Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第62話 狂気、最終防衛線の戦い】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

12月16日、ジョウト地方
敵の陸上部隊は、本拠地から30kmの地点を結んだ地点『最終防衛ライン』に到達する。
ジョウト地方の領地は半径30kmの円形状にまでに狭まり、
ジョウト地方での地上戦は最終局面を迎えようとしていた。


「はぁっ…!はぁっ…!」
“ブラスト!お前今どこだ!”
「最終防衛ラインN-2派遣隊の中!N-2053地点!」
“敵が近くまで来てるぞ!”
「分かってる!目視推定で400m!」
“敵がN-2055地点まで到達したら教えてくれ!”
「了解!」
“絶対に生き残れよ!”
「分かってる!御互い様だ!」

―通信終了―


アルフィーネは通信を終えたブラストに声を掛ける。
「行きましょう…ブラスト君」
「はい!」



ジョウト陸上隊、最後の戦いが始まった。弾幕の嵐が一帯を地獄へと変貌させる。
本拠地まで残り30kmまで追い込まれたジョウト地方では、玉砕覚悟で戦いに挑む部隊が
この日を境に急増した。無数に点在していた筈の防衛部隊が、じわじわと確実に敵に落とされて
消息を絶っていく。敵が最終防衛ラインに到達する時には陸上隊の兵力は当初の半分にまで減り、
残りの兵力は全てこの本土防衛に割り当てられた。

敵の新艦隊出現後、艦隊への攻撃が一切出来なくなった海上隊では、
残存兵によって敵の海上補給路を妨害する事である程度一定の成果を出せてはいたが、
敵の度重なる海上掃討作戦を前に妨害活動はやがて沈静化していった。
今では海上ゲリラ作戦に移行せざるを得ない状態と化し、全滅までのカウントダウンを静かに
刻んでいた。この中で今でもエイルが生き残っているというのだから本当に彼女は
強運の持ち主としか言いようが無い。


俺が所属する航空隊は当初の半分以下にまで兵力が減り、主な戦力であるS部隊は大半が
敵機によって落とされた。それと同時進行するようにT部隊とSP部隊の犠牲者も徐々に増えていった。
航空隊の情報指令担当であるミライは毎日、部隊への攻撃指示をどの様に出すか
悪戦苦闘していたという。彼女は自身の予知能力の衰えにも負けず、航空隊に所属する命を
何としてでも守り抜こうと極限状態まで追い込まれた兵にも最期の最後まで指示を出し続けた。

それが彼女の航空隊員に対する、全身全霊をかけた敬意であった。




誰もが生きるために戦った。
決して死ぬために戦ったんじゃない、生きたいから俺達は戦った。

追い詰められた鼠は猫を噛むというが、自分達がもし鼠ならば噛むどころかそのまま引きちぎるだろう。
負ければ世界が消えて全て無かった事にされるというのに、誰が噛むだけで終わらすものか。
引きちぎって裂いて跡形もなく抹消したいくらいだ。笑うなら笑え、馬鹿にするなら馬鹿にしろ。
狂い暴れ、地獄のどん底で断末魔を叫んで敵の脳裏に焼き付けてやる。
無駄足だと言うのなら無駄足と呼べる程の事をお前はしたことがあるのか?
被害妄想だと言うのなら生きる事を否定された者の前でもお前は同じ事が言えるのか?

何が平等だ。救いの手を差し伸べない者に平等を語る資格など無い。
それこそ無言による脅威であり圧力でしかない。







あーあーあーあー!支離滅裂だ!自暴自棄だ!
何が何だかさっぱりだ!
努力努力努力努力努力努力
努力し続けても、し続けても、し続けても、し続けても何も変わらない!
努力不足か!?巧妙化された陰謀か!?

何でお前らは最初から分かっていたように全て上手くいくんだ!
利用することしか頭にない気味の悪い化け物め…何が皆平等だ!化け物め!!
自我を失った命は見たままで置き去りで廃棄物のように捨てられ、
それでも生き続ける命の叫びに誰も耳を傾けない。
荒廃した空間で叫びの音は掻き消されるどころか一寸たりとも伝わらない。
非情で無情な世界が当たり前となっている状況で、こんな事を叫ぶなんて俺は甘えか異端児にしか
過ぎないだろう。ただ単に世間に対する視野が狭いだけだと言うのなら誰か見せてくれ…
その広げられた視野が見る世界を。

