Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第23話 Love Day】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

“4月1日午前5時になりました、NTVニュースです。今日から新年度です。各企業では今年度新たに入社する新入社員の入社式が行われます。今年の大学生の就職内定率は80.5%で、2008年以降、就職難が続く中で就職内定率は徐々に回復している模様ですが、依然として厳しい状況が続いています。先日行われた、大手総合電機メーカー「日本電機工業」の入社説明会では、これから新たに会社を支える新入社員が説明会の話に真剣に耳を傾けている様子でした。今日入社式を迎える新入社員を始め、新年度に向けて各業界では各地で式典が執り行われる予定です。それでは気象情報です。
今朝は比較的暖かい日和となり、日中の気温も平年並みかそれ以上になるでしょう。概況です。日中は太平洋沖を低気圧が通過し日本列島は曇りの地域が多くなりますが、目立った雨は降らずにどんよりとした天気になるでしょう。また中国大陸から黄砂が飛んでくる可能性があり、日中は視界が霞むかもしれません―――”
 
プッ
「新年度か…人間界もお気楽なもんだな…ん?待てよ?黄砂…?」
カチッ
“――― 以上、気象情報でした。引き続きモーニングクラシックをお楽しみください。~♪”
プッ
「ちっ、肝心な所を聞き逃した…あの日以来この世界の天気は人間界と連動するようになったっていうのに…」
 
人間界がこの世界に宣戦布告をしてきたあの日から、何故か天気が人間界と同じになっている。
若干のずれはあるものの、人間界が発する電波を元に記録を取ると確かに地域ごとに天気が連動していた。
そもそもこの世界で人間界が発する電波が受信出来るようになっているというのも不自然な点ではあるが、
その事が逆に上層部で言われる“N-spot”の発見に繋がったといっても過言では無い。
ただ、その“N-spot”には特殊なバリアーが張られていてこちら側から向こう側の世界に行くことは出来ない。
もっとも誰も行きたがる者はいなかった。わざわざ敵地に足を踏み入れるようなものな上に、自分たちがこれまで見たことの無い世界に対する不安感の方が期待よりも強いからだ。だが、向こう側の世界に行くことは決して不可能なことではない。敵が現れた瞬間にバリアーが解かれる一瞬の隙にこちらが飛び込めば、そのまま“N-spot”を潜り抜けることが出来るらしい。ただ、その“N-spot”の中がどうなっているのかは分からない。
全くの未知の世界がそこにはある。噂では下手をすれば四次元の入り口になるだとか、更に別の世界に飛ばされるんじゃないかなど、諸説色々あるようだ。だからこそ誰も近付きたがらない。それが“N-spot”だった。
 
しかし、情報部の調査によって敵が“N-spot”から出現するのは必然なものとなった今、ポケモン界に生きる自分達はそこに注視せざるを得なかった。各地方は常時、“N-spot”を見張る日々が連日続いた。
 
 
 
ジョウト航空隊SP部隊宿舎。
 
「どうした?セレン、ラジオ壊れたのか?」
「いや、受信できるチャンネルは今全部ニュースとかそういうのやってないんで切ってるんです。」
「そうか、じゃちょっと貸してくれ。」
「はい。」
父さんこと、リレイドさんにラジオを渡す。ちなみにラジオと言っても中古のもので、受信周波数も限られていた。
ただ父さん曰く、ある特定の周波数から普段は砂嵐状態の音声から時々何かが聞こえることがらしい。
 
“ザ―――――――― …”
 
「父さん何か聴こえる?」
「いや、今は何も聴こえない。でもこの前は何か人の声のような音がしたんだ。」
「ローカル放送とか電波が弱いのがたまたま入っただけじゃないの?」
「いや違う。それとは違う何か…もっとこう特殊な放送みたいだった。」
「ふーん…」
聞くところ見るからに怪しかったが、特に気にはしなかった。でも念のために情報部に知らせとくか…
俺は自分のFlexの通信機能を用いてジョウト航空隊情報部を呼び出した。
 
S-30「あの、第3航空隊SP部隊のS-30です。今呼び出しOKですか?」
#2-3「はい、勿論OKです。…って、あれ?その声セレン?」
S-30「あれ?もしかしてミライ?」
#2-3「あれれーこれはお邪魔虫な感じですかぁ?
ミライとは別の声がした。
#2-3「ちょっ違っ…今通信中なんだから静かにしてっ…!」
#2-3「うぃーっす
S-30「…誰?」
#2-3「第2陸上隊のえーっと…君!名前は?」
#2-3「は?俺?
#2-3「いいから答える!」
#2-3「ヴァンっていいまーす!よろしく!
#2-3「ね?聞こえたでしょ?そういうこと。情報部の♂ポケモンに用があるみたいでね…」
S-30「ほー」
#2-3「それより何か用があって呼びだしたんだよね、何?」
S-30「ラジオの件でちょっとね。」
#2-3「もしかして謎電波の事?」
S-30「多分それだ。」
#2-3「それなら情報部が常に監視しているんだけどね…私も以前から気になってる…」
S-30「あの電波…向こうの世界のだろ…?」
#2-3「………」
S-30「やっぱりな。お前が答えれないって事は向こう側の裏情報なんだな。」
#2-3「………」
S-30「何か聞き取れたのか?」
#2-3「…シガツ……サギョウエーカイシ…………ゼンコク…ジドウ…カイザン……Love Day……オワリ…ハジマリ…」
S-30「Love Day?」
#2-3「おそらくLove Dayは今日4月1日の事…」
S-30「くそっ…そういう意味か…」
#2-3「今日は何か嫌な予感がする…気を付けて…」
プッ
―― 状況終了 ――
 
