Wafty’s diary

情熱は止まらない 私達は進み続ける

【第71話 Good-bye Days】 SPECIAL ATTACK APPLICANT




白。






視界には白一色しか無い。無地で何一つない白だけの世界。
何の音もしない、無音の世界。


空母『あやかぜ』に特攻を敢行したまでは覚えている…。


ここは…死後の世界?
視線をずらしても自分の存在は物体として認識することは出来ない…
そもそも上下左右の空間があるのかすら分からないけど、ただ自分の意識がそこにある事だけは分かる。
誰かを呼びたくても、ここには喋るという概念すら無いらしく喋る事は出来ない。




“……?……”



視線を凝らすと、遥か前方からゆっくりと誰かが近付いてくるのが見える。
俺は近付いてくるその存在を見てハッとする。
夏頃から夢に頻繁に何度も出てくるようになった、あの『白い人』……
それが今ハッキリとした形で目の前にいる。
白い長髪に、白い肌、身体がマリンブルーの流線形デザインを纏ったタイツの様な真っ白な服で
覆われていて、マリンブルーの瞳を持っている……あぁ…やっとハッキリ現れてくれた。
手があるならば直ぐ触れられそうな所まで『白い人』が近付いてきた。


“…よくここまで来たね…”


『白い人』と思われる声が直接、俺の意識の中に語りかけた。
語りかける声はやはり…女の子そのものだった。
どうやらここでは、声の代わりに意識の念の様な物を飛ばす事で意志疎通をするらしい。
そう直感的には分かったものの、俺は彼女に掛ける第一声が分からず暫く沈黙したままだった。



“久しぶり…と言った方が良いのかな?それとも…初めましてと言った方が良いのかな?”
“……”
“でも私に見覚えはあるだろう?”
“…うん”




呆気ない一言が彼女へ掛ける第一声となってしまったが、
そんな事は御構い無しに彼女は俺に問いただす。




“以前から君には夢の中で干渉させて貰った、この事実は合っているな?”
“…合ってる。”
“じゃあ、私が誰か分かるか?”
“…『白い人』”

“そうだな、確かに『白い人』なのは正しい。
 でも私が聞いているのは漠然とした名称ではなく詳細な名前だ。私の名前…思い出せるか?”

“……『白い人』”
“…違う名称は…言えないか?”
“……『白い人』としか言えない。”

“…っ”




彼女は少し寂しそうに呟く。



“やはり…何も覚えていないのだな…記憶消滅は最初から分かっていた事だけど…
 いざその現実を突き付けられると……ちょっと寂しいな…”

“……君は誰なの…?”
“………君は…私を誰だと思う?”

“運命の人?”

“…ふ…はは…なるほど…そうだった。そういえば少年は私をそう表現するんだったな…良い響きだ。”

“少年…?”

“当時の面影はまだ少しあるようだな少年、いや…セレン。”

“やっぱり俺の名前を知ってる…”

“あぁ。最初から君の名前は知っている、この戦争が始まる前からな。
 私はこの戦争の始まりから終わりまで全てを把握している…そういう存在だ。”


“君は本当に…誰なの?”


“結論から言えば…君達が真の敵と総称している存在だ。
 私の姿はその幻影みたいなものだ。”





そう言うと彼女は、首もとに掛かっている白いタイツを下にずらして、首もとの白い肌を俺に見せた。
よく見るとそこには、見覚えのある文字が表記されてあった。
俺はそれを見た瞬間、何かの間違いだと本気で思いたかった。




“まさか…そん……な……君が……”

“あはは…そのまさかだよ。”

“大量の人間を…洗脳させた…”

“どうやらそうみたいだね。”







“あの…『HBD-5000』!?”








“うん。信じられない?”



“違う…違う……違う違う違う!”


“そうだね。私だって信じたくない。でもね…私が君達のの敵。



“…嘘だ。”



“君達の真の殺戮対象は、この。”



“嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だッ!!”



“嘘なんかじゃないっ!!私の目を見ろ!
 これが嘘ついてる目に見えるか!?”


