Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第21話 終わる日常】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

人類襲来まであと3日―――――――
 
ついに開戦まで数日を切った。そして数時間前、ポケモン世界ではついに警戒宣言が勧告された。
ポケモン世界の全ポケモンは軍によって保護され、軍所属のポケモンは警戒態勢を取るよう指示された。
一瞬の隙も許されぬ事態となり、もうここからは日常という言葉が示す世界はほぼ消えたに等しかった。
しかし、相変わらず地上は静寂に包まれていた。
空には白い雲がゆっくりと流れ、日はいつもと変わらず地上を明るく照らす。全くと言っていいほど平和だった。
皮肉な事にその平和な風景が逆により一層、自分達の緊張感を高めていた。
一方、地下・水面下ではポケモン達による史上空前の軍備編成が整えられていた。
そして、その軍を統括するのが上層部並びに情報部だ―――
 
 
人類は何処から来るか――――
 
その課題に情報部は開戦の直前まで議論を重ねに重ねた。
この日も、各地方の情報部が中継システムを用いてその課題についての会議が行われた。
勿論、ジョウト情報部も参加している。ジョウト情報部代表はミライが務めていた。
そう言えば言っていなかったが、我々ポケモン世界の本拠地は御存じ、カントー地方である。
いつもの様にカントー情報部の指揮の元、会議が始まる。
 
―― 第176次連合軍合同会議 ――
 
カントー本拠地:
「では、これより第176次連合軍合同会議を行います。今会議の議題は前回同様、人類襲来予測についてです。 まず、新たな予測データ等があれば各地方ごとに報告して下さい。」
 
ホウエン本拠地:
「はい、ホウエン地方より報告します。電波・音波等の波形データ、更にエスパーによる最終的な解析の結果が 出ました。ホウエン地方には“N-spot”は一つ存在します。場所はミナモ沖…人間世界の距離に換算すると
 種子島屋久島沖約10kmの海域並びに海中と推定されます。」
 
シンオウ本拠地:
シンオウより報告します。各データを解析した結果、“N-spot”は三つ存在する事が判明しました。場所は、
人間世界の距離に換算すると根室沖約60kmの海域、十勝沖約20kmの海中、留萌沖約7kmの海中です。」
 
