殲滅を計画していたが、
実際は上陸部隊との攻防で手一杯の状況だった。
しかし、沿岸部一体の陥落により敵の夜間監視は、ほとんどが陸上に集中し、
海上比較的緩くなっていた。それもその筈で、海上に停泊する艦船は
無敵状態に等しい上に早期警戒レーダー網を張り巡らしているから監視する必要も無かったのである。

ミライ達、情報部はそこに目をつけた。
早期警戒レーダー網を避けながら夜間に野戦砲がある無人島に奇襲を仕掛ける…
古典的だが一番現実的かつ確実な作戦。
ただし、この苦し紛れの奇襲作戦も一度が限度だろう。敵は人間。いや…未知の世界の人間だ。
一度経験した戦いでの過ちは、この戦争では二度と繰り返さないだろう。
それどころか、何倍もの対策を施して…何重もの障壁を用意して…
想像を遥かに超えたスケールで自分達に襲い掛かる。





チート?分かってる癖に。人間にとってチートは当然なんだろう?
だから互いを徹底的に利用するし、用済みになれば裏切り、裏切りが憎しみを生み、
結局いつまで経っても戦い続けるんだろう?正しい事は簡単には口に出来ない。
言えば馬鹿正直、偽善、妄想などと扱われるんだから。いつの時代も同じ。
知性を持つのに時代が経てば、また同じ過ちを繰り返す。

人間は進化しているようで…本質的な部分は同じ所をずっとぐるぐる廻ってるだけなんだろう。

彼等は理想や想像を求めた。
だから、この世界も創った。
そして、この世界でさえも裏切った。

人間は
知性を持つ化け物だ。





でも…全てを話してくれて味方をしてくれるシークさんも人間なのに。
夢の中で聞こえる、あの声の主もきっと人間なのに。

何で…こんなにも世界は冷たいんだろう。
残念だ…とても残念だ。










新月の夜。
上陸部隊が上陸した沿岸部とは程遠い沿岸部。

まだ銃声の音が響かないこの場所に、極秘の内に海上隊と陸上隊のポケモン達が集まった。
各隊百数名で構成される特殊部隊。任務内容や隊員との意思疎通は全てFlexで伝えられ
作戦開始までの私語は一切禁止だったという。そのくらいシビアなものだった。

作戦は真夜中に決行された。敵艦隊の早期警戒レーダー網を避け、
死角を突けるルートで月明かりの無い暗い海上を粛々と進んでいく。

聞こえるのは波の音だけ。

サイレントモードのFlexには、液晶ディスプレイに状況や会話を示した文字羅列がひたすら流れていく…
云わば手で操作しないSNSみたいなものだった。だが、Flexはそんな呑気な代物ではない。
これが無ければ、戦場では命が無いのと同じだった。実際にFlexに助けられた兵も大勢いる。
それ程、Flexの情報精度は高い。



特殊部隊は野戦砲がある無人島へと接近する。今のところ気付かれる気配は無い。
島からの監視は艦隊方面に集中しているらしく、特殊部隊が接近する逆側の監視は薄い。
今は島から野戦砲の音は聞こえないから、砲撃休止中なのだろう。
つまり…敵は就寝中もしくは警戒を甘くしている可能性が高い。またとない絶好のチャンスだ。

今ならいける!

“落ち着け…ゆっくり近付くんだ。ゆっくりでいい。物音を立てずに…出来るだけ近付くんだ…”

島に上陸した。ここからは陸上隊の技量に懸かっている。
隊員達、百数名は物音を最小限に抑えながら砲台のある反対側へと近付く。
幸い、波の音が自分達に味方してくれている。あと少しだ。
特殊部隊の先発が遂に、砲台まであと10数メートル当たりの茂みにまで迫る。
後続も追い付き、指示通り、暫く待機して様子を伺う。

沈黙の中、Flexで隊員達の意思疎通が行われる。



“サーチライト網は艦隊方面に集中しているが、砲台設置場所にも数多い。
 如何に目立たない所から仕掛けるかだ”

“奴等が感ずいてる気配は無い。にしても、静かだ…油断しているのか?”

“いや、奴等は気付いていないだけだ。ここに我々が上陸するのも想定済みだろう。
 でないと、サーチライトなんて物は設置しない。”

“…だとしたら不自然です。何故、島の反対側にはサーチライトを設置しなかったんでしょうか…”


その隊員の一言で、空気が変わる。

そうだ。何故、敵は島の反対側の警戒を緩くした?普通なら、
そこから我々が上陸して奇襲を仕掛けると思ってもおかしくないじゃないか。
なのに何故緩くした?

これも、罠…?





隊員達に不穏な空気が流れ始めた時、情報部にいたミライが呟いた。

「行って下さい」

“え?”

「罠はありません。相手は本当に気付いてません。仕掛けるなら今です。」

“ですが、まだ確証が得られない中での戦闘は危険で…”

「大丈夫です。必ず勝てます」

“しかし…”


その時、特殊部隊の隊長の隣にいた隊員が隊長の肩を叩いた。
肩を叩いたのはアルフィーネさんだった。

“彼女は私の同僚で、S-TF作戦を成功させた張本人です。私と同様に未来が見えます。
 私も彼女と同意見です。今攻めれば成功します。”


他の隊員達も隊長に進言する。


“行きましょう、時間がありません”
“未来予知が出来る隊員も全員、賛同しています”
“ここまで来て今更引き返すつもりはないです。やりましょう!”

