Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第72話 首都攻防戦 =東京特攻1=】 SPECIAL ATTACK APPLICANT

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。



〓√〓 WELCOME TO JAPAN 〓√〓

日本へようこそ!

この国では他の人たちとの“調和”が
上手く生きていけるかどうかの鍵になります!

まずあなたの個性・才能は全て捨てて下さい!

この国では何の役にもたたず“出る杭”として認識されます!

自分の意見を持つことはこの国では禁じられてますのでご注意を!

では!

〓√〓 LAST GAME START 〓√〓





アスターに別れを告げた数秒後、強烈な光に襲われ思わず目を閉じた。
暫くして目を開けると視界には、凄まじい量のあらゆる情景が高速で描写され流れていく光景が表れた。

「なんだこれ…なんだよこれ…」

文字や数式、イメージ、記憶が次々と脳内にインプットされるような感覚。
その中にふわふわと漂う自分、一体何がどうなっているんだ。
暫くすると、やがて情景の高速描写は終わっていった。
終わる直前に走馬灯のように、ある一枚の描写が自分の脳裏に焼き付いた。
見えたのは一瞬。一人の少女が大きな橋を背に立つ光景…顔は影で見えなかった。
すると、一気に再び明るくなったかと思うと超音波か何かの音が脳内に響き渡る。

パシィイイッ!! 

「うっ!! ぁ……!!」

キィ――――

あまりの響きに頭が混乱しそうだ。
超音波か何かの音はやがて終息していった。

ヒュウ―― ゴォッ…ゴオォオォ…

真っ白だった視界が段々鮮明になっていくと共に、冷たい潮風が叩きつけてくる。




「…?」

冬特有のどんよりとした灰色の曇り空と…遠くに見えるのは高層ビル群?
ここが人間世界…?あれが東京…?
下を見下ろすと海面があるが、曇り空のせいもあり青というよりも黒に近い色をしていて
多くの船舶も点在している…じゃあ、これが東京湾
あの白い線の様なものが、東京湾アクアラインで…その端にあるのが、海ほたるSA…?
規模の壮大さに困惑しながらも、一つ一つ目印を見付け座標地点を確認していく。


「現地時刻、日本標準時2039年12月23日12時12分…時刻よし。
座標地点、東京湾アクアライン海ほたるSAより南西に約30km…座標よし。
天候は曇り、摂氏12℃、東の風約4m…飛行に支障なし。
高度580m、飛行速度は最低限を維持…
羽田空港を離発着する旅客機ならびに小型機・ヘリコプター各種他機に警戒する…異常接近機なし。」


出撃前に叩き込まれたチェックリストの様な言葉を次々呟いていく。
予め特別作戦用に目標がセットされてあるFlexからも自動的に音声が流れる。

ピピッ
“目標地点、東京都港区六本木ヒルズ。飛行予定ルートは、北東から北西に進路変更した後に都内に侵入。レインボーブリッジ、首都高環状線、東京タワーを目印に六本木に到達。目標突入階…確認。”

ヒュウ―― ゴォッ…ゴオォオォ…






目の前にあるのは空想なんかじゃない…本物の人間世界…本物の日本。

2039年 日本 東京』

なんて壮大なスケールなんだ。
沿岸部には所狭しと並んだ工業コンビナート群に各種施設、内陸部には所狭しと並んだ高層ビル群に
住宅街…無数の車、鉄道、船舶、航空機が縦横無尽に駆け抜け大きな人や物の流れを形成している。
そして遥か先に聳え立つ建築物…
あれが634mという自立電波塔として世界一の高さを誇る『スカイツリー』なのか。なんて壮大なんだ…
一体ここに居る人間達は何人なんだ。

あまりの規模の大きさに俺は暫く絶句していた。


「はぁっ…はぁっ…」


しかし、試練は絶句する時間も与えずに突然訪れる。


ピーッ!! ピーッ!! ピーッ!!
“後方6時方向、固定N-Spot『トウキョウ』より接近する敵機2機を確認。機種『F-3心神』、
到達予定高度約580m。到達予定速度約300km/h。接触まであと12秒、衝突の可能性約7割。”

「!!」

ピーッ!! ピーッ!! ピーッ!!
接触まであと10秒。衝突の可能性約7割。直ちに飛行高度を変更せよ!
繰り返す、直ちに飛行高度を変更せよ!!”

