人類襲来まであと20日―――――――
俺とミライは10日前のあの接触以来、度々会う関係になっていた。
とは言っても相変わらず会話自体はギクシャクしていて、常に発言には気を使っていた…つもりだ……。
はっきり言うとこれに関しては自信が無いのが本音だ。相手は年頃の女の子。
少しの事で揺れ動く可能性だってある。ま、そういう自分も年頃の男の子な訳だが…
実際のところ、その時の俺にはよく分からなかった。
ただ…誰かを悲しませる様な事はしたくは無かった。これだけはハッキリ言える。
ナオヤと一緒にいた頃はこんな事思わなかった…それなのに、今はまるで中身が変わった様な自分がいる…
明確ではない変化に翻弄されるのは何時だって自分自身だった―――
「よぉセレン、お目覚めかい?」
…また朝が来た。何時だって俺は朝が嫌いだった。また今日も誰かを不幸にさせるのかと思うと悲しかった。
誰かを幸せにするために生きたかったはずなのに…結果としていつも誰かを悲しませている気がしてならない。
そして、そう思ってしまう自分も悲しかった。けれども……それでも朝はやってくる。何も変わらずに。
「先輩…今、何時っすか…?」
「朝の6時12分43秒ってところだな。」
「…なるほど。細かい。」
まぁこんな冗談まじりの会話も既に慣れていた。でもやっぱりそれでも眠いものは眠い……zzZ…
「おいおい寝ちまったよ…誰か、セレン君起こしてやって。」
はは…一体誰が俺を起こすんだろ…見物だ。
「ここは…俺に任せて下さい…」
お、誰か来た。さぁこの俺を起こすことが出来るかな?
「今週号のジャ○プに 『ハ○ター×ハ○ター』 が載っている!」
「!?」
俺はとっさにその場を起き上がった。
「お、ハヤテ。セレン君起きたぜ。」
「おぉやるなー、さすがだぜ。」
「んじゃまたー」
「おう。」
いやいやいや!待て待て待て!!!
流石に冗談がきつ過ぎると感じたのは俺だけだろうか。…って、こんな事で目覚める俺も俺だよな…はぁ…。
「今の何なんすか…」
「んー、俺と同期の奴だよ。上手い冗談だろ?」
「不覚…というか……誰うま……」
こんな感じで今日も朝がスタートした。とてもこれから訓練が始まるとは思えない朝だ。
ただ、こんな冗談が通じるのは一日の内この時間帯と夜だけだった。
日中の訓練ではこんな会話などはあり得なかった。むしろ…あってはならなかった。
今日はジョウト上空の巡回も兼ねた各種飛行訓練が主だ。
急降下や急上昇は例の『絶望鬼ごっこ』でお手の物だったので大分楽と言えば楽になった。
いや…楽と言うよりはスムーズになったというほうが正しい。決して楽なものではないからな……
そう思うと怖くて仕方がなかった。20日…長いようで恐ろしいぐらい短い…それがこの微妙な日数だ。
ふと自分の翼を見る。所々傷の後が目につく。これまで嫌というほどポケモン達からの攻撃を受けた。
そしてよけまくった。逃げまくった。逃げて逃げて…逃げた結果は結局、経験として積み重なるだけだった。
そうやって過ごすうちに分かってきた事がある。
徐々にではあるが、俺は強くなっている。
ほんの僅かかもしれないが…でも確かに変わっている。あの日以来、初めてそんな事を俺は考えた。
あの日…人間界がこの世界に宣戦布告してきたあの日から俺は何時だって無力だと思っていた。ずっと。
確かに俺は無力だった。すぐに泣いて…何も言えず…すぐに逃げて…答えなど見つけられなかった。
弱虫で臆病で何も出来ないそんな奴だ思っていた。
でも、日々過ごす内にその考えは変わった。
皆何処かで孤独を持っていて、
それを必死に隠していて、
それを隠すためにそれぞれ独自のキャラをつくっていて、
そして、自分自身の姿を維持している。
結局、誰もが同じ壁にぶつかっている事を俺は知った。
誰もが同じものを求めて…現実よりも夢を見続け……そして何処かで逃げている…
何かを得ようとしたところで何も得られないと知った時……人はそれを絶望と呼ぶ。
優しさ…思いやり…信頼…愛情……
生きているからこそ、求めたいものなのかもしれない…
だから…足掻き続けるのだろう…生きている限りずっと。
その事に気付いた時、もう既に開戦へのカウントダウンは確実に迫っていた。