Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第70話 運命の日】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

12月22日 PM10:00
カントー本拠地
SP隊特別作戦班、特殊隔離施設。


この日の夜は、銃声は間を開けて数発聞こえるか聞こえないかのゲリラ戦状態だったという。
青白い月の光に包まれた空に黒い硝煙が漂う…いつもの見なれた光景だった。
カントー本拠地は仲間達の必死な応戦のかいがあって、まだ制圧されていなかった。
他の本拠地の様なあの地獄絵図を繰り返さないために…陸上部隊は必死に護っていた。

最後まで誰も諦めず、見えない希望を最期まで信じ続けていた。





最後まで秘密にされていた情報部のトップシークレットが特別作戦班に全て公開された 。
誰もが一度で、その内容を把握する。俺達は本気だ…もう容赦はしない。
最後の作戦が言い渡される。

作戦名:『最終作戦』
目標:『トウキョウ』

作戦内容: 
サイクリングロード沖に停泊中の敵空母『あやかぜ』が丁度、人間世界へのN-Spotで唯一の
固定ワープ地点だということが情報部の調べによって判明。
これまでワープ地点の移動が一切観測されていないため、
ここに特攻を仕掛ける事で確実な人間世界への突入が可能と断定。必ず、突入を敢行せよ。
人間世界、突入後はFlexで指示された詳細な攻撃目標に向かって突撃。
突撃後、HBD-5000管理システムを破壊・撃滅せよ。以上。






「これで全てが終わる。出撃は明日正午。生きて…還ろう。そして、終わらそう…この戦いを。」

「はい!!」



全員一斉に言った。目つきが変わる。
終わらせる…終わらせてやる…
こんな間違った戦いなんて…
終わらせてやる! !!






そして【運命の日:12月23日】
敵はついに、カントー本拠地前の最終防衛ラインを超えた。



「ちくしょう!ちくしょうッ!ちくしょぉおおおおおおお!!!」
 「くっそぉぉおおお!」


カントー本拠地の最前線部隊は最後の最後まで抵抗した 。敵を一歩も進ませなかった。
俺達は最後の出撃に出た。激戦の中を飛び立ち、敵に悟られないようにグレン島上空を通過し、
大きく円を描くようにサイクリングロード沖へと飛行する。
そして、ついに…サイクリングロード沖に停泊している一際大きな敵空母を遥か先に捉えた。
Flexに目標である事を知らせる『TARGET』が大きく表示された。あの空母に突入すれば……

…人間世界だ!!

全員、自分が持てる最大速度を発揮して飛行する。
だんだん近づいてくる目標…あと少し…… !!






「高高度上空に敵機ィィ―――!」

“!?”

隊員の一人が叫ぶと同時に全員一斉に空を見上げた。そこには凄い勢いで無数の黒い影が迫っていた。

「F-3 心神だ!!!」
よりによってこんな時に来るなんて…くそッ!感ずかれていたのか!?


『シュン!シュン!シュン!ゴォッ!シュン! グォッ!シュン!シュン!シュン!』

Flexに警告表示が出る。
『敵機確認。F-3、約200機。マークされました、マークされました。ケイカイ!ケイカイ!』
もの凄い数だ…って、やばッ!!!


『ダダダダダダダダダダダ!!』


「振りきれェェェエエッ!!!!」

『バッ!!』 
「グァッ!ック!…く…そ…… 」

「ちくしょぉぉ!!!!!!」 
『ババババババババ!!』 
『…ドォンッ!!キィィイィ……』

「っしゃぁッ!!」




『ダン!ダン!ダン!ダン!!』
「クッ!!あと……少しなんだぁぁあ!!邪魔すんじゃねぇぇえ!!このやろぉおおおおおおッ!!!」
『―――――――――――ッ! !』






「まさか…!」





俺は衝動的に叫んだ。
こういう事が許可されているとは分かっていながら…叫ばずにはいられなかった。






「やめろ!!やめろぉぉぉおおおッ!!」


『グシャァァッッツ!!!!』





!!!!!!!