「…ちッ!緊急上昇――――!!」

ピピピピピピピ…
Flexに示される高度の値が一気にはねあがる。何とか数秒で高度を約610mまでに上げた。
同時に敵機2機は空をねじり開くようにして、空に生じた小さな渦を大きな渦に一気に拡げ
水蒸気らしきものを伴いながら勢いよく出現した。


ピピッ
“敵機到達。衝突は回避された。”


ザシュ―――ッ!! ザシュ―――ッ!!
ドドドドオォオォ――――――ッ!!

凄まじい轟音が、東京湾上空に響き渡る。
俺のすぐ下を通過した敵機は、直ぐに急上昇する。
急上昇から旋回して、此方の後方に接近するつもりか…何処までもしつこい連中だ。

ズザアァ―――ッ

「!?」

すると突然、遥か下の海面にとてつもない大きな船舶が何もない所から、
やはり海上をねじり開くようにして、海上に生じた小さな渦を大きな渦に一気に拡げ
水蒸気らしきものを伴いながら勢いよく出現した。見覚えのある艦だった。

「空母『あやかぜ』…!」

ピーッ!! ピーッ!! ピーッ!!
“敵機2機にロックオンされました、敵機2機にロックオンされました。”


「くそっ…ここまで来てやられてたまるか…!」


ヒュウ―――ッ!! 
直ちに戦闘飛行状態に移行し、敵機との激しい空中攻防戦になる。
トラウマになった『F-3心神』は執拗に俺の後を追ってくる。





“F-3 S7番機へ。こちらF-3 S6番機、ターゲット『SAA』を追尾中。依然明確なロックオンには至らず。”

“F-3 S6番機、了解。こちらF-3 S7番機、此方もターゲット『SAA』に対し依然明確なロックオン状態には至らず。空母『あやかぜ』より緊急入電「目標の捕捉を最優先。目標は六本木ヒルズを狙うつもりだ、都心へ入れるな。」以上。尚、空母『あやかぜ』は予定通り直ぐに現地を退く見込み。”

“F-3 S7番機、了解。こちらF-3 S6番機、我々は特別作戦任務を最後まで全うする事を宣言する。以上。”

“F-3 S6番機、了解。こちらF-3 S7番機、我々も特別作戦任務を最後まで全うする事を宣言する。以上。”




2039.12.23 PM12:12
東京国際(羽田)空港
東京航空管制塔(Tokyo Control)。

「なんだこの機影…」
「あぁ、突然現れたよな…」
「しかも何か不自然だ…室長!」
「どしたー?」

機体信号不明機です。数秒前に突然、羽田から南西方向に約40kmの東京湾上空580m付近に現れました。
速度は約300km/hと推測、北東の都心方面へ飛行している模様です。」

「突然現れたァ?何を言って…」
「…私もこの目で見ました。」
「……」

「おそらく飛行性能はジェット機相当と推測。ですが、定期・不定期ジェット旅客機ならびに
海上保安庁自衛隊・米軍が有するジェット機のいずれの機体信号にも該当しません。」

「…私有機の可能性は?」

ジェット機保有する全ての各省庁・関係機関・企業・団体・個人に、これまで登録された機体信号
全てに該当しません。」

「私も確認しましたが、確かに全て該当しませんでした。」

…こちら東京管制、応答せよ。繰り返す。こちら東京管制、応答せよ。
貴機の機体信号を直ちに明らかにせよ―――…該当機からの無線応答、ありません。これで5度目です。」

「室長…米軍横田基地から東京湾に不審機出現』の一報が防衛省ならびに自衛隊各関係機関に入りました。」

「…室長。」



「……そんな事が有り得るのか…?」



「あ…あっ…室長!大変です!」
「どうした…?」

「不審ジェット機です!新たに2機増えました!高度約580m、速度は約300km/hと推測!
機体信号、全て概存のものと一致せず!先に現れた1機を追尾している模様!