あぁ、時間が過ぎてゆく。同じ間隔を刻みながら、時間だけが過ぎてゆく。
迫りくる闇の気配が冷たい空気を帯びて、自分のすぐ後ろまで迫っているのが分かる。
冬だというのに冷や汗が止まらない。同時に体中に震えが走る。
何に怯えているのかも分からないまま、ただ震えと汗に包まれていく。



黒。


先には黒一色しか見えてこない。ブラックホールの様に吸い込まれていきそうだ。
なのに恐ろしいくらい吸い込まれるスピードはゆっくりだ。動いていないようにすら見える。
吸い込まれた先は何もない世界。無だけが支配する世界。
空気や塵や闇すらもない、ただ何もない世界。
もし、そこに意識だけが渦巻くとすれば臨死世界のようなものなのだろうか。
けれども、あの黒にはそれすら無い。完全に何もない…全ての根源が尽きた場所。
その先があるのなら、きっとそこには全く違う別の空間があるのだろう。
そう考えれば、世界なんて小さなものだ。こんな人間が作り出した小さなフィールドだけでなく、
実際の人間世界でも地球…宇宙規模であっても、いずれは終わりがあるわけで…
その終わりの先に何があるのかは、この世界に生きる者は一生分からないまま終わるのだ。



命って何だ。

本当に…何のためにある?




阿鼻叫喚に満ちた戦場は、狂気のみが場を支配していく。

敵は全てを破壊し、動くものは容赦なく殺戮していく。
あちらこちらから断末魔の叫びが聞こえ、その度に血しぶきが上がる。
何度も何度も見てきた光景だ。でも、こんな光景を見ても何とも思わなくなった自分がそこにいる。

そんな自分に…
笑いすら込み上げてくる。今は狂ったように笑いまくりたい気分だ。

でも何のために笑えばいい?もう笑うなんてこと、この世界では何処にもないのに…
何でこんなに狂ったように笑いたい衝動に刈られるのだろう。何もかもが消えていこうとしているのに…
何処にも笑う要素なんて無いのに。どうして今になって笑いが込み上げるんだろう……


何で……笑いながら涙を流さなくちゃいけないんだろう。




あぁ…夕日が西に沈む。
霞んだ空に映る夕日はボヤけて綺麗では無いけど、
独特の哀愁が漂いさせながら一日の終わりを知らせてくれる……
夕日を見れるのは、あと何回なんだろう。見れるだけで、今はもう幸せだ…。


『生きよう』。


来るべき日が必ず来る事を…ルートが変わる事を信じ続けて…。


















12月17日の朝。
前日の夜に敵の攻撃による爆風で吹き飛ばされ、
気を失って瓦礫の中に埋もれていたブラストが目を開ける。

目を開けても瓦礫の中で辺りは暗い。
アルフィーネさんと小隊で行動し、人間の住居があった所に身を潜めた所までは覚えている…
その最中に砲撃を受けたのだろう。

「いっ…!!」

瓦礫の中から抜け出そうと身を動かすと、4本の足のうち後足2本に激痛が走る。
全くと言って良いほど動かせない。残り2本の前足を手のように使って、
匍匐前進しながら何とか瓦礫の中から抜け出そうとする。

「戦いは…先輩は……?」

複雑に絡み合った瓦礫から抜け出すまで、かなりの時間を浪費した。
抜け出したと同時に乾燥した肌寒い風が砂を舞い上げ、ブラストへと吹き付ける。
風が去った後、砂を振り払いながらボヤけた視界にピントを合わせる。

「何だよこれ…」




そこには、黒色の平野が一面に広がっていた。
昨日まであった緑の土地が跡形もなく消え、
至るところに瓦礫と黒く焼け焦げている塊が散らばっている。よく見ると塊の正体は、全て死体だった。

「何したんだよ…おい」

原形が無いくらいに焼けた死体からは、まだ鼻を覆いたくなるような焼け焦げた臭いがしている。
口が開いた状態のまま、もがき苦しむような格好で死体は転がっていた。

「何したんだよォオォオ!!!」

死体の近くに転がっているFlexまで匍匐前進で身体を進めていく。
Flexの記録に真実が映されている筈だ。やっとの思いで、そのFlexを手に取る。
損傷は激しかったが、記録は再生することが出来た。
前日の夜、記録が切れる直前を確かめる。Flexを付けていた兵は夜戦体制を整えてる最中の様だ。
すると突然、画面が白くなったと同時に一瞬、黒い粉の様な物が空気中に拡散していく様子が映る。
直後に凄まじい轟音と共に映像が途切れ、記録は終わっていた。
轟音はブラストが聞いた轟音と全く同じ物だった。