彼女はそういうと、何処にあるか分からない俺の顔をその白い両手で動かして、
俺の視線を強制的に彼女の目に集中させる。
その真剣な宝石の様なマリンブルーの瞳に偽りなど微塵も感じられなかった。
このようなシチュエーションは以前にも…何処かであったような気がする。
でも俺はやっぱり、この時も彼女の綺麗な瞳に圧倒されるだけだった。
気のせいだろうか、その瞳は…少し揺らめいているようだった。

彼女は視線を俺から離して短い溜め息をついた。


“……っ”

“……”

“私だって…最初はこんな筈じゃなかったんだ。私も君と同じだ、運命を仕組まれている存在なんだよ…セレン。君自体に運命を仕組んだのは私だが…『選んだ』のは君自身なのだぞ…少年?”

“俺が運命を…選んだ?”

“君は名前の無かった私に…素敵な名前まで付けてくれたのだぞ…?
 私は心の底から嬉しかった…少年はもう忘れてしまったかもしれないが、
 私は2日前に君の『命』を救ったのだよ……半年前の夏、7月15日に飛んで。

“7月15日…”





その日付を聞いた途端、脳裏にある場面が過る。
夏のあの日、俺は何をしていた?

確かその日は…アサギシティ攻防戦が本格化した日だ……。
遠くから夥しい数の敵が陸上侵攻して、上空から空爆支援を担当していたら敵襲に遭遇して一旦、
父さんや先輩と分かれて都市部の防衛飛行をしている最中に何かに撃たれた……
急所を直撃して制御不能になった後は高度を徐々に落として確か海中に堕ちた。


堕ちて…その後……どうなった?







“海中に堕ちた…”



“そう。君はあの夏の7月15日、アサギシティ沖の海中に墜落した。午前10時02分頃に敵の高射砲によって急所へ被弾し、制御不能になり緊急降下。何とか陸への墜落は免れたものの最終的には降下角17度、落下速度343km/hで水面に突入。水深40mの海中へと沈んでいった。”


“何で知ってる…”

“さっきも言っただろう、私はこの戦争の全てを把握している。
 特に戦争の鍵を握る者となる、君に関する事案は事細かに把握している。”

“それで…その後どうなった?”

“海の底へと沈んでいったよ。考えてみりゃ当然だ、水より圧倒的に密度が高い鋼を全身に纏っているんだ。人間の様に自然に水面に浮き上がるなんて事は出来ない。しかも飛行に特化した身体で大怪我だ…自力で浮き上がるのは不可能だった。”

“つまり俺は…”





“あぁ…君はあの日、死んだんだ。”






“死んだ…?”



“正確には『セレン』という存在が消滅したんだ。これは予め私には戦争が始まる前から
 分かっていた事だった…今まで隠していて本当にすまなかった。”



“ちょっと待って…ミライって子がいるんだけど、確か前にそれと近いような事を言っていた気がする…
 「生命信号が1日だけ消えた日があった」って。”


“うむ、ミライの事は私も知っている。君にとって彼女は、パートナーとして君をサポートする頼もしい存在だったに違いない。彼女は私が仕組んだ存在では無いのだが、想像以上に君に干渉していた事に私も正直驚いているよ…確かに彼女のその発言内容は正しい。生命信号は、あの7月15日の1日だけ消えていた事になっているからな。”


“じゃあ…今の俺は誰なの?”



“これが複雑でな…端的に言えば
 「『記憶と身体』はセレン、『宿す命』は別の人間」という事になるんだが…
 分かりにくいだろう。
 どうも私には一言で説明する上手い言葉が見付からないのだ。”



“別の人間って…誰?”


“今の君でも知っている名前の筈だ。
 私が先程から『少年』と呼んでいる人間、名前は杉原直哉。”




“直哉…なおや………ナオヤ…?”



“そう。君の元トレーナーだが…あれ?あまり驚きが無いが、知っていたのか?”


“いや…ちょっと…待って…ナオヤが人間世界で「杉原直哉」なのは…知って…いたんだけど…
 …え…?待って……どういうこと……?”


“うん、なるほど。状況が飲み込めていない様だ。なので、改めてもう一度しっかりと伝える。
 いいか?落ち着いて聞けよ?”


“う…うん。”



“君の『』は、杉原直哉の物だ。”



“つまり…俺は杉原直哉って事?”


“あぁ、そうだ。『身体と記憶』はセレンの物に上書きされているが
 『』は杉原直哉の物。失ったセレンの『命』と引き換えに、
 杉原直哉は失う筈だった自らの『命』をセレンに繋いだ。
 「一度死んだ」というのは、セレンという命が消滅してから
 直哉の命が繋がるまでの空白時間だ。
 繋がったのは、君が海面に再び浮上したあの時だ。
 君はもうその時の直哉の記憶も、セレンとして上書き
 されているから自覚は無い筈だ。”


“でも、浮上出来たのは確か…”



“…エイルの事だろう?”