「そんな馬鹿な…!」

「米軍横田基地から第2報!東京湾に新たに不審機2機出現。計3機の機体信号は登録されてある概存のものと全て不一致、米軍はこの3機を不審機から領空侵犯機へと呼称を変更。我々は厚木・横田ならびに航空自衛隊と共に既にスクランブル発進の準備に入っている。』!!」

「…室長!」




「……非常事態宣言だ。」




「は…」


「…航空関係全機関と、この羽田を離発着する全ての航空機ならびに、
日本国政府防衛省・警察・消防・自衛隊海上保安庁・米軍に非常事態宣言の一報を入れろ。
『東京管制より通達。東京湾上空に、既存する全ての機体信号に当てはまらないジェット機
思われる不審な3機の機影を確認。現在、北東の都心方面へ飛行している模様。
東京湾上空ならびに湾岸一体に、非常事態宣言を発令。これは訓練では無い。
繰り返す、これは訓練では無い。各機関へ直ちに警戒体制を取るよう勧告。』…と。」

「はいッ!」

「羽田通信職員に全通達!急げ―!」

「情報収集に全力を挙げろ!無線を聞く全機関に最新の情報を送り続けるんだ!
迅速さ最優先だが、くれぐれも誤報にだけは気を付けろ!」

「はいッ!!」



「なんて事だ… この航空機群は… これから東京で何を起こそうって言うんだ…!」






2039.12.23 PM12:13
神奈川県横須賀市 猿島
操業中の漁船『第8福縁丸』。


「ありゃーなんですかいねぇ」
「え?」
「いやね、やたら速度の遅い戦闘機がいるように見えるんですわ」
「あー本当、フラフラしとりますね」
自衛隊の訓練機か何かかねー?」

ザシュ―――ッ!! ザシュ―――ッ!!
ドドドドオォオォ――――――ッ!!

「あら、もう2機来ましたがな」
「え?今何処から来ました?」
「さぁー?突然音がしたねぇ…」
「あ、2機急上昇した」

ズザアァ―――ッ

「ん?」
「何だ?海が…」
「退避!進路取り舵いっぱい!」
「はいっ!左だ!左回せェ!!」
「何だこりゃ…海自の護衛艦か?」
「くっ!間に合え…ッ!」
「違う…空母!?」
「進路訂正完了!衝突回避!」
「船名『あやかぜ』…」
「で、でっけぇ…これ空母ですよ」

「海自の空母にそんなのいたか…?」

「え…?」
「聞いたこと無いぞ…そんな船」
「…艦上に戦闘機が数機います、海自の空母艦にはヘリコプターしか搭載していない筈なのに…」

「なんか変だ…この艦…」





ゴオォオォ…





“ピィ――――ッ”
鳶の様な甲高い高い音が、空母から聞こえた。空母から船内周知のアナウンスが響き渡る。

“横須賀沖から離脱、総員そのまま”

すると再び、空母の姿は気体になるかのように徐々に消えていく。


オォオォ…



「消えていく…!?」
「馬鹿な!」
「全く訳が分からない… 一体何がどうなってるんだ?」
「私達は幻でも見ているんでしょうか…」




ヒュウ―――ッ!! ゴオォオォ…



「空の戦闘機達の動きも何か変だ…」
「先に現れた1機目を…残りの2機が追ってるような飛び方しとりますね。」
「空中で何度もグルグルと旋回している…訓練飛行にしては過剰すぎる。」
「……」



…ウ――――ッ!!

横須賀港を始めとする湾岸一体からサイレンの音が響き渡った。

“…こちらは第3管区海上保安部です。
只今、東京湾ならびに東京湾岸一体地域に日本国政府から国家防衛特別措置法に基づき
非常事態宣言が発令されました。航行・停泊している全ての船舶は
海上保安庁が発する無線電波118.0、118.0を受信して指示に従って下さい…繰り返します…”








2039.12.23 PM12:19

…ウ――――ッ!!

“…こちらは東京港湾道路保安局です。只今、東京湾ならびに東京湾岸一体地域に日本国政府から国家防衛特別措置法に基づき非常事態宣言が発令されました。従って、東京湾アクアライン区間は現時刻で閉鎖扱いとなりました。走行中の車はそのまま進み、海ほたるSAにいる人はその場に待機願います…繰り返します…”

「え、閉鎖?」
「なになに?どうしたん?」
「あ、テレビにも速報出た」


ピロローン ピロローン


2039.12.23 PM12:20
NTV 速報発表

東京湾上空に不審機浸入 東京湾岸一体に政府より非常事態宣言が発令』


「番組の途中ですが、ここで速報が入りましたので御伝えします。
上の字幕でも御伝えしていますように先程、防衛省日本国政府から発表された情報によりますと

“本日午後12時13分頃、東京湾上空に機体信号ならびに国籍不明の不審機3機が浸入した。
3機のうち2機は理由は不明だが、残りの1機を攻撃している模様で現在、東京湾上空で空中戦が
行われている模様。これを受け、防衛省日本国政府は国民の保護を最優先に、東京湾ならびに
東京湾岸一体地域に国家防衛特別措置法に基づき非常事態宣言を発令した。
首都圏にお住まい滞在の方は無用な移動を控え、直ちに身を守る行動を取ること!
なるべく頑丈な建物もしくは家屋・車両の最も安全な場所へ退避すること!
これは誤報では無い、これは有事である。”

