Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第39話 接点-回想編②-】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

「あなたも同じなんですね。」



彼女は小さく「クスッ」と笑い、視線をゲーム機の方に戻しながら俺に話しかけるように言った。




…えぇぇぇ何言ってんのこの人…そ、そうか。これがいわゆる俺の世代で言う厨二病という奴か。
今のこの時代になっても、まだそういう症状は色濃く残っているものなんだな。いや、むしろ加速してるのか。


中二病でも何とやらという作品を覚えていますか。」


…えぇぇぇ!?何でこの世代がその作品知ってんの…そ、そうか。
きっとこの娘は過去のアニメやラノベ作品も好きなんだろう。そうに違いない。むしろそれしか考えられない。


「そう思うのも無理は無いです。だいぶ調べましたからね、あなたの事。」


え…?ちょっと待て、どういう事だ。調べられてたのか俺?何故、俺が赤の他人に調べられる必要があるんだ。
俺、なんかしたんだろうか。自作ゲーム制作Wikiにヤバい情報を書き込んだ記憶なんて無いはずだが。
というか、何故、俺の内心を読んでいるような発言をする?読んでいるとしたらどうやって読んでいるんだ。
ちょ、教えてくれ。俺でも知らないぞ、そんなチート技。


「簡単な事です。まず貴方が利用していると思われるSNSから捜査に当たったんです。」


彼女は淡々と呟く。俺はすかさず反応した。
「おい、待て。君、どうやって俺の内心を読んでいる?そもそも君は誰なんだ。そこから教えてくれ。」
「私ですか。鷲宮 楓と言います。ただの女子高生ですよ。楓って呼び捨てにしてもらって構いません。」
「別にそんな事には興味無い。で、どうやって俺の内心を読んでいる?」
「その前に念のため、貴方の名前も教えて下さい。捜査対象、佐倉洋佑。間違いないですね?」
「何で知ってるんだ。てか何だよ、捜査対象って。」
「いえ、安心して下さい。今回は私の意思による独断調査ですので。」
「いやいや!だから何なんだよ!捜査って。」
「シッ…声が大きいです、洋佑さん。」
「…これじゃまるで俺はJKに罵声飛ばしてるオッサンじゃねーか…」
「貴方が情緒不安定な性格なのも把握済みです。だから落ち着いて聞いてくれると助かります。」
「OD式の適性検査結果、見やがったのか…ったく、プライバシーも何もあったもんじゃないな。」
「安心して下さい。あなたの調査情報は私が厳重に管理してるので外部に漏れる事はありませんよ。」

「“お前に知られてる時点で十分、外部に漏れている”って突っ込んだらKYな感じかい?」
「はいー♪」
「(そんな満面な笑みで言われてもねぇ…汗)」

「私はある5年制の専門学校の情報科に通う学生なのですが、趣味で色々とプログラムとか作っています。」
「だろうね、何となくそんな感じがしてた。」
「えぇっ!?私、やっぱりそんな風に見えるんですかぁ!?」
「おや、触れてはいけない事項だったかい。」
「いえ、そんなこと言われたの初めてで…//」
「(今の何処に照れる要素があったと言うんだ…汗)」


彼女から得られた情報を整理すると、こんな感じになる。

鷲宮(Washinomiya Kaede)、17歳。関西のある5年制の専門学校情報科に通う、自称「女子高生」。
親がこの合弁会社の社員で、休日にはゲームクリエイターの仕事のお手伝いをする事があるそうだ。
俺が務める本社のゲームを昔からこよなく愛しているという。家には20種類くらいソフトがあるんだとか。
本人曰く、たまに親の知り合いがやっている探偵事務所に情報関係の捜査以来を頼まれることがあるそうだ。
こんな娘に頼む探偵事務所も探偵事務所だよな。まぁそれだけ見た目以上に彼女は出来る子なのだろう。
髪は黒で背中まで伸びたロングヘアー。今の服装はカジュアルな格好だが、普段は学校の制服を着こなす。
よく特徴的な帽子を被っている。日によってその帽子は変わるみたいだ。
身長は150cm前後と言ったところ。割と小さい。本人曰く、「小さいくらいが丁度いい」がモットーだそうな。
恵まれたプロポーションとは言えないが、その手のマニアには好みな体系なのだろう。
ただ、普段はゲームに溺れている残念な性格をしているのは仕方が無い。天は二物を与えないのだ。
でも、外見は可愛いからウィンクしながら、手で拳銃を作り、「バーン」とでも言えばたいていの男は落ちる。