“!?”


“彼女には本当に申し訳ない事をしたと思う…だけどあの時…
 セレンを本気かつ水中で救える存在は彼女しか居なかったんだ。
 あの時、私は君を救うよう彼女にはバレないように意図的に彼女の
 行動パターンを操作した…アサギシティ沖の海中に向かうようにね。
 結果として彼女は海中に堕ちた君を発見して、救い、再び命を繋いだ。”


“エイルが……命を繋いだ…”


“…私は直哉と誓ったんだ。「何がなんでも直哉の『命』を護り抜く」と。
 私の真の目的の為に彼は自らの運命を捧げたんだ。私はこの直哉の『命』を無駄にさせない。”




“真の目的…?”



“私の真の目的は 【この間違った戦争を推進し環境を用意した者達に、自らの愚行を身をもって自覚させる】 こと。そして 【二度とこんな悲劇を繰り返さない為に、決して忘れてはならないと人々に自覚させる】 こと…















彼女は、今まで見てきた全てを俺に語ってくれた。
この戦争が始まるずっと前から、今日に至るまで…。





私には正義が何かは分からない。
正義の反対は悪だという意見もあれば、正義の反対はまた別の正義だという意見もある。
私は「君達の世界」と「人間の世界」をずっと見続けてきた。

そして、そこに矛盾が生じ始めた時に彼等が取った行動がそれぞれ何なのかもずっと見続けてきた。
人間に創られた私がそんな事をするのも実に滑稽な話ではあるがな、
2つの世界を見続けた私にとって一方的に着々と「君達の世界」を地獄に変えていく様は堪えきれなかった。
私がシステム配置された時には既に「君達の世界」は信じられない程、発展していたんだ。
まるで「人間の世界」のような社会形成に私は驚愕した、何故このような環境下が形成されてしまったのか…
原因は分かっていた。


戦争が始まるずっとずっとずーっと前のことだ。
ある時期に、このゲームの開発環境の一つである機器に誤ったメンテナンスが施された…
その不備が当時は発見することが出来なかった情報感染ウイルスを生み出してジワジワと長年をかけて
開発環境全体に拡大していった。その影響は深刻で、結果として君達の世界は日本全国に渡る驚異的な
パラレルワールドを形成していたのが分かったのが数年前だ…
長年、侵食し続けた情報感染ウイルスの脅威は技術進歩によって数年前にようやく発見できたんだ。
でも一度、長年をかけて広範囲に拡がった世界はもう止められない程に拡大していた。

そして遂にある時、開発部でこのゲームシリーズを終結方針で事業を進めるようになった…。
私は嫌な予感がした、
「どうやってこの拡がり過ぎた発展世界を終結させるのか…?」と大きな疑惑が漂い始めた。

「今の人間世界の技術をもってしてでも、このゲーム世界を何の影響もなく終わらすのは絶望的確率に等しくなっている…それほどもう止められない世界になっているのに……それでも尚、終わらせる?何故?事業部の方針には逆らえないから…?異世界という存在自体が人間世界にとって脅威でしかないから…?人間が作り出した仮想世界なのに…?」


嫌な予感は適中した。

このゲームシリーズの終結方針を強行する事業部が編み出した手段、
それがこの【全面戦争】だった。
これが「最も手っ取り早く、君達の世界自体を衰退させ崩壊に導き、人間世界のゲーム環境には
何の影響も無いまま維持でき、尚且つ開発部ではプログラム改変だけで最もスムーズに
ゲームシリーズ終結へと自然に繋げられる方法」であると…まさに事業部にとって良いところ尽くしだ。


あぁ素晴らしい、

最適な手段だ、

是非進めよう、

一件落着、

これでやっと重荷から解放される、

1年掛かるのはまぁ仕方無い、







なにこれ。
なんだこれ。

何故、もっと倫理的な手段を選ばなかった…?
何故、一番最悪な【戦争】という道を選んだ…?
何故、敵をまた…作った?