もう一度再生すると、黒い粉の様な物はFlexをしていた彼の身体から発生しているように見えた。

「ま、まさか…」


ガシャ…

「!」

背後から、ブラストのいた瓦礫から物音が聞こえた。
振り返ると瓦礫の中から、手先に酷い火傷を負った緑色の手が微かに動いているのが見える。
その緑色の手を見た瞬間、ブラストは衝動的に叫んでいた。

アルフィーネ先輩ッ!!!」

Flexをその場に置き、後足2本を引きずりながら再び瓦礫へと近付いていく。
後足に凄まじい激痛が襲うが、
それよりも瓦礫の中から苦しそうに動かすアルフィーネさんの手を見る方がよっぽど辛かった。
ようやく瓦礫の近くに来ると、火傷を負った手先を避けて手首を握り声をかける。

「先輩!聞こえますか先輩ッ!」

瓦礫の中から彼女の声が小さく聞こえてくる。

「その…声は…ブラスト…君…?」
「はい!」
「良かったぁ…生きてて…」
「今、助けますから!」
「でも足…怪我してるんじゃない?」
「え?どうしてそれを…」
「身体引きずるような音がしたから…もしかしたら…足怪我してるんじゃないかなーって……当たり?」
「大正解ですよぉ…先輩」

「ふふ…助けられないね……いッ!!」

「先輩!?」
「だ、大丈夫…ちょっと背中が痛んだだけ。ゴメンね…極限まで体力を削られた今の状況で…エスパー技を使って瓦礫を動かすのは難しいみたい…しかも肝心な手が火傷しちゃったからなぁ…エスパー制御がまともに出来ない…」

「そんな…」
「最終手段は…目」
「目?」
「僅かに残った体力を目に全集中させれば…十数秒だけ…瓦礫を動かる程度のエスパー技は制御出来るかも…」
「それですよ!」

「ただ失敗すれば…最悪の場合、呼吸困難に成る程、生命維持に支障を来すことになる……」

「でも、このままだと先輩は…」
「数時間以内に圧死…する」
「嫌だ…そんなの絶対嫌です!!」
「ブラスト君…」
「僕の大好きな先輩は簡単に諦めるような事はしません!」
「う…ん…」
「先輩は、強いんですから!!」
「うん…うんっ…」
「先輩はきっと最後まで生きれます。“アルフィーネ”…その名前の通り、最後に幸せになりますよ!」
「ありがとう…ブラスト君」
「一か八かです、賭けに出るならもう時間はありません」

「そうね…チャンスは一回のみ、失敗は許されない。リスクは大きい…でも、もう迷う時間は無い。最初で最後…やってみる…」
「頑張れ…先輩」
「3…2…1…」
「……」
「ッ!!」

アルフィーネの目が、かつて無い程の輝きで紅く光る。
同時に瓦礫が揺れ出し、重くのし掛かっていたコンクリートが徐々に空中に浮かび上がり出す。

ガタタ…ガタッ!! ガラガラ…

「―――!!」
「今だ!!」

アルフィーネを覆っていた瓦礫が無くなり、彼女の中心に半径1m弱の半円状の隙間が出来る。
ブラストは直ぐ様予め掴んでいた彼女の右腕とは逆の、左腕を掴んで隙間から引きずり出そうとする。
この間5秒。しかし、後足2本損傷と体格差から思うように彼女を引きずり出せない。
このままだと確実に30秒はかかる。

「ダキツイテイイカラ!! ハヤク!!」
「はい!!」

いきなり躊躇なくアルフィーネから催促され、
ブラストは驚くよりも身体の方が先にその言葉を認識していた。彼女の身体ごと抱いて引きずり出す。
さっきより格段に引きずり出すスピードが上がった。ここまで10秒経過。
このまま勢いよく全身を使って後ろ向きに引きずり出す。

「うおらぁああああ―――!!」
ザザ―ッ
「アシ!! アシガマダ!!」
「…!」
不味い!膝から先がまだ瓦礫の中にある!急いで膝から先の部分を隙間から全力で引きずり出した。

「終わった!!」
ガシャン!! ガシャガシャ…

「アァッ!! ふあぁ…!!はぁぁ…はぁっ…」

所要時間19秒、命懸けの救出だった。ギリギリまで体力を削ったアルフィーネは、
瓦礫から抜けても暫く息が荒い状態が続いた。あまりにも荒いため、会話も出来ない状態が続いた。

