Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第55話 サイカイ】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

……

私はかつて、海上隊で対水中戦要員として戦闘に参加していた。
私はまだ当時15歳だった。私が対水中戦要員を希望した理由は
ローレライ』という人間世界の話に出てくるカウラという少女に憧れていたからだ。

しかし…海上隊は陸・海・空の内、最も早く被害が出始めた部隊だ。
そんな結果になった要因は何も言わずとも誰でも知っている。『無敵艦隊』の出現。
攻撃を全て跳ね返す神のバリアーを纏った彼等に、最初から勝ち目はなかった。
人間世界ではギリシャ神話に出てくる神の盾を『イージス』と呼び、実際に『イージス艦』というものが
存在するが、この世界の『無敵艦隊』の神のバリアーはそれを遥かに超えた能力を有していた。
私は主に、潜水艦を相手に戦った。しかし、潜水艦にもそのバリアーは存在した。
圧倒的な強さを誇る相手を前に、私達は怯えながら抵抗するしかなかった。
奇跡と言われたあの『S-TF作戦』以来、海上隊は更に衰退への道を歩むこととなった。
私達は絶望に押し潰されそうになるなか、毎日を生き抜くのがやっとだった。

私が対水中戦要員として前線で戦っていた全盛期、私と共に戦ってくれた二人の男の子がいた。
彼等は何か特別な理由があって私と一緒になったのではなく、
ごく自然に友達として親しくしてくれた優しい男の子達だった。

名前はフォースとネオ。

私は彼等の事が本当に大好きだった。冗談好きでノリがいい二人。
彼等と一緒にいる時は、どんなに辛い事があっても自然と笑みが溢れた。
一人だけ女の子な私を彼等は決して差別したりせず、まるで男友達のように同等に扱ってくれた。
そして、たまに女の子として意識してくれる場面もあった。
仮にもし、彼等が私に告白していたら私は両方受け入れてしまっていただろう。
それくらいフォースもネオも大好きだった。でも、彼等はそんな事はしなかった。
三人の関係を崩したくないという思いが互いにあったからだ。

私はその心遣いが嬉しくて嬉しくて、一層彼等の事が好きになっていった。
いつまでも三人で一緒にこうして過ごせる事が出来るなら、どんなに幸せだろう…




そんな私の願いは、ある日――――



シュルルル…バガァンッ!!”

二度と叶わないものとなった。






「……ねぇ……ネオ……フォース……どうして…喋らないの…
 …ねぇ…いつもみたいに笑ってよ…いつもみたいに私を喜ばしてよ…………
 何で…私だけ生き残ったの……私だけ運が悪いの…?
 ……怖いよ…怖いよ…ネオ……フォース……おねがい………私を…置いて…かないで………」

私は、彼等を目の前で失った。
私は彼等の遺体を、私達が最初に出会った海上隊の基地まで、丁寧にそっと運び、
最後までしっかりと私の手で弔ってあげた。彼等を弔ったその日、
ジョウト地方では一日中雨が降り、その雨は記録的豪雨になったという。


夏が終わろうとしていた――――


それから季節は移り…秋になった。
私は海上隊で、相変わらず対水中戦要員として、水中からの敵の刺客である無人殺戮機を
地道に破壊していく担当を主にしていた。これは、敵の上陸部隊を支援している海上
敵補給部隊を攻撃する対水上戦要員の防衛も兼ねている。

しかし、敵艦隊への攻撃が不可能な中で海上隊がやる事は既に限られている。
今言った小規模な対水上・対水中戦と、陸上隊員の輸送支援、友軍の海上救助。
あとはもう…私達には何も出来ない…ただ、今やれる事を精一杯取り組むだけだ。


そんなある日――――――



……


バシャーン!!

