Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【実話】『名前のない化け物と白い鳥』

※この話は作者の実体験に基づいた短編小説(この記事単体で完結)です。
多少の誇張表現やデフォルメ表現はありますが、ほぼそのままの出来事を記しています。

よかったら御感想をお聞かせ頂けると幸いです。

追記:
この作品は『小説家になろう』にも投稿しています。

『名前のない化け物と白い鳥』
White bird with a monster with no name






あるところに、小さな化け物がいた。




その化け物は1995年の冬、この世に生を受けた。雪の降りしきる夜中の事だった。
本来ならば女の子として生まれる予定だったその化け物は、
運命の悪戯が重なって男の子として生まれた。
結果として、その化け物は内面に女の子の人格を静かに宿したまま成長する事となった。
男の子として興味を引く物には一応引かれる一方で、同時に女の子として興味を引く物にも
引かれていった。小さな化け物は細かすぎる面もあれば、中途半端な面もあった。
そのせいか、自らの生き方を世界に適応させる術をなかなか見付ける事が出来なかった。


そんな時 『小さな化け物』 は、
今にも息が絶えそうな弱りきった 『白い鳥』 を庭で見付けた―――――…








私は今まで3回本気で、命を絶ち切ろうとした。
その度に絶ち切れない曖昧な自分が、ただただ悔しくて仕方なかった。

何の才能も無く、取り柄も無い私は、いつだって集団に放り込まれると
すぐに煽られ、叩かれ、落とされ続けた。
意見提示をすれば、直ぐに『社会不適合者』扱いに『社会の屑』扱いの連続。
聞く耳持たずの集団には何を言っても無駄というのがよく分かる人生を、これまでずっと歩み続けた。
「権力無き者に発言権は無い」と言わんばかりの罵倒の連続には、もう慣れた。
人間の価値や尊厳まで否定されても、私の前には誰一人救う人間など居なかった。



「お前は弱すぎる」
「使えない奴」
「何も知らない癖に」
「お前には聞いてないし」
「喋るな」
「何を言ってるんですかねぇ」
「お前まだ生きてんの?」
「生きてて楽しいの?」



何が皆、和気藹々と仲良くだ。
何が虐めの無い良い環境だ。
何が明るく絆のある集団だ。
何が基本的人権の尊重だ。




嘘。
嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。全て嘘。行き着く先は『偶然』か『嘘』のみ。
そんな環境に何年も放置され続けると人間どうなると思う?
内側から自我が崩壊していき自分を失っていくだけでなく、人間が人間で無くなってしまう。
純粋な心は穢れた心として黒に染まっていき、一度穢された黒色の心は簡単には浄化出来ない。



「自分以外の人間は化け物、全て化け物。自分以外は敵、全て敵。」



いつしか私はそう思うようになっていた。
全ての物事には嘘と闇があり、そこには名も無き命の犠牲が必ずある事を知って以来、
私は全ての物事に対して純粋に感動したり笑う事が出来なくなった。

人生の価値観を形成するのに大きな影響を及ぼすのは、幼い頃の環境や
体験にあるという話を聞いた事がある。でも、私は決してそれらに恵まれたとは言えなかった。
確かに、経済と平和に恵まれた富のある国で、五体満足で何の身障も無く産まれ、
両親も離婚や命に関わる事故病気等は無く顕在で、身内には兄という存在もいた。
小さな立方体のような一軒家でも、私はこの奇跡のような環境に、
こんなに温かな家族の一員として産まれた事を本当に幸せに思った。
その時の私はまだ何色にも染まっていない
『純白で弱さや絶望や苦しみも知らない小さな化け物』だった。
もし性別が女の子であったなら箱入り娘という言葉がよく似合うだろう。

家族は悪くないのだ、むしろ感謝する面の方が圧倒的に多い。
生まれて適応力がなかなか身に付かなかった自分の方が悪いのは十分に承知している。
私は不器用だ、昔から物事に対して馴染み方を見付けるのが下手で仕方なかった。
その馴染み方に正解など無い筈なのに、ちょっとスピードが遅いだけで結果として
「適応力が無い」と、この理不尽な世間様(笑)は私を、俗に言う
勝ち組が残るセーフティラインとやらから何度も蹴落とした。



その世間様(笑)の代名詞が【集団】という環境だった。
私を『純白で弱さや絶望や苦しみも知らない小さな化け物』から、
『真っ黒で弱さや絶望や苦しみに苛まれる救い用の無い化け物』に変えたのは、
全てこの【集団】という環境のせいだった。