との事です。繰り返し御伝えします…」







2039.12.23 PM12:22
東京都渋谷区渋谷駅ハチ公前
スクランブル交差点



“繰り返し御伝えします……避難命令の対象地域は首都圏全域。東京都、千葉県、神奈川県…”


「おいおい、マジかよ」

「戦争が始まった…?」

「戦闘機って何処の国?」
「おー怖えぇ、拡散拡散っと…」
「まさかのここで世紀末展開かよ」
「まるで映画を見てる様な状況だな」
「しゃっ!バイト中止の可能性が微レ存!?」
「バイトどころじゃねーだろコレ。」
「あ、消防車来た」


…ウ――――ッ!!

“こちらは渋谷区消防局です。先程、渋谷区に日本国政府から屋内避難命令が発令されました。
区民の皆様は頑丈な建物に避難し、直ちに身の安全を守る行動を…”


「ここもヤバくね?避難避難」
「逃げるって駅か?」
「とりあえず地下街とかだろ。」
「おっ、ナイスー。それいいな。」
「これだと公共機関も、もうじき動かなくなるぞ。」
「えー、困るわー。家帰れんやん…」
「とりあえず寒さ凌げる所や。」
「オッケー。飯は?」
「コンビニで適当に買いだめ!」
「うーっす」


ガヤガヤ…

徐々に人の流れる方向は屋内へと変わり出す。
都会となると、その流れについて行くだけでも大変なものだ。



「あっ」

「んぁ…」
「何やってんすか爺さん!屋内への避難命令が出てますよ!」
「戦争でも…おっぱじまったのか?」
「まぁそんなもんじゃないっすか!?何か東京湾で戦闘機が空中戦やってるとか何とか…
よく分かんないけど早く俺達と避難しやしょう!」
「あぁ~…恐ろしいことじゃのぅ…昔と同じじゃ…」
「昔と同じ?太平洋戦争か?爺さん」

「あぁ…東京に初めて空襲が来たときも…こんな感じじゃったわぃ……」

「……」
「…平和は尊いものじゃ…」
「爺さん一人か?足が…」
「一人じゃよ。生憎悪うてのぅ…」
「なぁ涼太、この爺さんまともに歩けないみたいだ。避難誘導を手伝ってくれないか?」
「さすが御人好しの弘樹や、オッケー任せろ」
「おぉ有り難いのぅ…」
「見掛けのチャラさだけで判断されたら困りますけん!爺さん!」

「おーい誰か!爺さんの荷物運んでくれ!」



「どうする…?運ぶ?」
「やろっか?」

「「あ~私達やりますよ!」」


「おっ、JKが手伝ってくれるみたいっすよ!ラッキーっすね爺さん!」
「おぉ…可愛らしいのぅ…」
「どうしますか~?」
「とりあえず地下に行きましょう!」
「りょーかいで~す」
「よい若者達じゃ…」



ガヤガヤ…





2039.12.23 PM12:25
東京都千代田区永田町 首相官邸
国家防衛危機管理センター設置


「あ、いま総理が到着しました。総理!何か一言!」


「え、先程、東京湾上空に不審機が浸入したとの一報を防衛省長官から説明を受けました。
先程、J-ALERTでも御伝えした通り、国民の皆さん特に首都圏にお住まいの方は
直ちに身を護る行動をお願いします。我々は全力で情報を収集し、事態終息に向け、
国民の保護を最優先に万全を期すつもりであります。以上です。」


「総理!自衛隊の動きはどうなっているんでしょうか…!総理…!」






2039.12.23 PM12:30


日本国政府防衛省からスクランブル発進の許可が出た。
横田・厚木・百里基地所属の航空機部隊は直ちにスクランブル発進せよ。”

“Roger.”