『今は私を…信じて下さい!』









“……全く困った方達だ”

隊長は僅かに微笑んだ。微笑みは一瞬。すぐに形相は変わった。

“戦闘準備”

隊長が呟いた直後、全員のFlexに一斉に【戦闘準備】の表示が現れる。

“作戦通りA班、B班、C班の3部隊に展開し、各エリアへ対し一斉に奇襲を仕掛ける。
 手加減は無しだ。目標は野戦砲の破壊。極力無駄な戦闘は避けろ。
 作戦予定終了時刻は20分後を目安に各員離脱せよ。以上だ。幸運を祈る。
 20秒後に作戦を開始する。”





野戦砲の音は聞こえない。
静かな静寂が嵐の予兆を暗示しているようだった。20秒が異様に長く感じた。





“戦闘開始”



隊長が呟いた直後、全員のFlexに一斉に【戦闘開始】の表示が現れる。













「おい…何だありゃ?」

野戦砲台を管理する敵部隊の宿直1人が、野営地から暗闇の中に動く複数の黒い影を確認した。

ドォン!
直後、野戦砲の1つが破壊された。

「奇襲だ!敵襲――――!」
ウゥゥ――――!
けたたましいサイレンが辺りに鳴り響く。その内にも、野戦砲の何台かは破壊されていく。



「目標は野戦砲の全破壊だ!自己防衛を除き、人間を相手にするな!」
ポケモン達は次々と野戦砲にターゲットを絞り、集中攻撃を仕掛ける。
効率的な連携攻撃で、既に4分の1の破壊に成功した。



逆に敵側は混乱状態と化していた。

「くそ!何故、監視部隊は気付かなかった!」

「奴等は島の反対側から上陸した!あそこは今、早期警戒レーダー網もサーチライトも無い!
 サーチライトが明日配備される予定だったのが裏目に出たんだ!」

「時間帯も午前3時半だ!よりによって一番警戒が甘い時間に狙ってきやがった!」
「くそ!どんどん野戦砲が破壊されていくぞ!阻止しないと総崩れだ!」



2分の1を破壊した所で敵部隊が、ポケモン側の特殊部隊に襲い掛かってきた。
「隊長!敵が迫ってきています!」
「構うな!ギリギリまで引き付けてから攻撃しろ!」
「ハッ!」

特殊部隊は人間達に構わず、ただひたすら野戦砲の破壊に努めた。
しかし、辺りは銃撃戦の嵐となり破壊活動は困難になり始めた。
ミライは現場の様子を頻りに気にしていた。

アルフィーネ!状況は!?」
「思った以上にッ…く…手強いわね」
「数は?」
「えーっと?数十から百くらい?…私達と似たような規模よ…あーメンドクサ」
「想定通りね」

ヒュン!ヒュンヒュンヒュン!!
「っとォ!うわっぶねえぇぇー!」

「ちょっと…気を付けなさいよ?」
「わーってますよォ。私を誰だと思ってるんですかー」
「ホントあなたキャラがコロコロ変わるわよね…」
「ふえー!?何か言いましたー!?」
「何でもねーですゥ!」
「ん?ミライもキャラ変わってんじゃないのォ?」
「うっさい黙れぇ!戦えぇ!」
「ふーい、怒られちったー」







しばしの沈黙を挟み、ミライが呟く。






「…生き残ってね…本当に」
「…うん、すぐ帰るから…」  ブツッ…



再び無線を切る。幾ら情報部といえど最終的には現場の判断が優先だ。
現場に任せるしかない…私はただ、この情報部で彼等の成り行きを見守るしか無かった。

必ず勝利する――

私のその言葉を信じて、特殊部隊は動いた。
自分がもし逆の立場だったら私はその言葉を信じて行動していただろうか…?
そんな根拠も無い曖昧な妄言を簡単に信じてしまうのだろうか?

…でも、ここは違う。戦場だ。少しでも兆しがあるなら、その僅かな希望に全てを懸けるだろう。
彼等が私の言葉を信じてくれたように、私も彼等を信じ抜く義務がある。彼等はきっとやってくれる。
アルフィーネ…あなたが居なければ…隊長に進言していなかったら…恐らくこの作戦は失敗していた。

でも、もう大丈夫…
あとちょっとで終わるから…
私はあなたみたいな親友を持てて本当に幸せだよ…
ありがとう…






新月の夜。
かつて、伝説と言われた作戦が行われた。

死傷者数は0と言われ、40門あった敵の野戦砲を全て破壊することに成功したという。


「島が燃えている…」
「こうして遠くから見ていると花火みたいですね」
「でもあの炎は命を犠牲にした炎だ」
「戦争って一体何なんでしょうね…」


後に「神山島の斬り込み」と呼ばれるその作戦は、
奇跡と言われたあの「S-TF作戦」と同じ者が考えたと言われている。
その真意は今では分からないが、もしそうだとしたら発案者は余程のカリスマか何かだろう。



しかし、その発案者は後に突如として消息を絶つ事になる。真相は不明―――――――― …












「お帰り、アルフィーネ」
「ただいま、ミライ」

「ありがとう…生きてくれて…」
「うん…私…生き残れた…よ……」


二人は御互い抱き締め、そして静かに涙を流した。