「ふあぁ…はぁっ…はぁ…はぁ…」
「大丈夫ですか!?先輩!!」
「はぁ…はぁー…はーっ…はーっ…」
「先輩ィ!!」
「はーっ…はー…はぁ…はぁ…」
「本当にすみませんでした!!」
「はぁ…はぁ…はっ……っはぁ…」
「一気に引きずり出せてたら、こんな苦しくはならなかった筈です…俺のせいでこんなに先輩は…!!」
「はぁっ…!!…はーっ…!!」
「すみません…すみません…」
「はぁ……はぁ………っはぁ…」


十数分後、ようやくアルフィーネは普通の会話が出来るようになった。
息が整ったという事は、呼吸困難による生命維持の危機に直面する可能性は無くなった事を
示唆している。しかし、19秒の代償はやはり彼女の身体に少なからず影響を残す事となった。




「ブラスト君…ありがとう」

「先輩…」

「抱き付いてまで本気で助けてくれて、本当に嬉しかった…」
「あの…身体の調子はどうなんですか?」
「うん大丈夫、何もないよ」
「…隠さないで言ってください」
「無いって無いって」


「…先輩、もう無理しないで下さい」
「……」


「目…見えてないんでしょ?」


「……何で分かったの?」




「瞳の瞳孔です。不自然に揺らめいている…変化があった証拠です」

「あー、でもね!別に失明した訳じゃないんだ!ちゃんと景色や光は見えてるのよ。ただ少し視力が悪くなった程度の事。なーに、裸眼で0.6くらいだから大丈夫だって!」

「先輩…ぃ……ぐすっ…」
「って、なになに!?何で泣くの!?」
「だって……もう……」
「別に視力がちょっと下がったくらいで泣いてたらキリ無いって。そりゃいきなり下がったのは確かに悔しいけどさ、だからって悔やんでも戻る物じゃないし、そもそも命が今あるだけマシってもんよ」

「そうですね…命あってこそですね」

「だから私の事はあまり気にしないで。大丈夫、私はおかげでこの右手の火傷と視力低下だけで済んだわ。足の怪我はなかった。むしろ私は、ブラスト君の後足2本が動かない方が心配だわ…」

「余計な心配をさせて申し訳無いです、多分…骨折レベルかと」

「酷いわね…下手に動かさない方が良いわ。私の体力が自然回復するまで、もう少しここで身を潜めて戦闘が落ち着いたら救護所に向かうわ。」

「はい…救護所が果たして今も機能しているか正直不透明ですが。」
「今は信じるしかないわよ…機能していなかったら、私が治すわ」
アルフィーネさん…カッコいい」
「これでも介護士の資格くらいはあるのよ。って、治療とは関係無いか。てへへ」





段々と普段通りの会話に戻ろうとする雰囲気に逆らうように、
ブラストの脳裏にはFlexで見たあの白い画面がふと過った。
アルフィーネにその事を話す。

「…なるほど、大体想像は出来るわ」
「画面が白くなったって事は、強烈な閃光か何かでしょうか?」

「…小型原爆って所かしらね」
「げ、原爆!?」
「あくまでも想像だけどね。規模はそれこそ狭いけど、凄まじい閃光と共にあらゆる物の表面を一瞬で気化させるほど焼き付くし、尚且つこれ程までの爆風を発生させる…そんな事が出来るのは核兵器ぐらいしか無い」

「じゃあ…やっぱりあの黒い粉は!」

「熱線による皮膚の昇華だとしたら、私の火傷も説明がつくわ。私達は家屋の影に身を潜めた時に、この爆風に巻き込まれた。その時、私は家屋の隅を右手の手先で掴んでいたわ…身体自体は影に潜んでいたから私達への閃光の被害は無かった訳ね。僅かに影から出ていた、この私の右手を除いて…」

「信じられ…ません」
「そうね、私だって信じたくない」
「…ナパーム弾って可能性は?」
「あんな昇華現象は起きない」
「…!」
「それに転がっている焼死体を見て。私達だけじゃない…奴等、自分等の兵まで共に焼き殺してる」
「…!?」
「全部一瞬でね」
「…ッ!!」