ヒュ―――…

三沢基地にも応援要請、スクランブル発進に備え待機中。
東京管制から入電、東京湾飛行中の旅客機からの報告によると目標は東京湾上空を旋回しながら
空中戦を継続している模様、3機ともジェット戦闘機と見られるとのこと。接近には十分警戒せよ。”

“Runway, fixed position. ”

“A1,A2,A3,A4 全機、定位置確認。”

“The takeoff clearance.”

“発進。”

“Roger.”


ドドドドオォオォ――――――ッ!!




2039.12.23 PM12:40
東京湾上空 高度600m付近
東京湾アクアライン海ほたるSAより南西に約10km




「――――ッ!」

相変わらず、敵であるF-3の2機は執拗に俺の後を追い攻撃を仕掛けてくる。
ひたすら旋回と上下動を繰り返し、攻撃を振り切る。東京に住む一般の人達の避難時間を憂慮し、
最大限の時間稼ぎを試みる。一般市民を巻き込む戦闘は極力避けなければならない…
本来、戦いにおいてそれは決してあってはならない事だ。
だが、現実は簡単に理想の様にはならない…言葉では分かっていても、必ず犠牲者が出る…
…それは変えられない世の摂理なのだろうか。


ピッピッピッ…

Flexの地図画面に、新たな機影が現れ始めた。おそらく米軍・航空自衛隊によるスクランブル発進機だ。

彼等に…いや、この世界の人間達に今のこの状況を完全に理解することは…おそらく不可能だろう。
何も知らない人達には異世界から現れた戦闘機』だなんて…夢にも思わない筈だ。
アスターが言っていた様に、俺もこの世界では戦闘機の形に見えているのだろう。
ストーカーの如く付いてくる後ろの2機と同じ様に…。





2039.12.23 PM12:45
東京都港区六本木ヒルズ付近


昼休憩となり外食店で昼食を取っていた洋祐は、店先のテレビ速報で緊急事態を知り
元の職場へと急いで戻る最中だった。楓から携帯端末に連絡が来る。

“洋祐さん!テレビ見ました!?”
「あぁ知ってる!事態は一刻を争う!てか、楓!その様子だと、まだ俺との記憶があるんだな!?」
“ハイ大丈夫です!まだあります!まだ向こう側の世界の私は…生きています!”
「よし…でも記憶が無くなったら、その時は分かってるな!?」

“分かってます!記憶が無くなれば私と洋祐さんとの関わりは無かった事になります…
この電話も誰にかけているかも分からなくなりますっ…でも…でもっ…私っ!信じてますから!
洋祐さんと再び話が出来て…そして今から来る異世界からの特攻者』が、この戦争の結末を変えて…
きっと!きっと、全てが終わった時は…ハッピーエンドになるんだって…!!”

「あぁ…!」

“だから…を…頼みます…っ!”

「分かってる!アイツは…今、向こう側の世界のすべてを背負って東京に来たんだ!…未来は俺達が創る!

“はいっ…!”




洋祐は六本木ヒルズ内に戻り、急いで職場のある階に昇ろうとエレベーターを呼び出す。
幸い避難指示が出された後でもエレベーターは動いていた。
だが、気のせいか上から降りてくるエレベーターはいつもより途中階で止まることが多かった。

「…っ!早く…!」

非常階段という手もあるが、とてもじゃないが俺の職場がある階までは長すぎる…使うとしたら最後の手段だ。
区から避難指示は出ているが、一方で階段から多くの人々が降りてくる等という様子は
この六本木ヒルズでは見られない。
どうやらここでは、人数規模が大きすぎるため屋内待機を優先させるようだ。




“洋祐さん!お台場からのテレビ中継によると、不審機3機の内、2機が追う形で1機が追いかけられる様子が
映し出されています。東京湾上空を旋回しながら空中戦をずっと展開している様で…”

前の1機が奴だ!おそらく人間界に来て飛行状態の姿は、視角補正効果みたいなものが
かかって戦闘機にしか見えない外観だが…間違いなくあの飛び方は"セレン"だ!」

“あれが…異世界からの特攻者』

「そう、シナリオ通りになった!」

“この戦争のシナリオの最終章…”

「あぁ、これが『東京特攻』だ…!」









“あ…”








「どうした!?」

“おそらく米軍や自衛隊と思われる別の戦闘機達が、3機に接近してる様子が
映し出されていて…停戦を呼び掛けようとしてる?

