Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第14話 視線】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

それからどうしたのかって?
 
あぁ、訓練初日のTASK1訓練以来は俺は案外すんなり皆に付いていけたよ。
勿論、父さんも今まで通り隊長として俺達をよくまとめている。先輩は一層俺の事を気遣うようになったけど。
でも嬉しかった。それだけで良かった。
 
何かに縛られるのは勿論誰だって嫌だと思う。でもさ、縛られない環境を想像してみて。何がある?
そこには何も無いただ過ぎていくだけの時間しかない。目的も目標も無いのだから。
それってつまり、凄くつまらない生き方をしてるって事。下手したら存在意義すら疑問に思えてくる。
これほど悲しい事は無い。だったら何かにのめり込んで極めてる方がよっぽど充実してるじゃねーか。
縛られてるから成長できるんだよ。縛られなかったら行くあても無くさまよい続けるだけで達成感も何も無い。
 
寂しいよね。縛られずに成長出来たら誰も苦労はしないよ。楽して生きるなんて残念ながら現実には無いんだ。
 
何かを極めりゃ誰だって変人さ。一般からは変な目で見られる。まぁその一般ってのも曖昧なんだけどね。
でも俺は変人でも構わない。変人は嫌いって言いたい奴は好きなだけそいつに言わせときゃいい。
だって何かを極めない限り、自分に可能性なんて出てこないんだよ。最初から終わってたら意味ないじゃん。
それに何かに熱中するって大事な事だよ。そりゃぁ世間から見れば変に思えるかもしれない。
変を超えてカオスな域になると、それこそ考えものだ。エンターテイメント系は少し気を付けた方がいい。
でも、熱中するものが無い方がよっぽどつまらない生き方をしてると思う。自分を表現する場が無いから。
熱中するものがあるからこそ、自分の生きがいや自信に繋がって来るんじゃないのかな。
 
人間関係ってのは作りたくて作れるものではない。長い時間をかけて自然に形成されていくのが普通だ。
お互いがしっかり相手を理解し、信頼し、好意を持つ。そこから始めて関係は広がり、より太いものになる。
同じ事に熱中する仲間と交流すると特にその関係はより大きなものになるはずだ。
だったらより多くのジャンルに熱中していけば、幅広い人間関係が出来ていくという事だ。
一つの趣味に偏らずに色んな事にのめり込んで色んな事を知ればそれは後で知識となっていき必ず役立つ。
そして何よりも自分のためになる。例え今は意味の無い事に思えてもそれでいいじゃないか。
後になって結果となって返ってくるんだから。縛られるのがどうしても受け入れられない?
だったら縛られている環境であがいてあがきまくって後でいつか自分を見下したそいつを見返してやればいい。
やられたらやり返す。絶対に諦めたりなどしない。目的を果たすまで決して。何があっても。
そう思って夢中になって極めるのもありだ。時間はかかるかもしれない。でもそれは絶対後で強力なものとなる。
それに縛られる中で熱中出来るものがあったらその熱中する時間がよりかけがえのないものに思えてくるだろ?
 
周りを気にするか気にしないかは大きな違いだけど時には感情をコントロールする事も必要だ。
 感傷的になる行為は自らを間違った方向へと導く。自身が知らない内に何か大切なものを見落としている。
それに気付かない人は一体今までどのくらいの人々を傷つけてきたのだろう。誰だって怒れば不快になる。
でも、怒って気持ちいいなんて人はなかなか見当たらない。じゃあ批判ってのは何なのだろう。
単なる自分の価値観の押しつけ?正当化?合理化?まぁ結局はどれにも当てはまるけど。
だけど、それは周りから求められているわけではない。自らが求めているだけのこと。
その意見に共感出来る人が大勢いたとしてもそれで本当に正しいのかは誰にも分からない。
勿論、自分だってこの考えが全て正しいとは思っていない。むしろ間違いだらけだと思っている。
でも皆が共感してるからと言ってそれが正しいとは限らない。むしろ騙されている可能性の方が高い。
大切なのは周りに流されない自分自身の意見をしっかりと持つ事。それが例え変だとしてもだ。
変である事を恐れては何も変わらない。変だからこそ誰にも真似できない発想だって持てる。
それが実は今の産業を支えている一つの重要な思想であって求められている思想だったりする。
創造とはこれまで無かったものをつくりだすものだ。これまでの考えにとらわれない独自の発想が必要だ。
周りなど気にしないで自分だけの創造を極め続ければ、やがてそれは世界をも動かすものになるかもしれない。
俺もそんな生き方をしてみたいと思うし、俺はそんな生き方をする姿が好きだ。ただそう思っただけ。
 
俺はあの頃と随分変わった気がする。
 
あの頃って?
 