私はこの【集団】という環境に恵まれることは無かった。
いや、正確には「恵まれた環境であると認識する事は出来なかった」と言った方が良いだろうか。
先程述べた不器用さ故に【集団】が用意した『攻略法も明確に分からない特有の集団秩序』
少し疑問を抱いて馴染めなかっただけで「適応力が無い」とされ、教師にすら相手にされない事も
あった。本来ならば、その『適応力』という概念も教える立場である教師とは思えない振る舞いだ。
面倒臭いという理由だけで、家族で言う『育児放棄』を為し遂げているようなものだった。

私は今まで一度も俗に言う、グレたり硝子を割ったり暴力騒動を起こす等という問題は
全く起こしたりしなかった。そもそも起こす勇気も無いのだ。
それなのに【集団】では、要らない子扱いが何度も繰り返し襲う。
特に理由のない潰しを仕掛ける連中は、私には毎度理解が出来なくて仕方なかった。
いつだって共食いの様に互いを貶し潰し合う。だから私は【集団】は嫌いなんだ、
一人でゆるりと旅したり趣味に没頭したり現実逃避した方がどんなに楽しい事か。





私は悔しくて仕方なかった。
何としてでも這い上がって、この理不尽しかない環境でも
最後まで生き延びてやる…と静かに戦い続けた。
何度も挫折するたびに、生き延びる事を絶ち切らなかった自分なんて誰も誉めてくれはしない。
なら自分で誉める、それの何が悪い。
頑張った自分に対して、自分で自分を誉めて何が悪い!
…それが自分が生き延びる最後の砦となる言葉だった。

かつて本気で慰めてくれた仲間も時が経つと共に自然と消えていき…
いつしか、私の周りには更地のような殺風景な環境が広がっていた。

皆には一体この世界の何が見えてるの。
どうして皆そうキラキラと輝けるの。
私には表面上の笑顔しか与えられないから……分からない。








もう何度、私は失い続けただろう。
引き裂かれ、契れ、悩んで、痛み、泣き、叫び、さ迷い、絶望し、挫折し、足掻き続けただろう。

もう十分だ、私はもう十分苦しんだ。
嫌と言うほど私は苦しみ続けた。

















…――――――

ある時 『小さな化け物』 は、
今にも息が絶えそうな弱りきった 『白い鳥』 を庭で見付けた。

大きさや外見は成長途中の白鷺という感じだった。
白い鳥は女の子で、息が絶えそうな中であっても小さな化け物が自分の視界に入ると、
強張った目付きで威嚇した。小さな化け物はその『白い鳥』を見て悲しく思った。


「君は…こんな僕を恐れてるの?」


喋る術を知らなかった『白い鳥』は、強張った目付きを小さな化け物に突き付けるしか自らを
護る事が出来なかった。小さな化け物は、その白い鳥の身体全体に酷い傷があるのを見付けた。
中まで深く抉られたような傷は、彼女の身に起きた惨劇の大きさを物語っていた。
もう彼女の命は長くない…あと数分で息絶えるだろう…小さな化け物はそう直感的に感じた。
もう少し早く彼女を見付けていたら、助けられていたかもしれない…
助けたくても助けられない自分がそこにいた。小さな化け物は無力を感じた。
あぁ…自分は目の前で弱りきって必死に助けを求めている女の子の命ですら助けられない…
情けない生き物なのか、と。

気付くと、化け物の目からは涙が出ていた。
強張った目付きで威嚇する『白い鳥』の隣で涙を流していた。
彼女はそんな小さな化け物の姿を見て、強張った目付きで威嚇するのをやめた。
羽根をほんの少しファサ…と動かし、涙を流す小さな化け物に何かの言葉を伝えたい様子だった。
彼女は血まみれのその白い身体を震わせ、化け物を見ながら小さな声で鳴いた。


「キュァーォ…」


まるで“私の為に泣いてくれて…ありがとう…”と言ってる様だった。
小さな化け物は、精一杯生きた彼女に一言こう返した。


「よく頑張ったね……ゆっくり…おやすみ…」


その言葉を聞いて数十秒後に『白い鳥』は、息を引き取った。
小さな化け物は息絶えた彼女を、近くに植えてあった金木犀の傍に埋めてあげた。
埋めた所には「名前のない白い鳥さんの墓」という名前の墓を作った。
彼女は白くて綺麗な羽根を持っていて美しかった。
今まで見たどんな『命』よりも美しいと…心から思った。
その美しい身体に深く抉られた傷に、血まみれの顔で小さな声で鳴く姿は、
鮮明に化け物の脳裏に焼き付いた。