「何て無茶な事を…まだ奴等は東京湾で旋回中なのか?」

“はい、現在時刻12:54の時点ではまだ…
ですが、もう時間の問題です!いつそっちに向かってもおかしくないですよ!

「分かった!今、目標階に昇るエレベーターが来た。楓すまない、切るぞ!
無事に全てが終わるよう祈りながら静観しててくれ!全てが終わったら、また連絡する!」

“はいっ…はい!どうかご無事で!”




ポーン

エレベーターに乗り、セレンが突入するであろう目標階まで一気に昇っていく。




アイツは…セレンは…!必ずここに突入してくる…!俺の職場がある階に。
おそらく、あのFlexの精度なら俺の職場のある階も把握しているはずだ。
だとしたら、突入時に誤差があったとしても±5階以内…
セレンも分かってる筈だ、極力この世界に被害を与えたくないって事を…
俺はセレンのその善意を無駄にはしたくはない…!




刻一刻と迫る都内侵攻の瞬間。
昼の東京は緊迫した空気に包まれ、避難命令を伝えるサイレンや放送が
繰り返しあちらこちらで響き渡っていた。



曇天で肌寒い風が吹くビル街…
段々と事態の異様さに気付く人々…

『東京上空に国籍不明の領空侵犯機が突如現れた』という報道に、大半の人々が半信半疑の様子だった。

映画か何かを見ているんじゃないか…
本当に今の東京で起きている事なのか…



人々は画面に映し出される空中戦を固唾を飲んで見守っていた。






2039.12.23 PM12:57
東京湾上空 高度600m付近
お台場海浜公園より南西に約10km




“こちらは米軍ならびに日本航空自衛隊である!領空侵犯機、3機に告ぐ!
即時に身元を明らかにし、停戦せよ!繰り返す!即時に身元を明らかにし、停戦せよ!”

"This is the US military and Japan Air Self-Defense Forces! 
Pour to airspace violation 3 planes! Immediate and revealed the identity, and cease-fire! 
To repeat! Immediate and revealed the identity, and cease-fire!"



スクランブル発進した米軍・自衛隊機から次々Flexに直接通信が入ってくる。
どうやって、このFlexの受信周波数を特定したかは分からないが…
彼等は僅か短時間でそれをやってのけた…凄まじい特定能力だ。
おそらく俺以外の2機にも彼等の警告は聞こえている筈だ。
だが、俺も含めた領空侵犯機、3機は…その警告に決して応答してはならない。いや、応答出来ないのだ。
仮に応答したとしても異世界から来た存在だなんて、この世界では誰も本気で信じはしない。
そんなのは最初から分かってる事だ…
今は沈黙の領空侵犯機を演じ続けるしか、目的達成への道は残されていない。



“貴機らは日本国に登録されてある全航空機の機体番号に該当しない為、
我々は日本国領空侵犯機と見なしている。領空侵犯は国際航空法にも定められる重大違法行為である。
このまま身元を明らかにせず、領空内で飛行を続けるならば我々は貴機らに然るべき措置も
じさない構えである。異があるなら直ちに身元を明らかにせよ!空中戦の理由も述べよ!
日本国への目的があるなら、貴機らの目的は何だ!直ちに明らかにせよ!”


耳を貫くような内容の警告無線が、次々と入ってくる。




国防の最前線にいる彼等は…本気だ。
いつ撃ち落としに掛かっても全くおかしく無い。






時刻は13時前、そろそろ潮時だ。
仕掛けるなら今。






“あ!今、不審機が機首を変えました!都内です!都内方面に向かおうとしています!
繰り返します、不審機首が今、都内方面に向かおうとしています!!”




2039.12.23 PM13:00
東京湾上空 高度600m付近
お台場海浜公園より南西に約2km


領空侵犯機3機、機首を都心方面へ。










誰もが笑った。
お前は何も出来ないじゃないかと。
だから私は、彼らとは違うんだと思った。

何も出来ないから
とりあえず喰らい付いてみることにした。
どんなに蹴られようが、殴られようが、必死に喰らい付いてやった。

やがて、彼らの笑いが止まる時が来た。
私は冷たい視線を送り続けた彼らに、満面の笑みでこう言ってやった。






「将来が、楽しみだね。」







SPECIAL ATTACK APPLICANT 第72話 「首都攻防戦 =東京特攻1=」 ――――― 終
次回、第73話「目標。 =東京特攻2=」。
その一瞬を、躊躇うな。