Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第17話 接触】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

人類襲来まであと30日―――――――
 
訓練はついにTASK全種を想定したものばかりになった。皆、休憩時と戦闘時のギャップが激しくなっていった。
日に日に開戦日だけが近づいていく。いくら自分達が叫んで足掻いても、時間は待ってくれなかった。
その場では止めれても“全体”は誰にも止められない。そして今日も無力だと言う事に気付く自分がいる。
無力という力…そう言うと響きがいいかもしれない…ハハ…………さっきから何言ってんだろ…俺……。
 
実際分からなかった。自分達が戦わなければならなかった理由が。
実際分からなかった。訳の分からない正義を掲げて悪を定義する理由が。
 
実際分からなかった。何が正しくて何が正しくないのか。
 
 
あれ以来、俺は心の隅で『もやもや感』が漂っていた。
アルフィーネさんが教えてくれたミライの本当の姿。その事を知った自分は果たしてどうすればいいのだろう。
このまま何もせずに黙っておくか。それとも青春ドラマみたく何かしらの行動を起こさなければいけないか。
悩んでいた、ずっと。意味も無く。ただ日数だけが経っていった。時間は何時だって正直だ…そして残酷だ。
一つの事に、これでもかと言うくらいに無駄に悩む…俺の悪い癖だ。無駄かどうかは状況によって変わるけど。
こういう時、プラス思考のやつってスゲーと思う。と…言いたいが、どうやらそれもある意味間違いの様だ。
プラス思考故に気付かない事もある。そう考えるとマイナス思考も決して捨てたもんじゃないと思うけどな。
常に最悪の状況を考えるのは何事においても大切だ。嘘だと思っても実際に起きる可能性だって十分ある。
それで、実際にその予感が的中すると勿論ショックは尋常じゃない。でも、ショック度は元とかなり違うはずだ。
ある程度想定出来ていたのだから。一瞬でも“未来”が分かっていたのだから。この差は結構大きいと思う。
でも、やはりマイナス思考のせいで落ち込みやすい性格になってしまうのは問題だ。本当にこれは困る。
だから今日もやっぱり足掻いている自分がいる。自分の場合、『悩む』と言う名の足掻きである。
「この『悩み』が状況を変えるかもしれない。」
そんな足掻きは今日も無駄となるのか。ならないのか。…いいかげん、答えを出してくれ。疲れた。
 
「決めた。会おう、ミライに。」
 
よし、決めたか。頑張れ、セレン。
 
 
 
 
 
 
「……それであなたは…私に会いに来た……」
「まぁ…大体そんな感じ……」
 
午後8時。ジョウト航空隊情報部。俺はミライとの初会話をこんな感じでスタートさせた。
情報部にいるのはミライと宿直担当のポケモンだけだった。日中の忙しい状況から解放された感が満載だった。
いざという時は宿直担当のポケモンとミライが逸早く、施設内に警報放送を流すみたいだ。
 
「大変だね…毎日こんな夜遅くまで…」
「そうでもないわ。一日中ほとんど座ってばかりだから。」
「そっか、あの…ミライ…さん…」
「……何?」
 
「こんな事言ったら失礼かもしれないけど…」
「何?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「まだ…自己紹介してなかったよね…ゴメン」
「……そう……」
 
気が走り過ぎて自己紹介を忘れていた自分。これは甚大なミスだ。
例えるなら面接時に「自己紹介をして下さい」と言われたのに志望理由とか言いまくってる感じだ。
 
「改めて初めまして。俺セレンって言います。17歳のエアームドジョウト第3航空隊SP部隊所属のS-30です。」
「SP部隊…凄い…」
「そうかな…あ、じゃ今度はミライさん…」
「そうね…」
 