遠くで、何かが着水するような音が聞こえた。水中に白い泡が一面に広がる。
何だ?砲弾とは違う何かが落ちた、それだけは直感的に分かる。
次第に白い泡から、ゆっくりと灰色の身体が沈んでゆくのが見えた。

「(…航空隊員!)」

すぐに助けに向かう。今、近くにいるのは私だけだ。
でも私だけで、彼の身体を支える事が出来るだろうか…見たところ彼の身体は私に比べて大きい…
けれど…今はただ、助ける事だけに専念しよう。やってみなきゃ分からない。
私はもう…誰かを目の前で失うのはごめんだ。
きっと助けてみせる!
私は力が抜けた彼の身体を全身で支える。やっぱり重い。支えるのがやっとだ。
でも、絶対助ける!死なせない!死なせるもんか!
私は気付いたら、涙が溢れ出ていた。
そして、意識を失っている彼の心に伝えるように力の限り叫んだ。

「死んじゃ…っ!…ダメです…!」




「はぁっ…!…っ……はぁっ…!」
私は何とか水面へと浮上し、港の岸まで彼を運ぶことに成功した。
すぐさま、Flexを起動させ緊急発信をする。

「緊急!こちらジョウト第2海上隊、対水中戦闘班所属、E-7068!
 アサギシティ沖の海上で意識不明の航空隊員1名を救助!隊員コードS-30!
 陸での救助搬送を要請します!アサギシティ東エリア付近の隊員、誰か応答してください!」

直後、上空から1名の航空隊員が飛来してきた。

「ありがとう!よくやった!私は彼と同じ編制に編入されていた航空隊員だ。
 私のすぐ後ろでやられたんだ。今、陸の方からも救助隊員が来ている。
 大丈夫だ、彼は腹部をやられているが致命傷じゃない。意識を失っているだけだ。きっと助かる!」

「はいぃっ…!」

その内、陸の方からも救助隊員数名が走ってきた。
「大丈夫かー!すぐ運ぶぞ!」
「よしっ!まだ鼓動はある!」
「君も一緒に来てくれないか!助けた当人がいれば彼も安心する。水の心配はいらない、何とかする!」
「え、でも…そんな…」
「いいから行ってやってくれ!その方がセレンは安心する!」
「え…?…あ、はいっ…!」
私は航空隊員に見送られ、助けた彼と共に、陸の救助隊員に運ばれながら近くの救護所へと向かう。
私は一瞬、何か引っ掛かるものが心の中にあった。

“まさか…セレンって…”


救護所に運ばれ、すぐさま彼は治療の方に入った。私は運んでくれた救助隊員に声を掛けられる。
「水の方はまだ平気か?無理な頼みで悪かった。今、用意するから。」

「はい、しばらくは平気です。水の塩分濃度まで気にかけてくれて助かります。
 心配かけて、すみません。」

「いや、元々はこちらが言い出した事だ。こちらこそ助かるよ。しばらく彼の側にいてやってくれ。
 意識が戻ったときに助けた張本人が側にいるだけで、
 助けられた側は精神的にもかなり安心するんだ。よし、用意できた。」

「ありがとうございます、分かりました。そうします。」
「じゃ、後は頼む。彼をよろしくな」

そう言うと、私を運んでくれた救助隊員は別の救助要請に応えるべく走っていった。
しばらくして、彼の治療が終わった。私は用意された水槽の中から、彼の姿を改めて見た。
未だ意識が戻らない中、彼は私の隣で静かに呼吸を繰り返している…



やっぱり…セレンだ。私の知ってるセレンだ。

こんなになるまで傷付いて…それでも戦い続けようとしてるんだね…凄いなぁ、セレンは。
ねぇ…私達、また逢えたよ。私、覚えてるよ全部…
戦争が始まる前…私達、ナオヤのポケモンとして一緒にパーティにいたよね。
あの頃は、本当に平和だった。今じゃ何だか遠い昔の話に聞こえてしまうけど、
それでも私は今も確かな思い出として時々あの平和だった日々を思い出すんだ。
セレンは、私のこと覚えているのかな…?それとも、もう忘れちゃったのかな…?あはは…