彼は突っ込んだ…勿論身体もろとも木端微塵だ…
もの凄い勢いで突っ込んだために爆発が凄かった…
そして爆発の中から変わり果てた彼と敵機の残 骸が海上へと落下していった。


「……ク……う……あああッ!!ああああああ あああぁあああああああ!!!!」

『バババババババババババ!!!』







俺は気が狂ったように叫びながら敵機に向かっていった。

もう無我夢中の文字しかなかった。







「返せぇぇえええ!返しやがれ!!!
 この野郎ォオオオオオオオオオッ!!!」


何を返してほしいのか…

もう…全てだった……







『シュン!シュン!シュン!バッ!!シ ュン!シュン!バッ!…バッ!バンッ!!イィ ィィ―――…』

「甞めんなぁぁあああああああああああッ!!!!」






その時、不覚にも下から来る敵機に気付いていなかった。



『ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ! 』
『ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!』
「イッ!!ガ…グァッ!!くっそ…!くそォォオオッ!!!被弾した―――ッ!!!!」



『被弾、被弾。損傷。警戒!ケイカイ!』

「…っちくしょう…ちくしょぉおおおおッ!! 」






反撃しようとした。
もうこれで終わりにしようと覚悟した。


……本気でそう思った。

その時だった。




「やめろッ!セレン!まだ死ぬな!!!」
「と……た、隊長!!!」



リレイドさんが俺の特攻を阻止した。



「父さんでいい…!もうそう呼ぶのも最後かも しれないしなぁッ!!」
『ババババババババ!!!バンッ!!!キィイ イ―――――…』 


「父さん…」



出撃前の会話が脳を過る―――――




「セレン、お前とは随分一緒に暴れたもんだなぁ…そしてお前は本当に立派になった…」
「ありがとう…」
「父さん嬉しかった…お前にまた会えて本当に嬉しかった。セレンは死んだ母さんの生まれ変わりだ…」
「母さんの生まれ変わり…」 
「あぁ…セレンの顔は母さんによく似ているよ……性格は見事に父さんそっくりだ。」
「ははは…だろうね。」
「でも、セレンはセレンだ。今を生きている事に誇りを持つ…それだけは忘れないでくれ。」
「うん!ありがとう!父さん…俺、鋼の意地…見せるよ…きっと見せつけてやる!!」
「よし、よく言った。もう立派な『鋼の匠』だな!」


父さんはニッコリと俺に笑ってくれた…ずっとこんな言葉を待っていたかの様に。
あの父さんがやっと…『一人前』として認めてくれたんだ。


「行こう、セレン!」
「うん!」


あぁ…幼い頃に感じた感覚と同じだ。初めて一緒に空を飛んだ時と同じ…
幼い頃に見た世界は美しかった…あらゆるものに心をときめかせた。

それなのに…

それなのに……








真実は残酷だ。










「父さん!?後ろ!!」
「!? !! ッ!!」 
『ヒュヒュヒュヒュヒュ!!』




不意打ちだった。不運な事に敵弾は父さんの急所に命中した。




「グアッ!!!!くッ…っ…あ!! セレン!!危ない!」
「ッ!」

『ドンッザンッザンッザンッ!!!』
「ガッ!グッ!グァッ!!!ッアァアアアアアッ!!!」
「父さん!!!」
「来るなぁッ!!!!はやく…早く…イケェエエッ!!」
「嫌だ…嫌だぁあああッ!!!」




 『ババババババババッ!』



「もういい!!十分だ!!早く目標に突入するんだ!!」
「嫌だ…嫌だ…」
「セレン…s…セレン…!頼む…!!」





父さんは血みどろになって今にも息絶えそうだった。
その時、俺に向かって叫ぶ声がした。



「いいから行けェ!セレェン!!行け…行くんだ!!」




先輩だった。
ハヤテ先輩も重傷を負っている…
皆、もう限界だった…ほとんど皆撃墜されていた……。


「お前しかいないんだ!!セレン!!早く!早く行け!!」
「嫌だ…皆を見捨てて行くなんて俺は嫌だ…!!」
「セレン!頼む…!今しかないんだ……!この世界を救うのは…―――― …」
「父さぁぁんッ!!」



「しっかりしろ!セレン…!!行けるのはお前だけだ!!グッ…た、頼むッ!!あとは頼んだぞ!!」

「う……く……せ…先輩……」





「早く行け!…行けぇええええええええええええええええええええええええッッ!!!!!! !!!!」




「う……う………わぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!」



叫んだ。
天空が張り裂けるぐらい叫んだ。

そして、俺は最初で最後の特攻……
SPECIAL ATTACKを敢行した。






「―――――――――――――――――――――――――――― ッ!!」

俺は自力で飛べる最高速度を軽く超え、落下速度もプラスされた超高速で目標へと突入する。
今までこんな速度で飛んだ事なんて無かった…でも、もうそんなの関係無い。
耳に様々な声が聞こえる…死んでいったSP部隊の仲間達の声が……!




