Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第56話 人道主義】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

「……誰か…応答して……くれ」

繋がらない。


「誰か聞いてたら…伝えてくれ…」


規定以上の強い荷重がかかった彼のFlexは、通信機能に障害が発生し、
本拠地の情報部にもノイズしか入ってこなかった。耐久性がいいはずのFlexが不運な事に、
最後の最後で機能に障害が出たのだ。

彼の最後の声は、その彼のFlexに記録される以外は誰の耳にも残らなかった。



「この街は……陥落し」パァン!!

ドサッ…















10月3日―――― 
ジョウト地方、アサギシティ陥落。
俺が被弾して地下施設で治療を受けた、半月後の事だった。



ジョウト上層部。

「アサギが陥落したそうです」
「犠牲者は?」
「一連の戦闘も含めれば、軽く3万を越えます」
「そうか…分かった、ご苦労」
「…来るべき時が近付いています」
「…そうだな」
「例のカントーのN-spot解析の方は進んでいるか?」
「はい、進捗率は約40%だそうです」

「あれだけは絶対に成功させなければならない。
 年末までに間に合わなければ我々は完全に全てを失う」

「はい、分かってます。この解析はカントーに限らず、
 各地方の上層部が共同で総力をあげて取り組んでいます。我々の最後の切り札ですから…」





ジョウト本拠地、航空隊情報部。

「―――……」

ミライはアサギシティ陥落の一報を聞いて以来、
終始黙り続けて黙々と航空隊の作戦立案を考えていた。
周りの情報部のメンバー達にも暗い雰囲気が必然的に漂う。

「…僕達、本当に罪深いですよね」
「最初から分かっていても…罪悪感しか残らないですよ」
「みんな、このまま…消えていくんすかね…まだ俺…死にたくないです」




ミライは掠れるような声で呟いた。
「……だいじょうぶ…だよ」

「大丈夫って…ミライも予知能力が衰えているんだろ?
 かつてのようなS-TF作戦や斬り込み作戦も今じゃ通用しないらしいじゃないか。大丈夫も何も…」

「……だいじょうぶ…だから…」 
「……」
「だいじょうぶ…だいじょうぶ…」

ミライはこの時期になると時々、自分に言い聞かせるように、ひたすらそう呟いたという。
戦争が進むにつれて、彼女の予知能力は完全なものでは無くなっていた。
何が彼女をそうさせたのか…ハッキリとした理由は、この時の俺には分からなかった。
けれども、彼女は何度負けようとも、何度絶望しようとも、
最後に訪れる“その時”まで諦める事は決してなかった。
彼女は、シナリオの結末に訪れる一瞬の希望に、全てを賭けようとした。
彼女はその希望を実現させるパートナーとして、俺を選んだのだろう。


彼女は俺を誰よりも信じてくれた。
彼女は俺を誰よりも愛してくれた。
だから、俺は彼女が踏み出した小さな一歩を、大きくリードしてあげたい。





『彼は、私の、命の恋人です。』
彼女のその一言は、どんな告白よりも心に響いてくるものがあった。











数日経ったある日の夜。

珍しくミライは俺宛に個人名義の無線で話し掛けてきた。
彼女の声は、思ったより明るくハッキリとしていて意外だった。

M-177「セレン、聞こえてる?」
S-30「うん、聞こえてるよ」
M-177「何だか久しぶりだね…こうやって話すの」
S-30「ミライはその…元気だった?」
M-177「うん、わりと元気」
S-30「そっか、ならいいけど」
M-177「セレンは?」
S-30「うん、わりと元気」
M-177「セレン、それじゃ私と一緒の答えになる」
S-30「バレたか」
M-177「ふっふっふ」
S-30「不穏な誰かの笑い声がするが」
M-177「私だ」
S-30「お前だったのか」
M-177「ずっと前から狙っていた」
S-30「全然気付かなかったぞ」
M-177「これが暇をもて余した」
S-30「神々の」

S-30&M-177「「遊び」」

M-177「いやー察しが良くて助かる」
S-30「振られたネタには答えなきゃ」
M-177「ところで、あのさ。セレン、ちょっとしたこと聞いていい?」
S-30「ん、なに?」
M-177「セレンがもし、人間なら…セレンはどんな風に生きていたと思う?」
S-30「それは人間世界での話かい?」
M-177「そう」
S-30「うーん…」
M-177「どうかな?」