 
 
 
ナオヤがいた時の事。いや、正確に言えば皆と離れ離れになる時だ。
その頃は俺は周りのポケモンとの関係など今ほど意識していなかっただろう。
ナオヤと一緒に空を飛ぶのが当たり前だと思っていた。皆と一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
でもそれはかけがえのないものだと今になって気付かされた。
 
 
 
失って初めて気付かされた『偶然』。
それは失わないと気付かないものなのだろうか。
 
 
 
今更悔やんでもしょうがないのだけれど、それほど自分が『偶然』に囲まれている事に気付かなかった。
だけどこのポケモン連合軍に入って気付いた。
 
 
生きている事自体がもう『偶然』だったということを――――――。
 
 
 
 
 
 
 
そして、気が付くと人間襲来まであと50日になっていた。
 
自分達は随分と素早い動きが出来るようになった。もうあの初日のように簡単にへばったりはしない。
先輩も既に準エース的存在へとなっていた。T部隊といい勝負くらいだ。
今日もいつものようにアレが来る。
 
「よーし次はセレン君へダイレクトアタ―――ック!」
「きょ、今日はダイレクトアタックですか…」
 
相変わらずボールのように朝飯を渡すアルフィーネさんは日によって投げ方が違う。凄く微妙な違いだが。
そしていつものように翼でキャッチ。なかなか上手いじゃん俺。
 
「ハヤテ!レーザービームいくよ―――――!」
「俺サードかよ…」
 
どうやったらあんなフォームを投げれるのか未だに分からない。先輩の元にレーザービームが飛んできた。
 
「速度、減!」
先輩が謎の技を繰り出した!うん。ただの『かぜおこし』だった。
 
でも凄いな…強力な風抵抗によって本当に減速させてる……いつの間にこんな技を持ったんですか先輩?
 
「…キャッチ完了ですよっと。今日も頑張れよー!」
「そっちもねー!」
 
そしていつもの様にアルフィーネさんは去っていく。もうすっかりお馴染みの風景だった。
そう。今日もいつもと変わらない普通の日だった。
 
 
 
人間襲来までの日数が近づいている以外は。
 
 
 
「おーい、3隊のSP部隊は集まってくれー」
父さ…じゃなくて、リレイドさんが隊員を集めるように呼びかけた。
「よし、皆集まったな。今日は情報部で例のHBD-5000に関する説明があるそうだ。私の後に付いてきてくれ。」
 
……HBD-5000……あの装置のせいで全てが変わった。あの破壊こそ究極の目標だ。真の敵と言えよう。
情報部は何処までその装置の情報を得ているのだろうか……気になる……
 
地下の特殊な部署へとSP部隊の隊員は集められた。
情報部からは大まかな説明のあと、SP部隊にしか告げられない情報もあった。
 
 
HBD-5000本体の大きさだった。
 
 
「嘘……だろ……?」
皆、耳を疑った。俺だって信じられなかった。
「こんなものに…ナオヤ達は…………くッ!!」
 
情報部の調べによると人間界とポケモン界との境界口は幾つも存在するらしく、特定は困難だそうだ。
しかしその境界口は海上の上空と海上限定だけという特徴があった。
陸上での境界口の目撃情報は無かったそうだ。そうすれば重要なのが海上隊と航空隊だ。
しかし地上戦や対空砲撃などは陸上隊が大きな役割を果たす。何処の部隊も油断禁物だ。
 
 
そしてSP部隊は最も危険な使命を託されている事を改めて説明された。
それは…トップシークレット…究極のミッションだった。
 
 
「説明は以上です。それでは元の部署に帰っていただいて結構です。」
 
説明が終わり、情報部のポケモン達は元の役職へと戻っていった。
 
 
 
 
 
 
 
皆、黙りこんだままだった。
誰も席を立とうとしなかった。SP部隊の隊員がいる空間だけ時間が止まっていた。
僕はしばらく下を見て目を閉じていた。そして、ふと前を見た。
前には情報部が管轄する様々な情報機器やモニターなどがあった。
リアルタイムで各地の状況を観測している。情報部のポケモン達はデータ解析など業務を淡々と続けている。
 
その中で何か視線の気配を感じた。ある情報部のポケモンがずっとこちらを見続けている。
俺を見てる……?
自分をさっきからずっと見続けている……もしかして…女の子……?
 
 
 
 
 
 
 
 
“あなたが……セレン……”
 
 
 
 
 
 
 
 
「…え?」
 
思わず声が出た。何も聞こえなかったはずなのに……
……テレパシー?
いや、そんなはずは…彼女エスパー系じゃないみたいだし…………空耳か…?
 
 
 
しかし、思わず俺は彼女を見ながら首を縦に振って頷いた。確信が欲しかった。
 
 
 
すると彼女は俺の目を見ながら真剣な顔で頷いてくれた。
 
 
その眼差しは遥か先を見据えているような目だった。
まるで自分の意思がそのまま伝わっているみたいだった。以心伝心ってこの事なのか…?
 
 
そう思っている内に彼女は背中を向け元の業務を再開しだした。
同時に少しずつ隊員達も席をはずしていくようになり、数秒もしない内に全員動き出した。
止まっていた時間が再び動き始めた。雑音が再び空間を包む。
 
 
俺も皆と共に元の部署に戻ろうとした。
 
 
するとまた気配を感じた。また声が聞こえた感じがした。
 
 
 
 
 
 
“……あなたは……とても大切な任務を背負わされているわ………”
 
 
 
 
 
 
スグに彼女の方向を見た。でも見えたのは業務をこなし続けている彼女の背中だけだった。
そして俺はハッキリと彼女の名前を思いだした。
 
 
ミライ
 
 
先を見据えるポケモン――――――――― …