Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第43話 警鐘】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

「ねぇシークさん!聞いてます?それからどうなったんですかっ!」

セレンが荒ぶっている…
そういえば全然話が進んでいない、反省反省。


「あの後な、意識を失って気付いたらカントー本拠地に運ばれていたんだ…


この世界に転送された数時間後の事。





3月26日午前5時39分
カントー本拠地、病棟C-409

ゆっくりと眼を開ける。

(なんだここ…)





班長、意識が戻ったようです。」

ポケモンがいる…やはりここは別世界か)

「あ――…名前は?」
(ヤッベ考えてなかった。佐倉洋祐とか言ったら消されるパターンや。えーと、えーと)
「“名前なし”っと。」
(ちょ!何その名無しさん扱い…汗)

「ま、待ってください。シークです。シークといいます。」
「“シーク、乙”っと。」

(いや、乙まで言ってねぇし!)

「あ――手っ取り早く聞きたいんだが答えて欲しい。人間?」

(スッゲー唐突だな…オイ)
「いや、まぁその…見ての通りですが…」

「はいはい、伝説伝説っと。」

(なんかムカつく尋問やなぁ)


「出身は?」

(ここは原作通りに行くか)

「何故カントーにいる。」

「……」
(やはりここはカントーなのか。通りで初期キャラばかりな訳だ。)



「あるポケモンを探していたんです」



「あるポケモン?」

「えぇ、確か――――




(…あれ…?思い出せない…転送前は手に取るように楓のポケモンの姿が分かっていたのに。
 今は全く思い出せない…転送による記憶障害か?)



…すみません、上手く覚えてなくて…」


「やれやれ…参ったなこりゃ」


班長と呼ばれるそのポケモンは少し私を不審者扱いしながらも、私をポケモンとして見てくれた。
そして、軍に従う事を条件に軍の元で働くこととなった。
この後に行われた適性検査の結果、判断能力の面で優秀だったらしく、翌日には中央特派員みたいな役職を任された。転送から僅か1日の事だった。シナリオ通りとは言え、信じられないくらいの急展開。
転送から3日目にはシンオウ地方への異動が命令された。
異動の理由は表向きはシンオウ地方の警備態勢強化だが、本当はシナリオ通りに事が進んでいるだけだった。




そして4月2日午前10時過ぎ。
シンオウ沖にあの無人船が現れた――――








「あとは前に話した通りだ。これが私が今まで見た全てだ。」
「……洋祐さん…」
「ここではシークと呼んでくれ。君以外のポケモンに私の本名を知られたら面倒だ。」
「はい、シークさん…あの、あちら側の世界の事もっと詳しく教えてくれないでしょうか?」


「………セレン…その前に私と話をしていて何か違和感を感じないか?」
「? …あ…!!」 


「そう、向こう側の世界の話をしても頭痛がしなくなった。…何を意味すると思う?」
「敵が逆にシークさんを利用し始めたって事ですか!?」

「おそらくな。奴等は無人船の一件の時から既に私みたいな外部からの存在に気付いていた。
 ただ私の本名までは今でも分かってないはずだ。」

「何故ですか?」

「本名を知っていたら最初から暴露するのが奴等のやり方だ。
 だが楓のシステムが正常に機能しているならば現実世界の私はただ記憶が残らないだけで、
 現在も普通に生活しているだろう。その状態だった楓と実際に会ったのが何よりの証拠だ。
 したがって、現実世界の私は何一つ疑われていない事になる。
 あの無人船はあたかも私の本名を知っているような演技をしたが、あれは脅しであって、
 本当は“外部の存在がいる”とだけしか分かっておらず、本名を知らない状態である事は
 予めシナリオで知っていた。私はあえて演技に乗っかった。
 結果として、本名を知られたら不味いポケモンがいるという印象を与えたのは不味かったが、
 同時に“正体不明な外部の存在がいるのは確実”という印象を与えた。むしろ好都合だ。
 奴等は慎重にならざるを得ない。戦争のスピードも想定より遅い。」



「今のこの会話のログとかは残らないんですか?」

「それはゲームの性質上、決してない。仮にもし残るとしたら今のこの世界規模では膨大すぎるし、
 残り続けたら、それこそ膨大なデータとなって把握しきれないだろうよ。」




セレンは会話を整理するようにボソボソと呟く。

「…敵は外部の存在には気付いている…本名は知られていない…
 戦争はおおよそシナリオ通りに進んでいる……
 でもその後、敵の方針が変わりシナリオが若干変わって敵の戦い方に変化が生じた…」




「セレン、シナリオはそれほど大きく変わってはいない。
 ただ、君がどんな運命を辿るのかは少し予測が出来なくなった。
 私のせいもある…だから私は君を見届ける責任がある。」




「シークさん…俺はどうすればいいんでしょうか。」







「セレンは何も心配しなくていい。
 でもいずれ決断を迫られる時が来る。その時は…



…行け。」




(…?)





