Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第22話 開戦】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

人類襲来まであと1日―――――――
 
この日は風が強かった。空は大きな雲が次々に流れている。
明日、自分達は何処で何をしているのだろう。あと数時間で、世界を賭けた戦いが始まる。
でも、そんな実感は結局最後まで無かった。
明日も普通に訓練があって、先輩達とつるんで、仲間達とじゃれ合って、父さんとも離れ離れにならずに、
女の子ともきゃっきゃうふふ出来る。そんな感覚が最後まで自分を取り巻いていた。
 
思えばこの3ヵ月色々な事があった。自分自身すら変えてしまう日常だったが、嫌いでは無かった。
今まで出会えなかった様々な方に出会えたし、新しい世界も知る事が出来た。
そして自分と同じような存在がいる事も分かった。同じ事で苦しんでいる仲間がいる事を知った。
視野が狭くなる怖さを知った。視野が広くなる残酷さを知った。いつだって真実は残酷だった。
それを踏まえた上で明日を迎える自分。自分は果たして明日という現実を受け入れられるだろうか。
こう思っている内にも時間は無差別に時を刻み、確実にその時間は近付いてきているというのに。
 
 
「や!セレン君!」
アルフィーネさんの声が後ろからした。
「どうしたの、また考え事?」
「あ、アルフィーネさん陸上隊の方は?」
「今日は開戦に備えて早めに部隊の仕事を終わらせてきたの。セレン君は?」
「航空隊の方もあとちょっとで終わりそうです。今は休憩というわけで。」
「そっか。…セレン君…無茶しないでね。」
「?」
「SPECIAL ATTACK APPLICANT…死んだら私…許さないから。」
アルフィーネさん…」
「自ら死を選ぶような事だけは絶対にしないで…例え自分の意志だとしても…」
「分かってます。俺は死ぬために戦うんじゃないんです、護るために戦うんです。」
「セレン君…」
「簡単には死んだりしません…そんなフラグ、圧し折るつもですから。ミライのためにも。」
「…変わったね…セレン君…すっかり大人になったじゃないの。」
「どっちかって言うとオッサンに近づいたって感じです!」
「ふふ、セレン君らしいね。最後まで笑って終わらせようとするところが。」
「笑った方がやっぱ楽しいですからね!」
「そうよね…本当に変わったね、セレン君…私が今度は見習う番ね。」
「そんな、アルフィーネさんの方が圧倒的に強いじゃないですか。」
「ううん違うの。私の場合、性格じゃなくてメンタルが弱いの。だからセレン君から学ぶ事は沢山あるんだ。」
「メンタル…か」
 
「…そのせいでホウエンから逃げてきたようなもんだから…」
「え?」
 
「ううん何でも無い!とにかく、戦いが始まる前にセレン君と話しておきたかったの。ありがとね。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
「これから会う機会はめっきり減ると思う…でもきっとまた会えるよ、そう信じてる。」
アルフィーネさん…」
「そうそう、今度からどこぞのアニメみたいにアルって呼んでもいいよ」
「それじゃネタが被ります、アルフィーネさん」
「あは、バレちゃったか。まぁとにかく、そういう事で!また会おう!セレン君!さーらばー!ハハハハ!」
「どういう去り方やねん」
 
アルフィーネさんはいつもの調子で陸上隊のブースへと去っていった。
俺にはその後ろ姿がとても重く見えた。もしかしたらこれが最後になるかもしれないのだから…
でも、アルフィーネさんは最後は笑って別れた。少しでも俺に心配をかけまいとしていたのだろう。
そうだとしたら、その心遣いは大切に受け止めたい。それがアルフィーネさんの愛情なのだから。
「行っちゃったか…」
俺は残された航空隊の仕事をさっさと終えるために、足早に元の部署へと戻っていた。
 
 
 
そして仕事を終え、万全の戦闘準備を整えた頃にはすっかり日が暮れていた。
そして一通りの最終チェックを終え、後は戦闘態勢に入るだけとなった。時間は午後11時過ぎをまわった。
ミライが所属する情報部も戦闘前最後の合同会議を終えた様で珍しく情報部の部署を出て休息をとっていた。
たまたま俺も休憩中だったので早速ミライに話しかける事にした。
 