▼イッシュ本拠地:
「続いてイッシュより報告。様々なデータ分析の結果、“N-spot”本体は存在しない結果が出ました。」
 
カントー本拠地:
「本体?イッシュ地方に“N-spot”は見つからなかったというわけか?」
 
▼イッシュ本拠地:
「いえ、“N-spot”の歪みらしきものが多数観測されています。ただ規模としては、どれも小さいものです。」
 
カントー本拠地:
「つまり、機能はあまりしていない…でも歪みでも“N-spot”になる可能性が十分あるからな。その観測数は?」
 
▼イッシュ本拠地:
「は、それが全てを含めると数にして64箇所もありまして…とてもイッシュのポケモンだけでは防げません。」
 
カントー本拠地:
「どういう事だ。何故イッシュに、こんなにも集中しているんだ。」
 
▼イッシュ本拠地:
「現段階では分かりません…歪みというのも不自然ですからね。我々はこの歪みに警戒を続けています。」
 
カントー本拠地:
「了解、他に何か分かったら早急に伝えるように。次、ランセ地方。」
 
▼ランセ本拠地:
「各地方同様にデータ解析の結果、“N-spot”は一つ存在する事が分かりました。場所は南エリアです。」
 
カントー本拠地:
「了解、次は○○○地方。」
 
▼○○○本拠地;
「同様に各データ解析の結果、“N-spot”は一つ存在します。場所は○○○沖の海域並びに海中です。」
 
カントー本拠地;
「ランセとパターンが似ているな。」
 
▼○○○本拠地:
「その共通点も考えた上で作戦計画を立てていこうと思ってます。」
 
カントー本拠地:
「了解、ジョウト地方はどうだ?」
 
ジョウト本拠地:
「はい。データ解析の結果、“N-spot”は5つ存在します。ご存じの様に全て海域並びに海中です。」
 
カントー本拠地:
「つまり、“N-spot”の特徴として定義している海域並びに海中にしか存在しないというのは正しいというわけか。」
 
ジョウト本拠地:
「そういう事になりますね。“N-spot”は陸上並びにその空域には存在しないと言うことがこれで判明しました。」
 
ホウエン本拠地:
「でも何故、海域並びに海中限定なのでしょうか。普通、敵側からしたら陸の方が都合が良いでしょうに。」
 
シンオウ本拠地:
「しかも各地方によって“N-spot”がバラバラなのも不自然だ。それにイッシュの歪みも…」
 
▼イッシュ本拠地:
「ある地方だけに特化している現象だったりするかもな。」
 
▼ランセ本拠地:
「ま、敵の最終目的はカントーである事には変わりないでしょうけど。」
 
▼○○○本拠地:
カントーは私達の最終防衛地点ですからね。」
 
カントー本拠地:
「そのカントーだが、“N-spot”は二つ存在する。変わった点として、両方近い位置に存在するという点だ。」
 
シンオウ本拠地:
「つまり集中攻撃の可能性もあるというわけか?」
 
▼ランセ本拠地:
「人間も残酷な攻撃の仕方を考えるものですね。」
 
カントー本拠地:
「何にせよ、この“N-spot”から敵が進出する可能性は高い。我々は一層の警戒が必要かと思われる。」
 
ジョウト本拠地:
「特に最終防衛地カントーは敵の集中攻撃が予想されるので各地方は視野に入れておくように。」
 
ホウエン本拠地:
「今一度確認します。LEVEL E が発令されたら…特攻発動ですね…?」
 
カントー本拠地:
「…LEVEL E は最終手段。最後の最後に発動するかもしれない…その時は皆、覚悟してくれ。」
 
▼全本拠地:
「了解。」
 
カントー本拠地:
「今会議は以上だ。次回の合同会議は6時間後に行う。それではまた。」
 
 
―― 状況終了 ――
 
 
 
「…LEVEL E …」
午後0時。ジョウト航空隊情報部。彼女はいつもの様に定時会議を済ませた。
 
「や、ミライちゃん」
後ろから声がした。
「先輩…」
「やめてくれ、俺は先輩なんて柄じゃない。君には頭が上がらないよ。」
「頭が上がらないのは LEVEL E に参加する志願者ですよ…」
「彼らは自らの運命に逆らって生き抜こうとしている名もなき真の勇者…彼らの意志を無駄にしてはいけない。」
「えぇ…全力で彼らをサポートするのが私達の役割だと改めて認識させられます…」
 
「そういえば、この間ミライちゃんが修正した敵の上陸予測場所のパーセンテージの件、上に通ったよ。」
「結構変わりました?」
「それがね、どうもまだ不十分な要素があるみたいでね…“N-spot”の存在が明らかになったのはいいけど…」
「“N-spot”の位置も微妙ですからね、何とも言いにくいです。」
「でも今の所、ミライちゃんが言ったタンバ上陸案が最も有力みたいだよ。敵にとって一番都合がいいからね。」
「そうですか……やっぱり敵も敵でこちら側の事を考えてるんでしょうね……」
「人間界の人間…か。ミライちゃんは奴らが本当に、この世界を終わらそうとしていると思うかい?」
「終わらそうとしているのは事実だと思いますが……ただ、どうしても分からない事があるんです…先輩…」
「?」
 
 
“この世界を消そうとしているのなら何故、人間界の人間は私達を突然予告なしに消去せずに、
 この世界にポケモンだけを残し、醜い戦争をしかけて徐々に自滅していくように消そうとするのか…”
 
 
「驚いた、もうそこまで突き詰めたのか。」
「どうしても分からない謎なんです……」
「いやぁ、やっぱミライちゃんは凄いな。ホラ、この前の技能試験結果届いたよ。」
「あ、ありがとうございます。結果、結果と…」
「一問の差が勝敗を分けるとはな…いと悲しき事かな…」
「え?」
「おめでとう。情報無線技士特級、合格だ。」
「…これ素直に喜んでいいんでしょうか…」
「何言ってんの、自分で勝ち取った資格じゃない。素直に喜んだらいいよミライちゃん。」
「あの…先輩は?」
「俺は……あと一問届かなかったんだぜっ!ちくしょー羨ましいぜ、このっこのっ」
「あうぅ~先輩やめてくださいぃ~」
「いいなぁ、特級!いいなぁ、特急も!」
「先輩、電車好きなんですか?」
「あぁ、なんつったって小さい頃から電車無線に憧れてたって言う変な動機で情報の世界に入ったから」
「…やっぱり他の人に何かを伝えるって…素敵な事ですよね…」
「そうさ…情報もいい面が沢山あるんだ…情報を扱う者としてその事を忘れてはならない…」
 
(そっか…そうだよね……セレン…この事を思い出させてくれてありがとう…)
 
「そういえば最近ミライちゃん口数多くなったよね。何かいい事でもあったの?」
「いや特には無いですけど」
「おやおや~?怪しいぞ~?」
「怒りますよ?」
「ササササーセン
 
 
 
全くと言っていいほど平和だった。日常の崩壊を示すカウントダウンが動いている以外は。
日常が崩壊する。それは、今までの日々が崩れていくと言う事。
失うまで気付かない日常の尊さ。そして、失ってから気付く周りを取り巻いていたかけがえのない絆。
 
ある奴がいた。気の合うとてもノリのいい奴だった。気が付いたら隣には常にアイツがいた。それでも、
冷たくした事もあった。無視した事もあった。喧嘩をした事もあった。死んでしまえと思った事もあった。
でも、ある日奴が突然俺の前から消えた。音も無く、影も無く、予告も無く、忽然として姿を消した。
俺は奴を必死に探した。周りに気付かれない様に心の中で必死にアイツを追い求めていた。
でも、奴は帰ってこなかった。アイツは本当に姿を消した。俺の心の中から完全に消え去っていた。
俺とアイツとの日常は気付いたらエピローグどころかスタッフロールまで終わっていた。
そして、アイツが発見された時、俺とアイツとの日常という名のゲーム画面は黒くなり、こんな表示が出ていた。
 
「Thank you for playing !!」
 
アイツからのメッセージだった。
そして、日常というゲームは振り出しへとリセットされた。
 
 
 
 
 
そしてこの日、アイツもリセットされた。