「さて、敵さん随分と派手にやってくれたわね。そこまでして恐怖を植え付けながら私達を追い込む事に何の価値があるのかしら、つくづく馬鹿らしい」

「先輩…ッ」

「ん?」

「何で人間は…!こんな事が平然と出来るんですかっ!悪…以上じゃないですか!」
「悪タイプのブラスト君から、そんな言葉が出るとは思わなかったわね」

「正義なんて言葉は所詮飾りに過ぎませんし、僕は確かに綺麗事は嫌いですよ…でもですよ!流石に限度ってもんがあります。世の中を正当化するために悪役はいるんです。悪役がいなかったらそれこそ新たな秩序は生まれないですし、世の中は窮屈なものへと収束していく一方です。だからこそ、悪はあくまでも“悪”でなければならない。だけど、悪は決して己を失う事だけはしないんです…悪になる者は無意識のうちに必ず仲間を欲しています。思い通りにならなくて、周りからは浮いてる存在とされ、素直になれなくて、ひねくれ者だから悪に染まっていく…己を主張する術がそれしか無いんですから。孤独と悪は近いものなんです、そう考えると必要悪の意味も分かると思うんですよ。けれど…今回は違います。あの一発で少なくともここにいた数千の命が一瞬で消えました。例えゲームの中であっても、意識が機械で操られていても、戦う目的が違えど、皆…必死に戦っていた。敵に普通に殺されるなら、僕もそれなりに覚悟は出来ていました。それが、この有り様ですよ!向こう側の世界にいる真の敵…つまりこの世界にとっての“神の見えざる手”が意図的に!しかも、核兵器を使って何千もの命を一瞬で殺した!わざわざこうする必要が何処にあるって言うんですか!?冗談じゃない!!こんなの…こんなのは…悪なんかじゃない!悪、以上のやる事ですよ!!」


「ブラスト君がそう思うなんて、よっぽどね。まぁこんな惨状を前にしたら無理もないか」
「すみません…らしくない事を熱く語りました。悪タイプなのに僕は何を言ってるんでしょうね…」

「いいのよ、今は狂気しか無いこの戦場に善も悪も無いわ。己を失ったら後は壊れていくだけだから。
大丈夫、ブラスト君は奴等みたいに“壊れていく悪”なんかじゃない」

「……」
「だから何かあったら私に頼りなさい、お姉さんが助けてあげる。今回大きな借りも作っちゃったし」
「先輩…」

「私は正義の味方、でもそれって悪の味方と同じよね。だって正義の反対は悪じゃなくて、また別の正義なんだから!ねっ♪小さな悪魔さんっ」

「小さなは余計ですねぇ…」
「私は、悪タイプでも命を助けるブラスト君は好きだぞ☆ハッハッハ!」
「うぅ…なんだこの屈辱感は」
ツンデレ少女かな?ハッハッハ!」
「僕は♂ですよ!! …ははは」
「どうした笑え笑え――!」
「ちょやめっ!うひゃひゃ!くすぐるの卑怯ですってば!後足2本動かなひゃひゃひゃっ!」
「んんwwwやめないwwwwww」
「ふっざけんなwwwww」

「あはは、どう?元気出た?」
「はい、スゲェ元気貰いました…」

「…さてと、もう少し此処で休みましょう。幸い此処にはもう敵がいないみたいだしね。
夜になったら敵に見付からないよう細心の注意を払って、本拠地方面の山間部に向かうわよ」
「はい…」




12月17日の深夜。
本拠地まであと少しまで迫っている敵の部隊と味方部隊との交戦光景が遥か遠くに見える。
あの弾幕の中で、一体どれ程の命が消えているのだろう。
本拠地にいる味方は、こちらの最終防衛線で起きた小型原爆の悲劇をもう知っているに違いない。

他の最終防衛線でも、こんな悲劇が起きたのだろうか?
いや…それは流石に敵部隊自体も存続が危うい状況になるから無い筈だ。
恐らく敵にとって、
このエリアだけ異常に攻略に時間が掛かっていたためが故に起こした悲劇なのだろう。
自らの兵を撤退させる間も無いまま、落としたという事は…真の敵は焦っているのか?
シナリオルートが変わる“その日”が迫り来る年末まで時間が無い事に。
なら、目的の為なら手段を選ばない…
なるほど、人間の生々しい本性が滲み出た結果がこの惨劇に繋がったという事か。


アルフィーネはそんな事を思いつつ、
ブラストを背負いながら深夜の荒野を本拠地方面の山間部へゆっくりと歩いていった。

「最終防衛線…突破されたわね」
「本拠地はどうなるんでしょうか…」
「……」
「……」




狂気。
それが最終防衛戦の全てだ。







「……後は頼んだわよ、ミライ」


SPECIAL ATTACK APPLICANT 第62話 「狂気、最終防衛線の戦い」 -------- 終

次回、第63話 「黒の旗」。
朽ちていくもの、生まれていくもの。