ミライは俺となかなか視線を合わせようとはしなかった。
 
「初めまして。私はミライ。セレンさんと同じ17歳。ジョウト航空隊情報部のオペレーターをしています。」
ジョウト出身ですか?」
「えぇ、勿論。」
「…エスパータイプ…だったり…?」
俺は過去の状況とアルフィーネさんとの会話内容を照らし合わせて冗談交じりで聞いてみた。
「……エスパー……?」
彼女は不思議そうな顔で俺を見つめる。
「…な訳ないよねーははは…」
「…………エスパー…………」
どうやら彼女にとっては鳩が豆鉄砲食らったような衝撃だったらしい。いやはや、これは意外だ。
 
気を取り直して、もう一度聞こう。
「本当は電気だよね。」
 
「……そう……電気タイプ…」
「やっぱりそうだよね。変な事聞いてゴメンな」
「……別に気にしてないけど……」
 
出来るだけ俺は笑いを交えて振る舞った。でも、どうも話がイマイチかみ合わない。
ギア比が違う歯車で言うと、俺は異常に早く回っている方の小さな歯車な気がした。
 
「……それで……あなたは実際に私を見て、どう思った?」
「え?」
「…あなたにとって、私はどう見えるの?」
「………」
「………」
「………」
「答えて。」
「………………」
俺はしばらく何も言えなかった。と、いうか言ってはいけない様なオーラが彼女から感じるのだ。
若干ゴースト系の感じも混ざっているのか…彼女には何か不思議なものを感じた。
…ってそんな事思ってる場合じゃない。早く返答しなければ。どうする、俺。どうする…
 
で、出した結論。
 
「あ、いや…その………尊敬するよ……ホント……」
 
「え……?」
あ、俺今何かヤバいこと言った?うわやべーやべー究極のギャンブルもあっさりこんな感じに終わったりして。
おそるおそる聞いてみる。
「……もしかして……今の言っちゃいけなかった……?」
「……ううん…………ただ……」
「ただ……?」
 
「そんな事言われたの初めて……」
 
「…そうなんだ…」
 
珍しく冷静じゃないような素振りを見せた。
その時俺はアルフィーネさんが言ったミライの『本当の姿』というものを少し感じた気がした。
「……尊敬……」
「そう…尊敬するよ…」
「どうして……?」
「…何て言うんだろう…ハッキリ言えないけど……ミライさんは俺よりずっと強い何かを持っていると思う。」
「……強い何か…?」
「具体的なものじゃなくて、抽象的で強い何かを…ミライは…持ってる。」
「…………」
「俺はそう信じてる。」
 
気が付くと俺は彼女を普通に『ミライ』と呼んでいた。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、目をそらしてこう言った。
 
「……こんな私を…あなたは信じるの……?」
 
俺はミライに、こう聞いた。
「……信じるって怖いよね…?」
「…そう…」
「どうしてだと思う?」
「……それは……お互い何を思ってるか分からないから……」
「でも、ミライはそれを打ち破っていたじゃん。」
「え?」
「あの時まるでテレパシーのように俺と話したの覚えてる?」
「……あ……」
「…思いだした?」
彼女は下に向けていた顔を上げて呟いた。
「トップシークレット説明後……」
「そう、それだよ!覚えていてくれてありがとう。」
「……う、うん……」
 
彼女が今回初めて俺と視線を合わせた。若干困惑しながらも『本当の姿』が少し表れている。
そしてミライは呟いた。
 
「そっか…私もう……セレンを…信じていたんだ……」
 
今度は俺が驚いた。初めてミライからフルネームで呼ばれた。ミライは直後にその事に気付いた。
「あ……呼び捨て……」
「いやー構わんて。こっちだって普通に『ミライ』って言ってるし。」
俺は笑いながら答えた。今度は彼女が驚いた様子だった。それで次に俺はその数倍驚いた。
「………ゴメンね。」
いきなり謝ってきたのだ…ちょどうすりゃいいの、俺。
「どうして謝んの…?」
「……自分でもよく分からない……ただ…」
今回二回目の『ただ』発言。ドキドキが尋常じゃない俺は何?今で言うチキン野郎ってことか?なんてことだ。
さぁこんな俺にミライはどう答えるんだろう…
「た、ただ……?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「セレン……就寝時間過ぎてる……」
 
 
…マジか。