“突っ込め…捕えろ…恐れるな…!”
“見せてやれ…これが生き様って事を……”
“目をそらすな…一直線だけ見ろ…”
“行け!俺達の分まで!!”


みんな…


“『行け!!セレン!!!!』”







はい!!!







「――――――――――――――――――――――――ッ!!!!! !」
サイクリングロードの高架がもの凄い勢いで迫ってきた。あと数秒で到達だ。
水面すれすれで飛行する。そして高架下を疾風の如く通過した。もう音速を超えていたかもしれない…

『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!』

何機もの敵機が後ろから俺を追いかけてきた。もの凄いスピードだ。
でも、もうその差は縮まる事は無かった。













『!』
『左舷90度に敵機1機!超高速で接近してきます!!』
『主舵いっぱぁーい!回避――!』
『間に合いません!!』
『く…対空砲火だ!テェー!!!!』

『ドォン!バッ!バッ!ババババババババババババ!!』







だが音速を超えた俺にそんなものは当たる事は無かった。
もう何もかもが無敵状態だった。




『な…なんだアレは…!』
『うわ…来る…!来る…!!せ、船長!!“特攻”をやろうとしています!!』
『そんな…馬鹿な……』

『SPECIAL ATTACK APPLICIANT です!!!』

『退去だ…総員退去…!』
『総員退去――――――!繰り返す!総員退去―――――――――!』










空母『あやかぜ』に総員退去の命令が下された時、
俺は既に最終突入態勢に入っていた。






『目標確認。空母『あやかぜ』まであと1200m。N-Spot中心点誤差3m以内。』 

「――――――――――――――――ッ!!!!!」







『突入するぞ―ッ!!衝撃準備――――――!!!』









『N-Spot中心点、誤差1m以内。突入3秒前、2、』






・ 




“ねぇ、セレン…もし、私が人間って言ったら …驚く?”

“はは、お前は急に何を言い出すんだよ。シークさんにでも感化されちまったか?”

“もしもの話よ。もし私もシークさんみたいに人間界の使者だったら…セレンはどうしてた?”

“そりゃあ、ビックリするよ?でも、もしそうであっても俺はミライを演じる人間は好きになれる気がする。”

“どうして?”

“きっと、その人は優しいはずだから。だって、わざわざこの別世界に来てさ、俺をここまで支えてくれるんだもん。”

“そっか…そうだよね。”




“じゃあ逆に聞くけど、もし俺が実は人間だったらミライはどうする?”

“私は、ちょっと哀しい…かな”

“哀しい?”

“うん…哀しい。”

“どうして?”

“どうしてかなぁ…自分でも分からない。そう感じてしまう。”

“…そっか。”





“でも、それでも…私はあなたに惹かれて好きになるんだと思う。”

“ミライ…”

“結局、なんやかんやで私達は繋がってしまった…ということみたいね。”

“…もう後には戻れないか。”

“うん、時間は正直で…”
“そして…残酷?”

“…うん。このシナリオも、もうすぐ終わる。終わりは案外あっけないものだったりするんだよ。”

“あっけない、か…そうかもな。”

“だから、何があっても最後は自分を護ってね…セレン。自我を無くせば…それでゲームは終わる。”

“分かってる。ミライも自分を護り抜くんだよ。どうやらこのゲームにはリセットボタンが無いらしいしね。”




“ふふっ、そうね。ホント…訳の分からないゲーム。
 背景は神がかってて、サウンド感度が良すぎて…
 ループしているようでしていない。
 イベントは沢山ある時はあるし、無いときは本当に無い。
 攻略がとにかく難しくて…いつだって 、完全な結果にはならない。
 理不尽な事の方が多い。”



“そうだろうね。”


“でもね、このゲームは『幸せ』を見付けられる。
 このゲームの真髄はね、運命の指標を見付けてそれを追いかけ…
 自分だけの答えを見付ける事にあるの。
 
 こんなゲーム他にあるかな?
 
 私は何だか素敵だと思う。”







“…素敵か、そうかもな。”




“ねぇセレン…”



“ん…?”


“私を『命の恋人』にしてくれて、ありがとう。”









『1!』

…………ミライ…………


『0!』





俺は目の前が真っ白になった。

SPECIAL ATTACK APPLICANT 第70話 「運命の日」 ――――― 終
次回、第71話「Good-bye Days」。
幸せに、なれ。