 
「Love Day…4月1日……何処までも甞めやがって…」
 
4月1日。世間ではこの日を俗にエイプリルフールという。この日だけは嘘をついても良いという謎の風習だ。
しかし、この4月1日はある年にLove Dayと呼ばれた事がある。1945年4月1日、沖縄戦開始日である。
この日、米軍は日本軍最後の砦である沖縄へ上陸を開始した。
その際に米軍が使った、この日を示す暗号が「Love Day」だった―――
 
「この世界がその事を知らないと思ったら大間違いなんだよ!」
「どうしたよ?エア君」
「あ、ハヤテ先輩。実は…」
 
 
「…なるほどねぇ、敵はわざわざこの日に合わせたってわけか…最初からクライマックスにする気かよ。」
「向こう側がどれだけ此方を軽く見てるかってのがまる分かりですね。」
「しかし、向こう側はいざとなればこの世界を一瞬で消せるんだ。無理も無いな。」
「くそっ遊びのつもりか、あいつら。」
「その遊びをやめさせるのが俺達の使命だろ?」
「そうですね、さっさとこんなくだらない遊びなんて終わらせましょう。」
 
 
そう、最初は遊びを終わらせる感覚だった。でも遊びにしては、静かすぎる始まりだった。
 
“敵は何処から来るか――――”
 
全本拠地は万全の体制で敵の出現を待ちかまえていた。特に“N-spot”には最大限の監視体制がしかれた。
しかしこの日の午前、敵が出現したという情報は全く入らなかった。地上並びに海上は静寂に包まれていた。
情報部には定期的に部隊からの連絡は入って来るものの、敵出現の連絡は未だに無く正午を迎えた。
 
「こちら第5海上部隊、“N-spot 1”に異常見られず。」
「各部隊より通達、同じく残りの“N-spot”にも異常は見られません。」
「こちら第4航空隊、上空にも敵の出現は確認できません。」
「こちら第2陸上隊、地上には猫の子一匹いません。」 ……
 
 
“何故、敵は現れない―――”
 
気付けば皆、「何処から来るか」では無く「何故現れないのか」に意識が変わっていた。
確かに敵が確認しにくい天候にはなっていた。上空には薄い雲が広がり、太陽光は入るものの黄砂によって
視界は良く無かった。海上も同じ状態だった。しかし、エスパー系ポケモンによって監視はほぼ完璧だった。
海中も異常は見られなかった。…何も起こっていないのと同じだった。
まるで自分達がここまで警戒しているのが馬鹿らしくなるくらい、静かだった。
そして何も起きずに、何も変化無く、日没の時刻を迎える事となった。
 
「おかしい…何かおかしい…」
「考え過ぎなんとちゃうか?って思わせるのが奴らの狙いか」
「神経使わせといて次第に油断させるという点が何と言うか…人間らしいですよね…」
「完全に奴ら楽しんでますね、きっと腹が煮えくりかえる程可笑しいんでしょうね私達の行動って」
 
隊員達の会話も次第に、増えてきた。罠なのは分かっていた。
でもいざ目の前にすると、不気味以外の何物でも無かった。それが演出として分かっていながらも。
 
 
そして翌日の朝まで結局、何の変化も起きなかった。
 
しかし、2日目の朝。シンオウ情報部は“N-spot”の若干の変化を観測していた。
僅かな振動だが、振動パターンから何かが通り抜けたと判断された。
この結果は直ぐに全国の情報部へ伝わった。上層部はシンオウに一層の警戒体制を取るよう命令した。
そして、この事は各地方の各部隊にもFlexによって伝えられた。
 
#2-3「…という事です。ジョウト各部隊も引き続き、警戒をして下さい。以上です。」
プッ
―― 状況終了 ――
 
ミライが各部隊に伝えた直後だった。突然、シンオウ海上東エリアが赤く染まり警報が鳴った。
ピーッ!ピーッ!ピーッ!
シンオウ地方、單冠湾付近に人間界のものと見られる大型船一隻の船影を発見。警戒せよ。』
 
 
 
その警報が鳴った直後、誰かがシンオウ情報部へ一報を入れた。
「あの船、全く動いていないみたいですよ。」
 
その一報に誰もが耳を疑った。一報を入れたのは人間から伝説と言われるポケモンだったからだ―――