そう言えば俺の説明をまだしていなかった。
佐倉洋佑(Sakura Yousuke)、未だ独身の30歳。東京の家賃3万のぼろアパートの二階に住んでいる。
職業は既に分かっているとは思うが、ある会社に勤めるゲームクリエイター。プログラム部門の担当をしている。
ハッキリ言おう、年収はそんなに良くない。今の勤務状態からすればベースアップしても良いくらいだ。
趣味は自作ゲーム制作Wikiの更新。時々、某動画サイトで動画を漁ったりまとめサイトを見たりしている。
好きな食べ物はカップラーメン。体に悪いと言われながらも、忙しい時は俺の味方になるから致し方が無い。
性格は残念ながら、楓には大分バレているみたいだ。あえて「情緒不安定」というのだけは言っておこう。
実際そうだし。だからすぐに鬱状態にもなりやすいのかもな。いわゆる残念な真面目系クズと言った所だろう。


説明はこの位でいいだろう。話を戻す。


「それで、君は我社が発売している歴代のゲームをこよなく愛している…と。」
「はい!」
ゲームクリエイターに憧れてるのか。」
「勿論です!洋佑さんが大阪に来るってのを聞いて、そりゃもう私ホイホイなのです!」
「やれやれ…また一つ社畜の卵がここにも…。」
「え?しゃちく?」
「いや、何でも無い。しかし、何で俺の居場所が分かったんだ?SNSで“大阪なう”とは呟いてはいるが。
「まぁそれも判断材料の一つなんですけどね、それとは別のプログラムで出た結果も合わせて判断します。」
「別のプログラム?」
「私が個人的に作った発信者位置特定プログラムです。勿論、捜査のためだけに使う代物なので大丈夫です。」
「随分と恐ろしいものを作るんだな。こんな小さな娘でも人はみかけによらないってか。」
「まぁまぁ、SNSの発信情報をしつこいくらい解析したら分かるのですよ。悪用は勿論、厳禁です。」

「“何もしていない俺をいきなり特定した事は十分、悪用じゃないのか”って突っ込んだらKYな感じかい?」
「はいー♪」
「(だからその満面の笑みは一体何なんだ…汗)」



「…洋佑さん。実は人の内心を読みとる装置も開発しているんです、私。」
「あぁ、さっき俺が聞こうとしたら全力でスルーされた質問か…って、えぇっ!?凄いなそれ!!
「勿論こんなこと言えるのは洋佑さん…あなただけです。」
「い、いやいや。俺はただの30歳のオッサンだ。そんな特許が取れるような話は自分だけの物にしとけ。」
「特許はおろか実用新案すら通りませんよ…だってこれ、すぐに悪用できるじゃないですか。」
「おう…ここでまさかのマジレスですか。というか、お前は何でも出来るなぁ。一人で会社作れるんじゃないの?」
「一人メーカーですか…今のご時世にはピッタリですが、もう少し自分が成長してからでないと。」
「それもそうか。」

「それで私…この装置を発明するために色々その手の理論などを調べていたら…見つけちゃったんです。」
「何を?てかフラグびんびんなんだけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃありませんよ、大問題なんですよこれが。」
「いけないものでも見てしまったか?」
「あなたの勤める会社の根幹に関わる話です…」
「…え…?」






一瞬、脳裏にサーッと記憶が過ぎった。そういえば開発部で、こんな話を聞いたことがある。
十数年続いた、我社のあるゲームシリーズを次作で終了させるという話を。

最初は勿体無い気がしたが、他社との新ゲーム開発競争の台頭によって採算が合わなくなったと聞いた。
表向きは確かそんな理由だった気がする。世間じゃ古参ユーザーからのゲーム存続の声が大きくて、
一時ネットで騒動になったのだとか。でも結局、経営維持を目的に会社の方針が変わることは無かった。
開発部ではそのゲームシリーズを終了させるために、ある事業を展開させていると聞くが…
その内容が何なのかは俺達、開発部の人間には詳細には教えられなかった。
ただ上に言われた通り、先月あたりから毎日淡々とある作業をさせられている。