シークさんのその言葉は、俺の運命を一言で表したような表現だった。

ただ、この時はあまりにも抽象すぎてこの言葉が何を意味するのかは分からなかった。
シークさんは語り続けた。


「いいか…何があっても辿ったルートを振り返るな。
 セレンの信じる道を真っ直ぐに突き進むだけでいい。
 この戦争というゲームに正解ルートなんて初めから無いんだ。
 例え全てがBAD ENDへのルートだとしても、セレンならENDを変えれる、絶対。
 変えるんだ!必ず!!そして、私にも分からないその先のストーリーを…君が作れ。」


「その先のストーリー…ですか?」


「戦争が終わった後の話だ。これだけは誰にも分からない。会社の奴等や楓にも分からない事だ。
 正直、シナリオが変わり出してから、どちらが勝つか分からなくなった。
 けれども、その先のシナリオは全てセレンが作り出せる。君が何を思い、何をするかは自由だ。
 再度言うが、君が信じる道を真っ直ぐに突き進め。それが、戦争終了後の正解ルートとなるだろう。」


「それは…頑張らないと…ですね」


イメージが掴めない話に対して、俺は次第に受け答えが朦朧としてきた。
眠い。今日ずっと飛び続けた疲れが出てきたんだろう。



「…セレンは野球というスポーツを知っているか?」
「はい…傍受したラジオで実況を聴いたので、ある程度は…」
「野球というのは実に面白い。私の世界では、よく人から9回裏2アウトの話を聞かされる。」
「確かに打ってランナーを繋げれば…すぐに大逆転出来るスポーツですもんね。」

「そういう事だ、セレン。この理不尽な状況だって同じだ。最後まで何が起こるか分からない。
 言わば、セレンは代打で出るピンチヒッターだな。」

「はい…」


眠気が睡眠に変わろうとした時、急にシークさんが俺の身体を抱き込んだ。


「ど、どうしたんですか?急に…」

「後は…頼んだぞ…セレン」

「シークさん…」
「俺の身に何かあったら…を頼れ…あの子はきっと君の強い味方になってくれる。」





その時、俺の中で一つの伏線が繋がった気がした――――――――――


「シークさん…俺、前から思ってた事があるんです…言っていいですか?」

思わず口にした。



駄目だ…君が言いたい事は凄く分かる。
 だけど、今は絶対に誰にもそれを言うな。
 戦争が終わったら…を見つけ出して、今まであった全てを話すといい。
 彼女ならきっと君の話は全て信じてくれる…
 それまでは何も言ってはいけない。いいな?」






しかし、シークさんは直ぐにそれを認めなかった。
そう、認めたら…

またシナリオが変わる――――
今度は、取り返しがつかない位に。



だから、絶対にシークさんは認めない。

「…分かりました。」

俺はシークさんの静かながら力強い言葉に威圧された。






抱擁から解放された俺に、再び眠気が迫ってくる。

「ふぁ…」


「おっと、もうこんな時間か。夜遅くまで付き合わせてすまなかったな。私もT部隊の宿舎に帰るとするか。
 大丈夫、明日もセレンは生き残る。フラグじゃない確証された未来だ。ゆっくり休んでくれ…おやすみ。」

「はい…また明日…」




最後まで言う前に眠気は睡魔となり、俺を襲った。再び闇の時間が訪れる。
シークさんはSP宿舎を出る時に、一瞬こちらの方を見て何か小さく呟いたような気がしたが、
俺はすっかり睡魔に意識を持っていかれていた。


今思えば、シークさんは精一杯の警告を俺にしていた。
大きすぎる位の警鐘だった。いや、警鐘せざるを得なかったのだろう。






迫り来る自らの運命を察して―――