Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第37話 告白】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

N-spot 3 付近上空。俺達は上空から「S-TF 2.3.1」の有り様を見続けていた。

「“ご愁傷様です”としか言いようがないな。哀れむ価値があるかは分からんが。」
「シークさん…」
「ん?」
「あなたは一体、誰に狙われているんですか…?」
「さっきの話か。セレンは知らなくていい、知らない方が身のためだよ。」
「俺…なんとなく分かっているんです。シークさんが誰に狙われているのか…」
「……


「あちら側の世界の人間…ですよね?」


「…もしそうだと言ったら?」
「狙われている理由を聞きます。」
「そうなるわな。」
「ちゃんと答えて下さい!シークさん!」


しばらく沈黙した後、シークは口を開いた。
「セレン、どうして私が君に対して必要以上に接触しているか分かるかい?」
「え?」



シークの口からとんでもない発言が飛び出した。















「君を消すためだ。」


「(な…!?)」

セレンはシークの傍から反射的に離れた。

「驚いたかい?」
「な、何を言っているんですか…シークさん…冗談はよして下さいよ。」
「セレンの言ってる事は半分当たっている。だが、私が本来ここに来たのはセレン…君を消すためだ。」
「は、はは…嘘だ。嘘に決まってる。だってそうじゃないか!でないと、俺はもう死んでるはず!」
「そう。本来ならセレンという媒体は既に、この世界には存在しない事になっている。」
「ほ、ほら!やっぱり嘘だ!嘘じゃないか。シークさんが俺を殺すはずが無いんだ。」

「本当にそう思うかい?」
「何…」
「お前がそう思うならそうなんだろう、お前ん中ではな。」
「そんな思い込みが激しい人や的外れな意見を述べる者に対する煽りとして使われるような言葉には動じない。」
「あえて元ネタに触れないのがセレンらしいな。だけど、残念ながら私はセレンが思うような存在では無い。」
「分かってますよ、シークさん。」
「何を分かっているんだ?」

「シークさんは俺を殺さない。いや、殺せないんですよ。」

「何故そう思う?」
「顔を見たら分かります。俺を殺そうとしている顔じゃない。」
「浅はかな根拠だな、君らしくない。私が今まで何をしていたかセレンも知らないわけじゃあるまいし。」
「確かに貴方は強い。一人であの大型船を沈没させた。更に伝説ポケモンだ。俺を殺す事は簡単です。」
「…」
「だけど、それでも貴方は目の前にいる俺を殺す事は出来ない。何故か。答えは明白なんですよ、シークさん。」
「ふ…」




“貴方は、逃げてきたからだ―――――――――”






「ふ…ふふ…」
シークは震えながら笑い出した。そして、その笑いは次第に大きくなった。

「ククク…ハハハ…ハ!
いいねぇ!いいねぇ!いい推理だよ!!
やはり私の目に狂いは無かった!!」




「壊れたふりはいいです、シークさん。もう白黒ハッキリさせましょう。」



「ハハハハハ!ハハハハ……」


「茶番劇はもう誰も望んでいません。」











シークはしばらく笑い続けた後、俯いて言った。

「そうだな……もう潮時だ。」
















同時刻。

連合軍ジョウト支部 上層部。

「指令、S-TF 2.3.1は予定通り成功しました。敵の損害は甚大です。」
「“甚大”―― 響きはいいな。ドラッグの様な一定の満足感に満ちた良い響きだ。」
「彼女、やはり知っていたんですね…この作戦構想を。」
「タイプを超越した能力を有するポケモン…徐々に頭角を見せ始めたな。
「(頭角…?)」
「しかし、我々の入手したシナリオ通りで行けば…この戦争は我々が負けるという事になっている。」
「それは知っています。既にカントー本拠地から共有されている情報ですから。」
「共有されなくても目に見えている事だ。誰でも予測は出来る。だが、戦争開始前に矛盾点が見つかった。」
「矛盾点?」
「“外部からの侵入”だ。」
「と、言いますと…」
「これはあくまでも推測だが…」

おそらく人間界の人間の誰かが、我々の味方をしている―――――

「そ、そんな…あり得ません!人間界の人間が我々の味方をするはずがありません!」
「最初は私もそう思った。“SF小説の見過ぎじゃないのか”と本気で思ったくらいだ。」
「今の私も全く同じ気持ちですよ。信じられません。」

「だがな、よく考えてみろ。」
「?」

「人間界の人間が何故、ここにいた住人達をこんなにもリアルに操作できるのか。」
「それは…我々がゲームの中の存在だからでしょう。住人達もゲーム中の存在ですから。」
「じゃあ何故、我々ポケモンを住人達のように操作しなかった?そもそも何故、この世界ごと一気に消さない?」
「それは…我々を操作できない何かしらの要因があって…一気に消す事に何かの理由で抵抗があるから。」
シンオウに現れたあの無人船を覚えているか?あの時に記録された音声には答えが幾つもあった。
「はい。“我々ポケモンは創られた存在であって、そもそも感情すら有すること自体あり得ない”…と。」
「それともう一つあっただろ?」
「確か…“数年放っておいただけでここまでリアリティになるとは、感心するねぇ。”みたいな事を…」
「意味分かるか?」
「大体は見当が付きます。記憶はありませんが…おそらく数年前まで、我々は」

ただの“データ”だった―――

「そうだ。だから我々に感情なんて無かった。そもそもこんなに人間に通じる言葉を流暢に喋る事は無かった。」
「なのに、我々にはその頃の記憶が無い…何故だ…何故、我々は人間の言葉を喋った記憶しかない…!」
「原因は不明だが、おそらく奴が言っていた“メンテ”に関係しているのかもな。」
「我々が元々作られた電子音でしか音を発さない媒体だとしたら…“メンテ”でそれを確立していたのか。」

「そういう事だ。それらを踏まえた上で、もう一度整理する。」




動機はいくつかの仮説があるが、どのルートであっても奴らは、
そのポケモンというゲームを構成するこの世界の存在を消去しようとしている。
だが、奴らは何らかの原因または理由によって、この世界を一気に消す事が出来ないまたは躊躇いがある。
したがって、奴らは徐々に消していくという手法を取った。それがこの世界に住む住人達の操作だった。
おそらくこれが一番合理的だったのだろう。これをきっかけに、この戦争へのルートが確立されていった。

奴らは我々ポケモンを操作することは出来なかった。
何故なら、“メンテ”…つまり、何かしらの“メンテナンス”が数年放置されていたから。
放置されていた原因は不明。
だが、その放置によってポケモンに高知能な感情・思考・言語が発生した。

ポケモンというゲームを構成するこの世界の存在を消そうとしていた奴らにとって、
このポケモンの高知能化現象は厄介なものとなった。





「それにしても、この計画性と規模。おそらく消去しようとしている人間は集団もしくはそれ以上の規模だろう。」
「えぇ、この数々の戦闘を一人のユーザーが演じるとはとても考えられません。」

「だが、その集団にいる全ての人間が同じ思想で果たして行動しているか…という点だ。」

「つまり、その集団の中に、この“戦争”というやり方に反対する者がいるかもしれない…と?」
「そうだ。いたとしたらどうする?」
「我々からすれば救世主みたいなものですね…でもそんな上手い話があるんでしょうか。」

「その証拠らしい痕跡は過去に何回もあった。」
「?」




「数々のシナリオと錯乱する人間世界の情報の数々―――」
「あ…」











「何故、開戦前から出回っているんだ?」
「!!」







俯きながらシークは言った。




















“教えてやるよ。全てを――――――――――”