ねぇ、セレン…
私、貴方に話したい事が沢山あるの…
色んな事を見て感じた…だからね、貴方に聞いて欲しい。
そして、貴方の話も沢山聞きたいの…ナオヤのポケモンとして一緒にいたパーティから
貴方を見送った後に、貴方が感じた色んな事…全部私に聞かせて欲しい。
パーティが無くなって、私達はずっと離れ離れで……もう逢うことなんて無いなんて、
ずっと思ってたけど…またこうして、逢えたよ。

だからね…セレン…また話を聞かせて……
目覚めるまで待っててあげるから――


私は疲れからか、気付くと彼の隣で眠ってしまっていた。











夢の中で聞いたことのある声がした。
確か、かつてナオヤのパーティで一緒にいた子の声だった気がする。
最後にその声を聞いてから、半年あまりしか経ってないのに随分と懐かしく感じた。
でも、今ハッキリと思い出した。心に響くような、その声は確かに彼女だった。

彼女の名前は、エイル…

「―――…」
目を覚ました。よかった、ここは幸い息が出来る場所のようだ。
救護所か何かだろうか…海に沈んだまでは覚えてる…そして、彼女の声がした。
そこからの記憶は無い。気付いたらここにいた。
遠くで切羽詰まった陸上隊員達が右往左往している…
何となくアサギシティの地下施設の中であるという見当はつく。
翼には「検体:S-30 腹部と翼部の中度外傷・意識不明 呼吸有」のタグ付けがされてあった…
どうやら救護所で間違いないらしい。



ふと隣に陸の救護所には見慣れない水槽を見つけた。
しかし、水槽を見た次の瞬間、目頭が熱くなった。



「……エ…イル……?」



彼女は安心したように、隣で寝ていた。
まるで目覚める俺をずっと待っているかのようで…心地よさそうに寝ていた。
思わずガラスに翼を当てながら呟く。

「本当に…エイル…なの?」

「―――…ん…」
彼女はゆっくりと目を覚ました。


「…あぇ…セレ…ン…?」
「っはは…おはよう、エイル」
「…ふぁあ!?セレンっ!?」
「あぁ、正真正銘セレンだ」
「いつものセレンだ…よかった…」
「エイルが…助けてくれたの?」
「…うん」
「ありがとう…本当に…ありがとう」

「ううん、礼なんていらない。セレンは…私の大切な仲間だもん、
 助けて当然だよ……また逢えて…よかった…」

「うん…また逢えてよかった……」

久しぶりのパーティ仲間との再会の喜びを、俺達はしばらく噛み締めていた。
その後、俺達は御互いが離れ離れになったあの日から、今日まであった色んな事を話し合った。
話はとても長く続いた。楽しかった事、面白可笑しかった事、辛かった事、悲しかった事、
絶対絶命に追い込まれ死を覚悟した事……あらゆる事の全てを話し合った。

彼女も俺も、話をするたびに、これまで溜まっていた何かがスッと消えていくような
解放感のようなものを感じていった。どんな話でも互いに、しっかりと最後まで聞いて、
その話に頷いたり相槌を入れたりした。
その度に、また俺達は御互いが再び逢えた事に対する喜びを更に感じるのだった。



話を真剣に聞いてくれる相手がいるって、とても幸せな事なんだと改めて実感する。
シークさんが言っていた――――


“世界で生き残るためには、簡単には本音は言えない。それが、世の常とは分かっていても…
 それでも誰かに本音を聞いて欲しくなるときがある。でも、強がって生きなければ…
 カッコつけて生きなければ…取り残されるだけ。カッコつけるしかない様な、
 息が詰まりそうなこの世界は……このままじゃ…あまりにも悲しすぎる。”

―――心の底から真に本音を聞いてくれる相手なんて、早々いない。





人間世界って、そういうものなのだろうか。
そして、今。人間が作り出した、この空想の世界は、
そんな世界に消されようとしているのだろうか。






だから、俺は何度でも言う。





















「人間は、いつからそんな生き物になった」