Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【短編小説】『蟻の病』

ある国にキリギリスと蟻が暮らしていた。彼等は互いに同じ国に暮らそうと予め誓ったわけではない。
始めからそこに暮らすのが当たり前であると、それぞれが思っている。
必然的にそうなっているのだ。


キリギリスは、社交的でみんなの人気者である。
いろんな才能を持ち、なんの心配もないような生活を続けていた。
青春を、そして人生を楽しく生きている。
いつの頃からか勝ち組などと言われるグループに属していた。

蟻は、いつも働きっぱなしである。
一人が好きなわけではないが、忙しくてついつい必要最小限の会話で終わらせ、せっせと働いていた。
手際が悪いのか…とにかくやらなくてはならないことは減ることはなかった。
誰もやらないなら僕がやると…と言っては、また仕事が増えた。
どうせ蟻さんがするよね?と言っては、いつの間にか蟻に仕事を置いていく者もいた。


目の前の仕事を一生懸命かたづけることだけに、蟻の小さな頭はいっぱいだった。
効率化を考える余裕もなく、まして新しい事を考えることや
みんなでこうしよう…などと言い出す余力なんてありはしない。
気がつくと蟻は新しい仕事が始まったことも、新しい手順に変わったことからも遠ざかってしまった。

キリギリスは、頭が良くて仕事運びが上手かった。どんどんと出世していった。
そして給料もどんどん増えて、益々優雅な生活を続けていった。
この会社も、この国も、キリギリスが上流階級となっていた。

蟻は、いつまでもいつまでも誰もしないような仕事をせっせと続けていた。
でも、この会社では、この国では、評価されない。お給料も増えず質素な生活を心がけて、
それでいて将来のことも考えて少しずつ少しずつ蓄えを増やしていった。



やがて長い長い冬の時代がやってきた。
会社も国も儲からない時代である。そんな時代になっても…いや、なると予想できた時でも、
キリギリスの生活は変わらなかった。相変わらず優雅な生活を続けていた。
気がつくとキリギリスの蓄えも会社の蓄えも、国の蓄えもなくなっているどころか、
借金ばかりとなっていた。なんとかなるさ…とキリギリスは、浪費を続けていた。
いよいよ破綻を目の前にして頭の良いキリギリスは、考えた。

「蟻さんは、ずいぶんと蓄えがありますね。まさに「勝ち組」ですよ!将来も安定した生活をできる。僕なんか 「負け組み」まったく蓄えが無い」。





…キリギリスは、僕の倍のお金を貰っていたじゃないか。
美味しいもの食べて、色んなものを買って、毎日を楽しんでいたではないか。
自分は少ないお金で安いものしか食べてないし、必要な物しか買ったことが無い。
それでなんとか蓄えを少しずつ増やしてきたんだ…「勝ち組」???

…蟻は思っても上手く言えなかった。





キリギリスは、続けた。

「僕達は今まで沢山の消費、買い物をした。その結果、多くの消費税・税金を払ってきた。今、国は借金だらけだ。増税しないとならない。僕達には、その余力が無い。蟻さんたちは、「勝ち組」です。十分な蓄えがあります。なぜ、蓄えがあるかというと消費、買い物をしなかったからです。つまり、納税額が少なかったからです。こんなに蓄えがあるのですから、その中から少しだけ税金として払ってもらってはどうか?今までの少なかった分を少しだけでも …」




なにかが違う…と思っても蟻は、反論できなかった。
この国もこの会社も、蟻の理解できない論理で動いている。
自分は何のために生まれてきて、何のために働いて、何のために質素な生活をして、
何のために頑張って蓄えてきたのだろうか…わからなくなった。

























蟻の小さな小さな頭の中でなにかが止まった。













蟻は今までのように仕事が出来なくなった。
キリギリスの上司から叱責され、仲間からは「怠け者」と言われるようになった。


キリギリスの提案した増税が開始された。
キリギリスは、何事もなかったように優雅な浪費生活を続けていた。
「蟻の蓄えは、あと100年持ちますから将来は安泰です」と無駄遣いの日々が続いた。

精神病で働けなくなった蟻の蓄えは、日に日に減っていった。 





蟻が使ったのではない…蓄えから、税金が強制的に徴収されるからである。





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おしまい。