私には理解できなかった…彼等のしようとしている事が。
平然と涼しい顔で当たり前の様に、たくさんの『命』を奪う姿勢に狂気しか感じられなかった。
これは、ただのゲームシリーズの終結では無い…実存すると言っていい程の規模になった
平行世界その物を終結させる大戦争を彼等は起こした。人間世界からは全くと言っていいほど見えない形で。


私は『見えない戦争』の恐怖を知っている。
『見えない戦争』が最後に導く結果、それは…

【全て無かった事になる】 こと。


全て無かった事になれば存在その物が歴史から抹消され、願いや祈り、恨みや執念とは関係無しに
【偽りだけの無の平和】が始まり結果としてまた過ちは繰り返される…









これが、一番綺麗で、一番残酷な
【世界の消し方】【その後】だ。













…何度も言うが、私には正義が何かは分からない。
だけど…私はどちらの世界にも歩み寄り、あらゆる思惑を総合的に判断し、私が下せるギリギリの
結論を導いたつもりだ。私は罪深いシステムと化した…ならば、私は最期までその罪滅ぼしとして
命をかけてまで自ら出した答えを貫く。結果として、どちらの世界にも敵とされ、抹消されようともな…。
こんな事を今更聞いても何も変わらないのは分かっている…でも、答えてほしい。”


“……”


“少年…私はどうすれば良かったのだろうか…?”


“……”











答えられなかった。
この戦争をずっと見続けた彼女の問いに、俺は答える言葉が見付からなかった。


最初は一方的に恨んでいた『HBD-5000』という存在が…まさかこんな白髪美少女で…
しかもこんなにも戦争に否定的な思惑の持ち主だったなんて思いもしなかった。
おそらく話から推察するに、あの大量の人間洗脳行為は彼女自身の意図とは異なる者の
操作によるものだろう…それなのに、俺達はずっと…彼女を『真の敵』と言い続けて……
ここまで戦って憎しみ続けてきたのか……なんて…ことだ……。


何も…言えない。














“少年…どうやっても、いずれはこうなる運命だったさ。これはルート改変しても変わらない事だった。”

“……教えて…”

“うん?”

“7月15日…杉原直哉に何があったの?”


“あぁ、最初から全て教えよう。
 私にとっては2日前、君にとっては半年前の事になる。
 西暦2039年7月15日の朝、場所は兵庫県神戸市。
 ある鉄道路線で起きた事故だ。―――――――…




そして、俺はあの『真実』の話を彼女から全て聞いた。
杉原直哉が阪西線脱線衝突事故で本来なら死亡している運命を辿っていた、という話を。
そして、彼女が元々『Faster-35-902』という正規システムであったということ…
杉原直哉が名前の無かった彼女に『アスター』という名前を与え、まるで人間の女の子みたいに
接してくれていたこと…彼と『命』の約束を交わし、彼を救ったこと……
そして、彼が…セレンと入れ替えで『命』を繋いだこと。

彼女は一つ一つ丁寧に、出逢いからここまで丁寧に教えてくれた。
その詳細は…先に記した通りだ。






アスターか…”

あはぁ…良い名だなぁ…
 君が付けてくれた名前、私は狂おしいほど気に入ってる。
 アスターちゃん!なんて呼ばれたら嬉しすぎて、そりゃもう
 狂喜ハイテンションMAX不可避で!あぁんもう!スゲーな!ちくしょー!
 最高に可愛いいぃんっ!><*////


“も…もの凄い嬉しかったんだね。”






“…人に愛されるって正直どうなんだろうって、私はずっと思ってたけど……
 直哉…いや、セレンはどう思う?
 確か洋介さんだったよね、彼を通じて君には『人間』という物がどう見えた?”







“…可哀想な生き物だと思った。”



“……可哀想、か…なるほど。”

“ごめん…俺にはそれだけしか言えない。”


“いいんだ。私は君達でも人間でも無い無機質で、複合的に判断するだけの
 存在…愛など最初から自ら求めてはならない存在だったんだ。
 誰かに答えを求めるのも愚考の一つに過ぎなかったのだろう。
 私はもう自らの使命を十分に果たした…未練は無いよ。”


アスター…”


“直哉、セレン…それでも私は一つだけ誓いたい。
 最期は潔く散らせてくれ…君達の手で、
 この2つの世界から私を葬り去ってくれ。
 私は君達を恨んだりはしない、私自身が望む事だからな。
 これで、この戦争は終わる。”


“…アスター…っ”