彼女を埋めた傍にあった金木犀はそれ以来、すくすくと成長するようになり
綺麗なオレンジ色の花を沢山咲かせるようになった。
金木犀が植えられている場所は風呂場に近いので、花が咲く季節になると毎年、
窓を開けてその花の甘い香りを楽しむようになった。














十数年後のある夜、化け物は再び彼女の夢を見た。
『小さな化け物』は年月を経て、いつの間にか『大きな化け物』になっていた。

でも…夢の中の彼女の姿はあの時のままだった。
彼女を見た途端、再び化け物の目には涙が流れ始める。
小さな金木犀の横に横たわる彼女は、やっぱり身体に深い傷を負っていた。
『白い鳥』は夕日に照らされながら、静かに…静かに…息をしていた。
でも彼女はもう、あの時みたいに強張った目付きで『化け物』を威嚇する事は無かった。
化け物は声をかけた。


「やぁ…逢いに来たよ…」


彼女はあの時と同じ様にまた、羽根をほんの少しファサ…と動かして、
涙を流す化け物に何かの言葉を伝えたい様子だった。
彼女は血まみれのその白い身体を震わせ、化け物を見ながらやっぱり…小さな声で鳴いた。


「キュァーォ…」


喋る術を知らない『白い鳥』は、ただ鳴くしか『化け物』に想いを伝えられなかった。
でも、もう化け物には彼女が言いたい事が何なのか既に分かっていた。化け物は彼女に声をかける。





「わかってる…わかってるよ……君は…
 僕の運命の指標なんだね……僕は君を追い続ければいいんだよね…」





彼女はその化け物の言葉を聞いて、安心したかのように再び小さな声で鳴いた。

「キュァーォ…」





これまであった思い出を、化け物は彼女に語りだす。





「7歳の頃にあるゲームのキャラクターと出会ったんだ。名前はね…ラティアスって言うんだよ。
 何故か映画で一目惚れしちゃってさ…今でも好きなんだ。
 今考えると白い外見が君とそっくりなんだよ。えへへ、笑っちゃうよね…偶然かな?」

「キュゥー」

「あとね、15歳の頃に素敵な人に出逢ったんだ。手に届かないような遠い人なんだけどね、
 僕の事を凄い大切にしてくれる。頼りなくて、不器用でさ、昔の自分を見ているみたいだよ。
 でさ、その人も実は白い鳥が好きらしくてさ。自分の例えとして良く話してくれるんだ。
 まるで君が人に生まれ変わったような感じだよ。何なんだろうね…これも偶然なのかな。」

「キュゥー」




彼女は『化け物』から聞かされる話に、鳴き声で返事をした。
“うん…うん♪”と相槌を返してくれるかの様に。
夢だから…彼女が深い眠りにつくまでの時間は、あの時よりも長く感じた。

一通り、思い出話が終わると彼女はやがて再び静かに眠りに入った。
夕日は傾き、空は茜色に染まっていた。金木犀の木々の隙間から射し込む日の光が、
眠り姫の白い身体を茜色に染めていく…夢もここまでらしい。


目覚めたらまた元の現実が始まる。
でも、もうこれで分かった。






【自分の人生の全ての指標は…この『白い鳥』を追い続ける事にあるんだ。】 と。





化け物は彼女へ、最後に 「ありがとう」 と言い十数年ぶりの夢を終えた。









翌日、化け物は母親にその十数年ぶりに見たその不思議な『白い鳥』の夢を話した。
母親も当時のその『白い鳥』の事を鮮明に記憶していた。
庭の金木犀の横で息絶えた事も、金木犀の傍に埋めてあげた事も、
その金木犀が元気に育っていった事も全て知っていた。
やっぱりあの『白い鳥』は幼い時に見た夢なんかじゃない本物だったんだと、
改めて思い知らされると同時に…何故かホッとする自分がそこにいた。
そして母親は会話の最後に、その化け物にこう言った。







「あの『白い鳥』はね、当時のあなたを救ってくれたの…あなたの代わりに…死んでくれたんだよ。」













そっか…
そういうことだったんだね……


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ありがとう…
生きる大切さを教えてくれて。


おわり
出典:【小説】『SPECIAL ATTACK APPLICANT』(SAA)の後編 『第69話 Limit』 より抜粋。