S-30「…質問に答える前に、ちょっと話したい事があるんだ。
    馬鹿げたような話だけど…本当の事なんだ。笑わずに聞いててくれるかい?」

M-177「うん、笑わないよ。言ってみて」
S-30「俺、最近変な夢を見るんだ」
M-177「変な夢?」

S-30「その夢には必ず、真っ白の空間に一人の女性がいるんだ。
    その女性は全身が白いタイツのようなもので覆われていて、影やら輪郭で姿がやっと
    分かるくらいの白さ…その白い全身にはマリンブルーの流線形のようなラインが
    何本か鮮やかにデザインされている。ちなみに顔や髪、肌も白い。顔はよく見えないから…
    のっぺらぼうのようなイメージしか無いんだけど、あれは絶対に顔がある筈だ。
    髪は綺麗で長くて…時々、風で揺れているように見えたりもする。」

M-177「へぇ…」
S-30「そして、夢を見る度にその女性が俺に語りかけるんだ」
M-177「何て?」
S-30「“向こう側の世界で貴方を待ってる”って…」
M-177「…多分、それは人間世界の方でしょうね。実在するかはさておいて」
S-30「そうそう。察しが良くて助かるよ」
M-177「セレンの彼女ですから」
S-30「大きく出たね」
M-177「セレンの彼女ですから」

S-30「繰り返し言われただけなのに一回目と二回目じゃ
    恥ずかしさの感じ方がまるで違うのは何でだ…」

M-177「ふっふっふ」
S-30「不穏な誰かの笑い声がするな」
M-177「私だ」
S-30「お前だったのか」
M-177「またヤられたな」
S-30「全然気付かなかったぞ」
M-177「これが暇をもて余した」
S-30「神々の」

S-30&M-177「「遊び」」

M-177「ノリがいい、今日のセレン」
S-30「俺はむしろ、ミライがこのネタを好きってのが意外だったけど」
M-177「一度ハマると中々ね」
S-30「ま、そこが可愛いんだけどね」
M-177「あぅ…」

S-30「てかさ、ミライは可愛いんだから、もっと自分に自信持っていいと思うんだよね。
    前と比べたら格段に喋れるようになったんだし」

M-177「うぅー…今日のセレン手強い…」
S-30「今日は猛アタックしてる」
M-177「え?えっ…!?」
S-30「今までありがとう、そしてこれからも宜しくね。大好きだよ、ミライ」

M-177「あ、わっ…わわ…やばい!改めて言われるとはずい!超恥ずかしい!
     ……でも凄い嬉しいな……本当に好き…大好きです…セレン」

S-30「…確かに言われると超はずい」
M-177「でしょうッ!?」


S-30「……っ」
M-177「っ…!?……んっ…んん…」
S-30「……ん…っ」
M-177「………っ……」
S-30「…っ…はぁ……」
M-177「ふ…あぁ…セ…レン…」

S-30「ゴメン、無線越しなのに…」
M-177「……ううん、嬉しかった。こんなに積極的なセレン…はじめて。凄いドキドキした」
S-30「俺も死ぬほど恥ずかしい」
M-177「セレンは死なないよ」
S-30「そりゃ良い予知を聞いた」
M-177「…私がいる限り」
S-30「お願いします、ミライさん死なない下さい。お願いします」

M-177「っふふ、冗談♪ホントはね…セレンがどうなるかは全然分からないの……
     だって、シナリオの結末の先の物語は誰も知らないんだから。
     確かに、この戦争のシナリオは結末を迎えればエンド扱いになる。
     だけど、こちらにはエンド扱いにさせない唯一の抜け道がある…
     セレンはその切り札になるの。ここから先は私にも、予知能力を持った他のポケモンにも、
     そして人間にも分からない物語が始まる…セレンがもしエンド回避に成功したら、
     シナリオの結末の先にある物語が始まる。
     そして、これをどんなエンドにするのかは全てセレン次第…このエンドが本当のエンド
     セレン…もう1つのシナリオは、あなたが作るの

S-30「俺が…?」

M-177「……えぇ…だから、セレンが夢に見るその白い彼女の手掛かりを探してみるのも
     いいかもしれない。実在するかは分からないけど、きっと彼女はセレンの事を
     よく知っているんだと思う。だったら、私は安心して彼女にセレンを託せる。
     でも私…いつでも何処にいても覚えてるからね…セレンの事…絶対に忘れない。
     それだけはハッキリと言えるよ。セレンも私の事…忘れないでね…」

S-30「あぁ、絶対に忘れない…忘れるもんか。何が何でもエンド回避を成功させて、
    絶対にこのままで終わらせたりしない。今まで犠牲になった全ての思い、願い、命…
    無かった事にさせたりなんかしない!!」

M-177「そう、良かった。うん…これでいいんだ…これで。
     そういえば最初の質問の答えをまだ聞いてなかったね。改めて聞こう」

S-30「うん」





M-177「セレンがもし、人間なら…セレンはどんな風に生きていたと思う?」

S-30「俺は――――…






















あの人の…弟みたいな存在として生きたのだろう。