具体的にはデータの改変?と言ったところだろうか。何故か毎日、既存ゲームデータの改造をしている。
「本当に、これで次作のゲームになるのか?」と、たまに他の人間に問いかけるが、誰も相手にしてくれない。
ある奴は 「別の仕事がある」 とか言って、まるで企業の大規模サーバーのような装置を数年前から
黙々と作っていた。「ここは情報機器メーカーじゃないんだぞ」とは誰も突っ込まなかった。
その雰囲気は異様であり、無機質であり、職場と言える環境にしてはあまりにも陰湿極まりなかった。






「…それホントの話ですか。」
楓が真剣な顔で俺に問いかけてきた。
「あぁ、職場は先月あたりからずっとこんな感じだ。目的は俺にも分からん。」
「そのサーバー名、確かこんな名前が付けられていませんでしたか…?」
「ん?」

楓はポケットにしまってあった、メモ帳を取り出し自前のシャーペンで素早く文字を書き出し、
俺の前に提示した。どうやら口で言えない事らしい。そこには小さくこう書かれてあった。


“HBD-5000” ―――――――――――


「何だろうな、サーバー名にしちゃ変な名前だよな。ロボットかよって最初は笑ったもんだよ。
「見た事あるんですか?」
「あぁ、開発部とは別の室内に置かれてある。でも警備が厳重で社内の人間でも滅多に入れやしない。」
「そうですか…」
「あ、勿論この事は他言無用だぞ。約束は守ってくれよ、楓さん。」
「はいー♪そこは大丈夫なのです。私だって洋佑さんに、内心読みとり装置の存在を明かしちゃいましたから。」
「そういやそうだったな。うん、お互い秘密がそれなりにバレてしまっているというオチだった。」
「何ならずっと洋佑さんに付きまとうってのもいい手かも!」
「やめてくれ、俺を犯罪者にする気か。」


「冗談ですよ。でもですね…洋佑さん。その話、貴方は見過ごせないはずですよ…真相を知ったら。」
「…おやおやまたフラグかい。楓はフラグ立てるの上手なんだな。フラグメーカーと呼んでやろう。」
「結構です。」
「(バッサリ切られた…汗)」
「たまたま一瞬だけあるデータが流出していたんです。私が見たら不味いのは見た瞬間分かりました。」
「見たんかい!」
「関西風なツッコミありがとうございます!」
「いや別にツッコミしたつもりは無かったが…で?」
「資料“HBD-5000開発に関する中間報告”…発信元はあなたが勤める、このゲームを作った会社です。」
「そんなの何処で見つけたんだ?某掲示板の速報板か?」
「違います。ホントたまたまの偶然だったんです。PDF資料を電子技術学研のサイト上で見つけたんです。」
「おそらく新規事業で学研に報告した資料だろう。でもサイトに載ったって事は内容も普通だったはずだ。」
「そうなんです…興味本位で開くと至って普通の資料でした。特に怪しい部分も見当たらなかったんです。」
「でも、それ後で消されたらしいな…会社じゃそんなこと一切聞いてないが。」
「きっと気付いたのは私くらいだと思います…普通に見てたらまず気付きませんから。」
「何を見たんだ…そこで。」
「面白がって横書きの資料文章の一部を、斜め読みで読んだんです。そしたらこう書かれてあって…」





こ の そ う ち は あ る じ ぎ よ う を 終 了 さ せ る た め に せ ん そ う も く て き で つ く ら れ た 。
が ん た ん に ぜ ん こ く じ ど う か い ざ ん 。 し が つ つ い た ち に 作 業 A を か い し す る。
せ ん そ う は ね ん ま つ ま で に お わ ら せ る 。 じ ぎ よ う は そ れ で か ん せ い す る 。


「なんだそれ…」

聞いた事の無い話だった。