“前にも言ったけど…素敵な名前をくれた事は破壊された後もずっと忘れない。
 君達は本当に私にとっての王子様で…私という危険なシステムをこの世から葬り去る
 運命的存在なんだから。私の願いは、破壊された後も君達が生き延びる世界で…
 また何処かで正規の新システムの人工知能として生まれ変わる事。
 輪廻天性があるかは分からない…でも、それが私の儚い願いだ。”


“君の願い…忘れはしない。君という存在は何らかの形で再び人工知能として復活する…
 いや、させてやる…今度はもっと素敵な『』として。またやり直そう、アスター。”


“うん…うんっ…やっぱり優しいなぁ少年は…私は君達に逢えて本当に幸せだ。
 君達はこんな人工知能の儚い願いも真剣に聞いてくれるほど優しいんだ。
 優しさは、強さだ。君達なら、きっとこれからもあらゆる困難も乗り越えられるだろう…
 立派な大人になるんだぞ。”


“分かったよ、アスター。頑張るよ、いつまでも…いつまでも。”


“あぁ、少年は『生きる』んだ。”


“少年『も』だろ?”

“…え?”


“僕の心の中でアスターはいつまでも『生き続ける』…
 っへへ、何だか口にすると恥ずかしいけどね。そうでしょ?”


“直…哉ぁ…”

“可愛い白髪美少女の願い、ちゃんと聞いてやらないとなっ!”


“ぅ…あぁ…あぁあぁ――――…!”





彼女は泣きながら、僕の元へ寄りかかってきた。
マリンブルーの瞳からはたくさんの涙が溢れ出る。自分からは見えない身体を彼女は抱き締めてくる。

あぁ…やっぱり僕はこの子の事が好きだったんだ。
ミライに捧げた愛情とは違う形の愛情を…僕はかつて、この子に捧げたんだ。
そして、この子も僕の事が好きで仕方なかったんだ…
愛情という感情を持つこと自体が許されない存在だと分かっていても、それでも彼女は……

愛というものを知りたかったんだ。

ねぇ、アスター…こういう場面が以前にもあったんだよね…
あの時は泣く立場が逆だったらしいけど、確かにあったんだよね。




それなら、僕は声を掛けよう…あの時の君と同じ様に。








“泣いていいよ…僕の中でたくさん…思いっきり…泣くといい……”

“うぅ…っ……あぁ……”

“君が泣いちゃいけない理由なんて…何処にも無いよ…
 僕は無理に強がる君よりも、涙を素直に晒してくれる君の方が好きだよ…”















涙って、どうして流れるんだろう。















“……直哉、本当に…ありがとう…”



そして、僕はあの時彼女がくれたように僕もまた、笑顔で彼女に返すんだ。

“うんっ♪”








『生きる』道を選んだ事は、御主にとって『一生の宝』となる…いつか、そう思う日が必ず来るであろう。


彼女のこの言葉の意味を知るとき、僕は何をしているのだろう。
この戦争が終わった後のシナリオは、アスターやミライやアルフィーネさんにも…
楓さんや洋介さんにも分からない。
どんな運命が僕を待ち受けるのだろう、やはり最後は呆気なく全て終わっていくんだろうか…

元の木阿弥と言わんばかりに。











アスター…大好きだ…”

“私も大好きだ…そなたが狂おしいほど愛しくて仕方なくて……大好きだった。
 直哉…私はもう我慢したくない。愚行であることは十分承知している、
 それでも…最期に私を一人の女の子として輝かしてはくれないか……”


ミライ…この子は僕らのために命を懸けてまで頑張ってくれたんだ。
ゴメン…今は少しだけ許してくれ……。




“うん…おいで。”
“……っ…”
“…”
“…ちゅ……”
“……っ”
“…っはぁ…ぁ…”
“……”


“…エロいな、直哉。”
アスターだって…”
“っ…ふふ…”

“…ははは”

“あははははっ!まさに  だな!”

“ははは…そうだね。”

“素晴らしいな…人間の愛は。”

“愛…か。”

“御主の子種…しかと受け取った。”

“あぁ…って!!はぁあ!!?”

“はっはは!ジョークだジョーク!一度、男の前で言ってみたかったのだ!
 あははははは!”