「や、セレンゲティこと、セレン登場~」
「それ何気に気にいってるんだ」
「自分でも不覚だったぜ。人間世界に似たような地名があるとはな。」
「それより…どう?戦闘態勢は万全?」
「あぁ、Flexもちゃんと作動チェックしたし、各編隊の順序も覚えたし、各作戦の意味も覚えた。」
「ならよかった。一応、休憩時間だけど部署の方は大丈夫?」
「それなら心配無いよ。後は戦闘態勢に備えるだけ。」
「そっか…ありがとね…」
「なにが?」
「最後まで私に構ってくれて…」
「何言ってんだよ。俺達って、もうすっかり何でも言い合える仲じゃん。な!」
「うん…」
「俺とミライが初めて会った時のこと覚えてる?最初びっくりしたよ、テレパシーだったから…」
「実はね…あの時私凄い嬉しかったんだ…テレパシーが通じたの…セレンが初めてだったから…」
「そうなの?」
「セレンだから通じたのかも…とにかく凄い嬉しかった…上手く感情を表現出来なかったから…」
 
「俺にはしっかり伝わってるよ」
「…!」
 
「ミライって何処か恥ずかしがり屋な感じだけど、決して感情表現が出来ないって事は無いんじゃないかな。」
「そうかな…」
「少なくとも俺には痛いくらい伝わったし、本性は凄い優しい奴なんだって分かった。それって凄い事だよ。」
「上手く表現出来なくても…?」
「上手く表現出来なくても相手に少しでも伝われば、相手によって伝わる量が変わるんだよ。」
「それがセレンだったんだね」
「ま、まぁそんな感じかな」
「ふふ、やっぱり面白いねセレンって」
「え?俺いま何か変な事言ったっけ?」
「いやいや、別に可笑しいってわけじゃないんだけど、なるほどなぁって思ってね…ふふ…」
 
どうやらミライなりにツボってしまう会話だったらしい。ま、楽しいならそれでいいや。
 
「それで…情報部の方は大丈夫?」
「うん。戦闘前最後の合同会議も終わったから、後は日付変更後20分後までに行けば大丈夫だよ。」
「そっか…ミライもわざわざ俺に構ってくれてるんだね…ありがとう」
「そんな私は… でも…そういう事にしとこうかな…しばらくこのままがいい…」
「ミライ…」
 
 
日付変更まであと数十分。俺達は開戦前最後の基地内をぼーっと見ながら一緒に過ごした。
幸せな時間だった。お互いぎこちなかったけど、それでもお互い一緒にいる幸せを感じていた。
初めて心で通じ合った相手…おそらく彼女も自分と同じことを思ってるに違いない。
信じる怖さはお互いよく知っていた。だから逆に一層、お互いを信じ合う事が出来た。
同じ苦しみをお互いよく知っていた。だから一層、分かち合う事が出来た。
周りと接するぎこちなさをお互いよく知っていた。だから一層、優しく接する事が出来た。
 
相手を失う辛さをお互いよく知っていた。
だから一層、相手を大切にしようと思う感情が芽生えた。
 
気持ちを打ち明ける相手なんて一人で十分だ。十分過ぎる。それでいいのだと思う。
曖昧な綺麗事を盾にしているだけかもしれない。人間も同じ事を考えるのだろうか。
考えるとしたら、人間にはこの戦いがどう映ってるのか直に聞いてみたい。
でも知った所で俺はどうする。何も出来ないままなんじゃないのか。
だから、俺はいつまでも足掻き続ける。
足掻いた所で結果が出ないとしても、自分を信じなくて誰を信じる?神か?
こんな言葉を聞いたことがある。
 
「自分を愛さなきゃ人も愛せない」
 
自分を否定することよりも、自分を愛す努力をする…そんな大切さを教えてくれる言葉。
やっぱり俺も人間と同じ事を考えるんだな…皮肉だよな…ハハ…
…これじゃまるで…
 
 
 
 
 
 
「もう一人の自分と戦ってるみたいだ… だよね」
「!?」
「全部分かってるよ、セレン」
「ミライ…」
 
 
 
 
“死なないでよ……絶対に…”
 
“バーカ、俺が死ぬ訳ないだろ。…………絶対、生き残るからよ!”
 
“………約束して………”
 
“あぁ、約束さ!”
 
 
 
 
 
時刻は午後11時59分になった。基地内に秒読みの時報カウントが放送で響き渡った。
「ピッ…ピッ……午後11時59分50秒をお知らせします。…ピッ…ピッ…ポーン……ピッ…ピッ…」
 
 
「…始まるな…」
「えぇ…」
 
 
「ピッ…ピッ…4月1日午前0時丁度をお知らせします。ポッ…ポッ…ポッ…ポーン………………」
 
 
 
 
 
 
 
 
戦いが、始まった。