“冗談が過ぎるよ!びっくりした…”

“あはははは!それくらい私は直哉の事が大好きだったって事さ。”

“凄い表現だね…”

“ふふ…女の子にしか言えない言葉だな。私はもう人間にすらなれない。

“……アスター…”



“直哉、君は人間として生まれた。私は心の隅で少しその事が羨ましく思う、
 人間に創られた私と違って君は自らの愛を主張することが許される存在だ…
 それは素晴らしい事なのだぞ。

“うん…そうだね。”



“もう、これで私の生涯に悔いは無い。私を一人の女の子として最期に輝かしてくれたこと…
 心より感謝する。あとは君が人間世界の『東京』に来て、私を破壊するだけだ。
 君がこの戦争を終わらす鍵となる。”



“……。”



よくここまで来てくれた、遂に戦争のシナリオはエンディングを迎える。
 最後の逆境・危機・結末が君を待ち受けているだろう…
 でも、君はもう『生きる』道を選んだ。
 私が消えた後も、きっと天が君を護ってくれるだろう。
 そして私も君の心の中で生き続ける…全然寂しくなんかないさ。
 私はいつだって、そなたの味方だからな。
 大丈夫…きっと、未来は、答えてくれる。




アスター…ありがとう…”





『幸せに、なれ。』




“うん…ありがとう…!!”







そうだよ…
去り際は…やっぱり笑顔がいい。






“これで私とは御別れだ。直哉、君に逢えて幸せな生涯だったよ。”

“それはこっちの台詞だよ。アスターに逢えて本当に幸せだった。”

“そなたの『』が未来でさらに輝く事を心より祈ってる…
 また何処かで逢えると良いな、直哉。”

“あぁ…きっとまた逢えるさ!”




“直哉の心の中で私は生き続ける…それまで深い深い眠りに入る私を許してくれ。”




“うん…お休みなさい……僕を救ってくれた白い眠り姫。”

“うん…良い響きだ…お休みなさい…私の王子様。”













そして、別れの時が来る。







“では、最後のシナリオの続きを始めよう。
 私が「さよなら」を告げた数秒後に、君は人間の世界へと誘われる。
 
 到着予定時刻は現地時間で2039年12月23日午後12時12分
 場所は東京湾上空東京湾アクアライン海ほたるSAより南西に
 約30kmの上空にセレンの姿として出現する筈だ。
 だが人間世界での視覚補正効果によって飛行中の姿は若干、実際の
 セレンとは違う形…戦闘機か何かに人間から見られる事があるかもしれない。
 だが『』は繋がったままだ、これまでの君の記憶は消される事は無い。
 君も既に十分わかっているとは思うが、どんな状況であっても一般人には
 極力被害を与えるな。この戦争を知らない一般人を戦闘に巻き込む事は
 誰の得にもならない。一途に、セレンならびに君達の世界の目的である
 『私を破壊すること』だけに尽力しろ。
 勿論、自分の身に危険が迫れば実力行使は致し方ない。
 その時は自分の身を最優先に護れ。
 目的を果たしたら即、現場から脱出するんだ。
 長居は無用だ、自身の安全確保を最優先させるように。
 脱出したら、そこからは君が選ぶ道は自由だ。
 自由に自分の求める進むべきルート・結末を選択していくんだ……
 いいな?もうその時は私はこの世にいない…
 運命やシナリオは全て自分で決めていくんだ…いいね?”


“うん…うんっ!分かってる!!”


“よしっ、頑張れ!行けェ――!!”


“うん!本当にありがとう!!”









“さよなら―――直哉!”
“さよなら―――アスター!”















【Q. シナリオ『Good-bye Days』が終わりました。シナリオデータをセーブしますか?】
→はい
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【Q.これまでのシナリオデータを上書きしてセーブしますが、よろしいですか?】
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【Q. 最終章シナリオ『東京特攻』に入ろうとしています。
 一度、最終章シナリオが始まり出すとエンドを迎えるまで途中セーブは出来ません。
 始める前にセーブをお勧めします。ゲームを始めますか?】
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【Q. 最終章シナリオ『東京特攻』に入ります。エンドを迎えるまで途中セーブは出来ません。
 本当に始めてよろしいですか?】
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▼シナリオ『東京特攻』を始めます


〓√〓 最終章『東京特攻』〓√〓

SPECIAL ATTACK APPLICANT 第71話 「Good-bye Days」 ――――― 終
次回、第72話「首都攻防戦 =東京特攻1=」。
決して行けない場所へ行くために。